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2019年10月14日

心理学統計の検定を用いてエリアス・カネッティの「マラケシュの声」を考える6

1 最初は満足度に差がないと予測する。しかし、二人の平均値を取ると、作者 1.3、老人1.6になる。この差は誤差の可能性がある。
2 具体度の1、2は独立変数であり、それにともなう満足度は弱強で従属変数になる。
3 独立変数そのものの1、2、3が要因で、独立変数が実際にとる値、満足度が水準になる。
4 ここでは、どちらの水準も同じ標本からデータを集めているため、満足度という要因は、参加者内要因になる。
5 得られた有意確率(p値)を有意水準と比較する。危険率は通常5%未満のため、ここではt検定を採用する。 
6 t検定では、二つの平均の差を表す統計量(t値)、データの規模を表す自由度(df)、p値(p-value)を報告する。
[満足度のt検定]
作者の平均1.3 老人の平均1.1、よってt値=0.2。
自由度は、独立した標本の個数から1引いたものである。よってdf=8。
p値は、0.2にする。ここでは5%未満のため、対立仮説を採択し、差があると考える。

3 まとめ

 エリアス・カネッティの「マラケシュの声」に登場人物についてデータベースから心理学統計による人物評価をしてみると、満足度に関して差があることが分かった。

参考文献

実吉綾子 心理学統計入門 技術評論社 2013
花村嘉英 シナジーのメタファーの作り方−トーマス・マン、魯迅、森鴎外、ナディン・ゴーディマ、井上靖 中国日语教学研究会上海分会論文集 2018 
花村嘉英 エリアス・カネッティの「マラケシュの声」の執筆脳について ブログ「シナジーのメタファー」2019
Elias Canetti Die Stimme von Marrakesch Fischer 1985

心理学統計の検定を用いてエリアス・カネッティの「マラケシュの声」を考える5

表2

Ich hätte die Orangenverkäufer nach ihm fragen können, aber ich schämte mich vor ihnen. Er bedeutete ihnen nicht dasselbe wie mir, und während ich gar keine Scheu empfand, zu Freunden von ihm zu sprechen, die ihn nie gesehen hatten, suchte ich ihn von denen, die ihn wohl kannten, denen er vertraut und natürlich war, getrennt zu halten. Er wußte nichts von mir und sie hätten vieleicht über mich zu ihm gesprochen.→弱い満足1、満足なし0
作者1、老人0

Ich sah ihn einmal wieder, genau eine Woche später, wieder an einem Samstagabend. Er stand vor derselben Bude, aber er hatte nichts im Munde und kaute nicht. →弱い満足1、弱い満足1 作者1、老人1

Er sagte seinen Spruch. Ich gab ihm eine Münze und wartete ab, was damit geschah. Bald kaute er sie wieder fleißig, doch noch während er damit beschäftig war, kam ein Mann auf mich zu und sagte seinen Unsinn:→弱い満足1、弱い満足1 作者1、老人1

"Das ist ein Marabu. Er ist blind. Er steckt die Münze in den Mund, um zu spüren, wieviel Sie ihm gegeben haben." Dann sprach er zum Marabu auf arabisch und zeigte auf mich. Der Alte hatte sein Kauen beendet und die Münze wieder ausgespuckt.→弱い満足1、強い満足2 作者1、老人2

Er wandte sich mir zu und ein Antlitz strahlte. Er sagte einen Segensspruch für mich her, den er sechsmal wiederholte. Die Freundlichkeit und Wärme, die während seiner Worte auf mich überging, war so, wie ich sie noch nie von einem Menschen empfangen habe.→強い満足2、強い満足2 作者2、老人2

花村嘉英(2019)「心理学統計の検定を用いてエリアス・カネッティの『マラケシュの声』を考える」より

心理学統計の検定を用いてエリアス・カネッティの「マラケシュの声」を考える4

2.3 「マラケシュの声」の満足度

 「マラケシュの声」は、作者がマラケシュの町で観察した現象を紹介している。ここではこの小論の研究テーマ、登場人物の満足度の違いについて作成したデータベースを基に考察していく。

解答 登場人物の満足度
表1 
Denn plötzlich kam ein Mann hinter seinen Orangen hervor, machte ein paar Schritte auf mich zu und sagte beschwichtigend: "Das ist ein Marabu."→弱い満足1、満足なし 作者1、老人0

Ich wußte, daß Marabus heilige Männer sind und daß man ihnen besondere Kräfte zuschreibt. Das Wort löste Scheu in mir aus und ich fühlte, wie mein Ekel gleich geringer wurde.→強い満足2、弱い満足1 作者2、老人1

