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2024年08月27日

金鳥の夏 死霊の夏

『最近の記録には存在しなかったほどの激しく不気味な暑気(しょき)が長く続き、そのため自然的にも社会的にも不吉な事件があいついで起こった夏も終わりのある日の午前、とある精神病院の古風な正門をひとりの痩(や)せぎすな長身の青年が通り過ぎた。』(原文の細かい言い回しは自分なりに少し変えながらお届けしています。以下同様。)

近年すっかり常態化した過酷な夏も終盤になると必ず思い浮かぶのが、この一節ということで、

埴谷雄高(はにや ゆたか、1909〜1997)の代表作である超難解・超長編小説『死霊(しれい)』の最初に登場するこの一節・・・猛烈に長く、猛烈に難解な小説なんで、最後まで読み切った記憶も無ければ、内容もぜんぜん分かってない・・・けど、出だしのこの一節だけはその夏が暑いほど鮮明に思い浮かんで来る、

かつては書籍で所有したこともありましたが、かさばるし重たいし読まないしで手放(ばな)し…数年前にKindleで買い直したものの、それもほとんど読めてないという、

分かるヒトも年々おらんようになってるけど、いよいよ難解ホークスな小説や、

でも、つぎの一節なんかロマンチックといいますか、集団が個人をひたすら死に追い詰める北海道旭川市に代表される低次元で豚箱みたいなイジメとはまったく次元が異なる気高い(けだかい)わがままというか、こんな行き過ぎた高校生活を許された学生がもし居たとしたら、生徒だけでなくそれを許す学校当局もメチャかっこ良いというか、

たしかに、こんな行き過ぎた高校生活、あこがれるなあ、

『すべての寮生の義務として、寮以外で寝起きすることは許されなかったが、長期間におよぶ説明しがたい執着(しゅうちゃく)の結果、黒川建吉は小図書館の一室にひとり住みこむ許可を得たのであった。彼はどうしようもない変人と見なされていた。』

規律を重んじる高校の寮生活にあって、裏で陰湿なイジメが流行る(はやる)わけでもなく、ひとりの超個性的な学生が変人であることをひたすら貫(つらぬ)いて寮の規律を破りつづけ、それが話し合いの結果ゆるされてしまうスゴさ、学校当局の懐(ふところ)の深さ、

どうせ変人で行くなら、ついに学校当局も折れてしまうような、こんなスケールのデカい変人でありたいもんやなあ、

じっさい、学生寮にあってこんなわがままは許されないとして、学校当局は退学の決定を下そうとしますが、それに猛抗議したのが、この寮を監督する高校教師「青虫(カタピラー)」、

そのあだ名からも分かるように、この教師もそうとうな変わり者で、しかも生徒の黒川がここで暮らすと言い出した部屋は、カタピラーが自身の趣味で集めた本ばかりが並ぶ小図書館だったもんで、結果、生徒の願いを徹底的に支持する側にまわり、

『この小図書館にそなえつけられた書籍の大半は、青虫(カタピラー)の異常な努力によって収集されたものであって、その片寄った趣味性により、広範囲なバランスは取れていなかったが、ある一定の専門事項(じこう)については、大学の図書館よりも優(すぐ)れた希少本(きしょうぼん=ごく少数しか存在しない価値の高い本)を備えているほどだった。』

決して多くはないだろう自身の給料を毎月けずりながら苦労して集めた本を、メチャ気に入ってくれて、1日じゅう読みふけってくれる学生がいたら、なんとしてもこの学生を応援したくなりますね、

自分の中学時代にも少し似たような学生がいて、ほとんど不登校やったけど、理科の教師の控え室だけには私服でちょくちょく出入りが許されていて、その教師とだけは友人みたいな感じで話し込んだりしてた。聞くところによると蝶(ちょう)の採集とかコレクションなどに、独特の鋭い才能を示(しめ)す天才肌の生徒だったらしい、

不登校の生徒でも、気に入った教師の控え室には出入り自由とかいう中学校が、ひとつの町にひとつでもあれば、そりゃずいぶん暮らしやすい社会になりそうすね、

というわけで、変人の黒川健吉は特別に司書(ししょ=図書館職員)助手という特別な役割を与えられ、学生寮から小図書館へ移り住み、いよいよ読書沼へどっぷりつかる暮らしへ、

『こうして黒川健吉は、かつて在学中の生徒には無かった司書助手という役目をあたえられ、小図書館内での寝起きを正式に認められたのである。しかも学生寮のような消灯時間が無かったので、黒川はいよいよ徹底的な読書家となり、ほとんど毎日、明け方近くまで起きていた。』

けど、こうして拾(ひろ)い読みすると、それほど難解な小説にも思えないような・・・言い回しこそ今に無い難しさはありますけど、

そりゃそうやけど、たとえばこの文章の意味とか、わかるか?

『悪意と深淵(しんえん)の間をさまよいながら宇宙のごとく私語する死霊たち』

前後の文章も無くこれだけポツンと書かれても、理解のしようもありませんね。

これが本編が始まる直前に書かれた一文、しかもその前には、さらに長々とわけの分からんことがぎっしり書きこまれてるんや、

具体的にどんな文章すか、

たとえば、ごく一部やけど、こんな感じ、

『ついに言葉にならない何かが、トゲのような感嘆詞となって私から吐き出される。すなわち、ach(アハ)とpfui(プフイ)! 私は魂から迸(ほとばし)るこのふたつの感情のみを乱用する。』

『トゲのような感嘆詞』ですか・・・ここまでムヅい言い回しをされると、かえって理解不能ですがすがしいような、

ともあれ、この夏も『死霊(しれい)』の出だしのような不気味な猛暑が連日続いたけど、何やかんやでそんな夏も終わりが近づいて、日本列島に低速接近中の大型台風が最後の山場になりそうや、

ちなみにこの夏、埴谷雄高(はにや ゆたか)の『死霊(しれい)』を夏休みの読書感想文として学校に提出する学生は何人いてますかね、

どうかなあ、ひとりでも居てほしいけど、なんなら小学5年の天才女子とか、お盆の里帰りで祖父の本棚から偶然見つけて読み始めた中2の引きこもりとか、心の底からこの小説に引き込まれ、長文の読書感想文書いてたら、アホのオッチャンとしてもうれしいかぎりや、

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