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2024年09月11日

イディオム−モンタギュー文法からGPSGそしてHPSGへ23

7頁
*Dowy et al (1981). S. 279。但し、Montague(1974)は、次のようなパズルを解くために個体概念の必要性を説いた。
a) The temperature is ninety.
b) The temperature rises.
c) Ninety rises.
 a)からc)への推論は、temperatureにある時点での個体定項の外延を当てただけでは不十分ゆえに成立しない。従って、Montagueは、riseのタイプを<e, t>ではなく、内包的な<<s, e>, t>とした(ibid. S. 267)。しかし、これにより設定されたriseのような内包動詞とは別種の自動詞の外延性を規定する意味公準[∃M∀x□[δ(x)→M{v x}]](MはILの個体の属性タイプの変項、xはILの<s, e>タイプの変項、δはILの個体概念の集合タイプの定項)が、量化のかかったNP主語のIL個体概念の変項の値を制限するために、普通名詞の外延性に関する意味公準[□[δ(x)→∃ux=∧U]](uはeタイプの変項でxに体操する還元形である)と同じ役割を果たすことになり、規則の上で余剰が生じる。これが、個体概念(s, e)を放棄する一つの理由である。
*Klein and Sag(1985). S. 168。
*ibid. S. 171。

花村嘉英(2022)「モンタギュー文法からGPSGへ−イディオムの構成性をめぐるモデル理論の修正」より

イディオム−モンタギュー文法からGPSGそしてHPSGへ22

5頁
*Gazdar et al(1985).S.57。変形との違いについては、メタ規則が規則を操作するのに対し、変形が規則により生成された構造記述にかかるとあり(ibid.S.66)、これにより、GPSGの表示レベルは単層と呼ばれている。
*SAIメタ規則を応用してドイツ語のja/nein疑問文を分析した例にRussel(1985)がある。(10)4の(12)を通した出力(S[[INV, +],[SUB], +]→V[2]),NP[NOM]とFCR5([INV,+]⊃[[AUX, +],[FIN]])、およびLP規則NP[NOM]<NP[ACC]により、次のような気が認可される(ibid.S.25).
                 
                 S[INV, +]
                  △
       V[INV,+]     NP[NOM]    NP[ACC]
       Liest          △         △
                 Det N1       Det N1
                  ein |         ein |
                  N           N
                 Mann         Buch

*Gazdar et al (1985). S.79。

6頁
*ibid. S.83。
*ibid. S.94。
*ibid. S.183。
*ibid. S.187。

花村嘉英(2022)「モンタギュー文法からGPSGへ−イディオムの構成性をめぐるモデル理論の修正」より

イディオム−モンタギュー文法からGPSGそしてHPSGへ21

4頁
*Stucky(1983). S. 80。
*Gazdar et al(1985). S.44. GPSGのLP既読に対して、Uszkoreit(1986)がドイツ語の語順を検討し、修正案を出している。ドイツ語は、固定されたクラス(z.B. Det

イディオム−モンタギュー文法からGPSGそしてHPSGへ20

2頁
*Gazdar, Klein, Pullum and Sag(1985). S. 17。
*ibid. S. 43。
*ibid. S. 57。
*ibid. S. 75。
*ibid. S. 245。

3頁
*ibid. S. 16。
*GPSGには、文脈に依存した語彙装入規則がなく、前終端(preterminal)のカテゴリーAの規則を共有する語彙項目がAの下位カテゴリー化環境に従う。
a)VP→V[SUBCAT, 2](V[2]と略記される)。
b)<lesen, [N, −],[V, +],[BAR, 0],[SUBCAT,2 ], { }, lesen‘>
 a)は、語彙項目b)を支配している。語彙項目は、音韻、カテゴリー、不規則な形態(ここでは空)、意味に関する情報を含んでいる(ibid. S. 34)。
*ibid. S. 26。
*ibid. S. 27。
*ibid. S. 29。