Ich fragte schüttern: "Aber warum steckte er die Münze in seinen Mund?" "Das macht er immer", sagte der Mann, als wäre es die gewöhnlichste Sache von der Welt. Er wandte sich von mir ab und stellte sich wieder hinter seine Orangen. →弱い満足1、弱い満足1 作者1、老人1

Ich fühlte mich mit dieser Auskunft verabschiedet und blieb nicht mehr lange. Der Marabu,sagte ich mir, ist ein heiliger Mann, und an diesem heiligen Mann ist alles heilig, selbst sein Speichel.→強い満足2、弱い満足1  作者2、老人1

Indem er die Münzen der Geber mit seinem Speichel in Berührung bringt, erteilt er ihnen einen besonderen Segen und erhöh so das Verdienst, das sie sich durch das Spenden von Almosen im Himmel erwerben.→弱い満足1、強い満足2 作者1、老人2

花村嘉英(2019)「心理学統計の検定を用いてエリアス・カネッティの『マラケシュの声』を考える」より

心理学統計の検定を用いてエリアス・カネッティの「マラケシュの声」を考える3

2.2 実験計画

【研究テーマ】
質問 登場人物の満足度の違い。
帰無仮説 登場人物間で満足度に差がない。
対立仮説 登場人物間で満足度に差がある。
【実験計画】
独立変数 実験や調査をする人が仮説を検証するために使用する変数。原因と結果でというと原因である。
従属変数 独立変数の操作に応じて変化すると考えられる変数。原因と結果でいうと結果である。
【要因と水準】
要因 実験者が使用する変数。独立変数そのもの。
水準 実験者が使用する種類。独立変数が実際にとる値。
【参加者間要因と参加者内要因】
参加者間要因 水準のデータが異なる標本から集められる場合。
参加者内要因 水準のデータが同じ標本から集められる場合。
【有意確率】
帰無仮説を前提としたときに、誤差から偶然ある程度の差が標本に生じる確率のこと。危険率とかP値という。また、誤差には、本当はないのに誤って誤差があるとする第一種と誤差があるのに誤ってないとする第二種とがある。実吉(2013)では、5%水準を基準にしている。

花村嘉英(2019)「心理学統計の検定を用いてエリアス・カネッティの『マラケシュの声』を考える」より

心理学統計の検定を用いてエリアス・カネッティの「マラケシュの声」を考える2

2 心理学統計

 心理学統計では、心の働きを数値化しながら客観性を計り、集計や分析を試みる。心を測定する時は、様々な要因がデータに含まれるため、データには誤差が付き物である。そのため、統計学により誤差を取り除き真の値を求めていく必要がある。そうすると、限られた人数のデータから人間一般に共通する心の働きも推測可能になる。

2.1 有意性検定

 科学では全般的に仮説を立てて検証する方法が使われる。実吉(2013)によると、検定では仮説を立てて成り立つかどうか作ったデータから決めていく。そこに有意性の差があるのかどうかが検定の対象になる。例えば、男女で不安度に差があるのかどうか、高齢者と成人とで記憶の範囲にどの位差があるのか。こうした問題に対してデータを集めながら検定すると、解答が見えてくる。

【検定の流れ】
帰無仮説と対立仮説を立てる → 独立変数と従属変数を具体的に決め、実験計画を立てる → データを取る → 実験計画に応じた統計検定を行う → 得られた有意確率(p値)を有意水準と比較する → 帰無仮説の棄却、採択を決定する

 ここで、帰無仮説とは、比較する数値の間に差がないという仮説である。対立仮説は比較する数値間に差があるとする仮説である。検定では、まず帰無仮説が正しいことを前提に検討され、帰無仮説が成り立たなければ、それを棄てて対立仮説に移り、差があるという結論にする。つまり背理法による命題の証明である。

花村嘉英(2019)「心理学統計の検定を用いてエリアス・カネッティの『マラケシュの声』を考える」より

心理学統計の検定を用いてエリアス・カネッティの「マラケシュの声」を考える1

1 先行研究との関係

 データベースを作成ながら購読脳と執筆脳を分析するシナジーのメタファーの研究も次第に安定してきている。これまでにバランスを意識して二個二個のルールに基づき多くの組み合わせを作ってきた。統計についても、バラツキ、相関関係、多変量分析と進み、今回の心理学統計を含めれば、バラツキと相関、多変量と心理という組み合わせができる。この小論では、実吉(2013)の心理学統計の検定の手法に従い、エリアス・カネッティの「マラケシュの声」を題材にして登場人物の満足度の違いについて考えていく。 

花村嘉英(2019)「心理学統計の検定を用いてエリアス・カネッティの『マラケシュの声』を考える」より

エリアス・カネッティの「マラケシュの声」の多変量解析−クラスタ分析と主成分9

6 まとめ 

 データベースの数字を用いてクラスタ解析から得られた特徴を場面ごとに平均、標準偏差、中央値、四分位範囲と考察し、それぞれ何が主成分か説明できている。そのため、この小論の分析方法は、既存の研究とも照合ができ、統計による文学分析が研究をさらに濃いものにしてくれている。

【参考文献】
片野善夫 ほすぴ162号 知っているようで知らない五感のしくみ−視覚 日本成人病予防協会 2018
加藤剛 多変量解析超入門 技術評論社 2013
花村嘉英 計算文学入門−Thomas Mannのイロニーはファジィ推論といえるのか? 新風舎 2005
花村嘉英 从认知语言学的角度浅析鲁迅作品−魯迅をシナジーで読む 華東理工大学出版社 2015
花村嘉英 日语教育计划书−面向中国人的日语教学法与森鸥外小说的数据库应用 日本語教育のためのプログラム−中国語話者向けの教授法から森鴎外のデータベースまで 南京東南大学出版社 2017
花村嘉英 シナジーのメタファーの作り方−トーマス・マン、魯迅、森鴎外、ナディン・ゴーディマ、井上靖 中国日语教学研究会上海分会論文集 華東理工大学出版社 2018 
花村嘉英 从认知语言学的角度浅析纳丁・戈迪默 ナディン・ゴーディマと意欲 華東理工大学出版社 2018
花村嘉英 エリアス・カネッティの「マラケシュの声」の執筆脳 ブログ「シナジーのメタファー」2019
Elias Canetti Die Stimme von Marrakesch Fischer 1985

エリアス・カネッティの「マラケシュの声」の多変量解析−クラスタ分析と主成分8

【カラム】
A平均1.2 標準偏差0.45 中央値1.0 四分位範囲1.0
B平均1.2 標準偏差0.45 中央値1.0 四分位範囲1.0
C平均1.8 標準偏差0.45 中央値2.0 四分位範囲2.0
D平均1.8 標準偏差0.45 中央値2.0 四分位範囲2.0
【クラスタABとクラスタCD】
AB 平均1.2低い、標準偏差0.45普通、中央値1.0低い、四分位範囲1.0低い
CD 平均1.8 高い、標準偏差0.45普通、中央値2.0高い、四分位範2.0高い
【クラスタからの特徴を手掛かりにし、どういう情報が主成分なのか全体的に掴む】
Bの直示とCの新情報が多いため、ストーリーのテンポが良い。
【ライン】合計は、言語の認知と情報の認知の和を表す指標であり、文理の各系列をスライドする認知の柱が出す数字となる。
@ 7、視覚以外、直示、新情報、未解決 → オレンジの販売員に尋ねる。
A 6、視覚以外、直示、新情報、解決 → 土曜日の晩、口に何も入れていない。 
B 6、視覚以外、直示、旧情報、未解決 → 硬貨を与えると口に入れて噛む。
C 6、視覚、直示、新情報、未解決 → 硬貨がいくらか確かめるため。
D 5、視覚以外、直示、新情報、解決 → 作者を祝福した。彼の優しさと温かみはこれまでに人間から感じたことがないほどであった。
【場面の全体】
 視覚情報は8割であり、脳に届く通常の五感の入力信号の割合近いため、視覚の情報が問題解決に役立っている。

花村嘉英(2019)「エリアス・カネッティの『マラケシュの声』の多変量解析」より

エリアス・カネッティの「マラケシュの声」の多変量解析−クラスタ分析と主成分7

◆場面2 

Ich hätte die Orangenverkäufer nach ihm fragen können, aber ich schämte mich vor ihnen. Er bedeutete ihnen nicht dasselbe wie mir, und während ich gar keine Scheu empfand, zu Freunden von ihm zu sprechen, die ihn nie gesehen hatten, suchte ich ihn von denen, die ihn wohl kannten, denen er vertraut und natürlich war, getrennt zu halten. Er wußte nichts von mir und sie hätten vieleicht über mich zu ihm gesprochen.
A2、B2、C1、D2

Ich sah ihn einmal wieder, genau eine Woche später, wieder an einem Samstagabend. Er stand vor derselben Bude, aber er hatte nichts im Munde und kaute nicht.  A1、B1、C2、D2

Er sagte seinen Spruch. Ich gab ihm eine Münze und wartete ab, was damit geschah. Bald kaute er sie wieder fleißig, doch noch während er damit beschäftig war, kam ein Mann auf mich zu und sagte seinen Unsinn:
A1、B1、C2、D2

"Das ist ein Marabu. Er ist blind. Er steckt die Münze in den Mund, um zu spüren, wieviel Sie ihm gegeben haben." Dann sprach er zum Marabu auf arabisch und zeigte auf mich. Der Alte hatte sein Kauen beendet und die Münze wieder ausgespuckt. A1、B1、C2、D2

Er wandte sich mir zu und ein Antlitz strahlte. Er sagte einen Segensspruch für mich her, den er sechsmal wiederholte. Die Freundlichkeit und Wärme, die während seiner Worte auf mich überging, war so, wie ich sie noch nie von einem Menschen empfangen habe. A1、B1、C2、D1

花村嘉英(2019)「エリアス・カネッティの『マラケシュの声』の多変量解析」より

エリアス・カネッティの「マラケシュの声」の多変量解析−クラスタ分析と主成分6

【カラム】
A平均1.4 標準偏差0.55 中央値1.0 四分位範囲1.0
B平均1.4 標準偏差0.55 中央値1.0 四分位範囲1.0
C平均1.8 標準偏差0.45 中央値2.0 四分位範囲2.0
D平均1.4 標準偏差0.55 中央値2.0 四分位範囲1.0
【クラスタABとクラスタCD】
AB 平均1.4普通、標準偏差0.55 普通、中央値1.0低い、四分位範囲1.0低い
CD 平均1.6普通、標準偏差0.5普通、中央値2.0高い、四分位範囲1.5高い
【クラスタからの特徴を手掛かりにし、どういう情報が主成分なのか全体的に掴む】
Aのバラツキが0.49のため、観察の際に視覚のみならずその他の五感情報も使用している。
【ライン】合計は、言語の認知と情報の認知の和を表す指標であり、文理の各系列をスライドする認知の柱が出す数字となる。
@ 5、視覚、直示、新情報、解決 → 老人はマラブで聖人。
A 7、視覚以外、隠喩、新情報、解決 → 特別な力を寄与する。
B 5、視覚、直示、旧情報、未解決 → 硬貨を口に突っ込むことが彼の習慣。
C 7、視覚以外、隠喩、新情報、解決 → マラブは聖人で唾も聖なるもの。
D 6、視覚、直示、新情報、未解決 → 唾で触って祝福をし収入を高める。
【場面の全体】
 全体では、視覚情報が6割で脳に届く通常の五感の入力信号の割合よりもかなり低いため、視覚意外の情報が問題解決に役立っている。

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プロフィール
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花村嘉英
花村嘉英(はなむら よしひさ) 1961年生まれ、立教大学大学院文学研究科博士後期課程(ドイツ語学専攻)在学中に渡独。 1989年からドイツ・チュービンゲン大学に留学し、同大大学院新文献学部博士課程でドイツ語学・言語学(意味論)を専攻。帰国後、技術文(ドイツ語、英語)の機械翻訳に従事する。 2009年より中国の大学で日本語を教える傍ら、比較言語学(ドイツ語、英語、中国語、日本語)、文体論、シナジー論、翻訳学の研究を進める。テーマは、データベースを作成するテキスト共生に基づいたマクロの文学分析である。 著書に「計算文学入門−Thomas Mannのイロニーはファジィ推論といえるのか?」(新風舎:出版証明書付)、「从认知语言学的角度浅析鲁迅作品−魯迅をシナジーで読む」(華東理工大学出版社)、「日本語教育のためのプログラム−中国語話者向けの教授法から森鴎外のデータベースまで(日语教育计划书−面向中国人的日语教学法与森鸥外小说的数据库应用)」南京東南大学出版社、「从认知语言学的角度浅析纳丁・戈迪默-ナディン・ゴーディマと意欲」華東理工大学出版社、「計算文学入門(改訂版)−シナジーのメタファーの原点を探る」(V2ソリューション)、「小説をシナジーで読む 魯迅から莫言へーシナジーのメタファーのために」(V2ソリューション)がある。 論文には「論理文法の基礎−主要部駆動句構造文法のドイツ語への適用」、「人文科学から見た技術文の翻訳技法」、「サピアの『言語』と魯迅の『阿Q正伝』−魯迅とカオス」などがある。 学術関連表彰 栄誉証書 文献学 南京農業大学(2017年)、大連外国語大学(2017年)
プロフィール