花村嘉英(2022)「モンタギュー文法からGPSGへ−イディオムの構成性をめぐるモデル理論の修正」より

イディオム−モンタギュー文法からGPSGそしてHPSGへ19

注釈

1頁
*MGの解説書としては、Gebauer(1978)、Dowty, Wall and Peters(1981)、白井(1985)などがある。
*GPSGの解説には、Naumann(1988)、Uszkoreit(1987)、池谷(1988)などがある。
*この小論では、慣用句(Phraseologie)の基準といえるイディオム性(Idiomatizität)、安定性(Stabilität)、語彙化(Lexikalisierung)、および再生(Reproduzierbarkeit)の中で、特に、イディオム性の高い表現を指してイディオムと呼ぶ。(Fleischer 1982. S. 34)イディオム性とは、個々の構成要素の意味と全体の意味との不規則な関係であり、安定性とは、構成要素の交換の難しさを指し、語彙化とは意味に関する辞書的な扱いであり、語彙化とともに統語上固定したと語彙的な単位を指す。 
*カテゴリー文法の解説の一つにAjdukiewicz(1967)がある。その中で、基本的なカテゴリーといえる文(s)および名詞(n)と複合的なカテゴリーs/nnは区別され、これらの操作するための規則として、相殺(s/nn→s/n)を持つUCG(Unidirectional Categorial Grammar)が提唱されている(ibid. S.213)。PTQは、この手法を継承する。カテゴリー文法の歴史に関する詳細な説明は、Casaudio(1988)にある。
*Montague(1974)S.249。
*(2)S2のような統語規則と統語操作の区別の意義については、Dowty(1982)による説明がある。彼は、主語や目的語に対応する文法概念は、個別言語から離れて、一般的に規定されるとし、例えば、「主語−述語」規則としてS3:<IV, T>,t>を設け、その入力IV(動詞句)、T(名詞句)、その出力t(文)およびこれらを取り持つ統語操作F2のカテゴリー的な指定を普遍的な役割としてS3に課している。
 これに対して、言語間で異なるのは統語操作Fであり、英語(SVO)と日本語(SOV)などの語順の違いは、F2により説明される。このように、統語規則と統語操作の区別を含む統語規則S3により、IVの語句と結びつけられる名詞句は、主語と定義される(ibid. S. 84)。

花村嘉英(2022)「モンタギュー文法からGPSGへ−イディオムの構成性をめぐるモデル理論の修正」より

イディオム−モンタギュー文法からGPSGそしてHPSGへ18

 Thomason(1972)は、(24)のような述語の誤った種類への適用から生じた表現を分類上不正確(sorial incorrectness)と呼び、それに対して真理値はないと考えている。*

(24)Der Schatten der Zentralheizung ist warm.

(24)の否定が一見真であるようにみえる。しかし、否定には、選択的な意味(ある選択をすることがすでに他を選択している)と排他的な意味(単に否定されることが拒絶される)があるとして、(24)の否定を前者の意味と考え、真理値付与の対象外として扱っている。* では、真でも偽でもない表現は、どこに位置づけられるのであろうか。
 諸々の特性なり役割からなる論理空間(Logical Space: LS)があるとする。* これは、ある種の概念上の資源から生成される。LSにおける形式言語Lには、二項述語QにLSの部分集合(LSの構成要素の順序対の集合)を割り当てる分類上の指定Eがある。* この部分集合(Eの地域)は、Qが肯定も否定もされうる点を含んでいる。 
(24)の所在地は、ここである。言語Lには、Eと関連して二項述語QにE(Q)の部分集合s(Q)(sは指標<i, j>)を当てるsが存在する。すなわち、ILの基本表現に指示対象を対応付けるために、ここでは、PTQとは異なる二段階の手順を踏んでいる。
 M、i、j、gに関するILの有意表現αの外延記述を(25)の形に修正する。

(25)αM,E, i, j, g

 s(Q)を設けることにより、LS中の点pを占める個体Qv1, v2(v1, v2はそれぞれ個体変項)を満たすように、pの集合を指定することができ、spielen‘‘が項としてdie-erste-Geigeだけを選択することが説明される。

花村嘉英(2022)「モンタギュー文法からGPSGへ−イディオムの構成性をめぐるモデル理論の修正」より

イディオム−モンタギュー文法からGPSGそしてHPSGへ17

 修飾語の分析例として、GPSGの枠組みで構成性(フレーゲの原理)を維持するために、イディオムの一部に修飾語を付加 することができるかどうか自身で試したことがある(花村 1991)。但し、本書では、論理文法の歴史に従って構成性を強く意識することはない。条件文やテキストを扱うために、中間処 理に依存する方向で理論が展開していくためである。GPSGは、統語論に文脈自由の句構造文法を、そして意味論にMontague Grammarを採用した世界的に有名な言語理論である。
 ここでの問題点は、例文(36)に示されている。形容詞leibhaftig の形態統語的な修飾は、確かに名詞Hundに掛かっているが、意味的な修飾は、この名詞ではなく動詞になるからである。それ故、本書では、leibhaftigをファジィ論理でいうある種のヘッジとして扱い、さらに、イディオム自体もヘッジと見なすことができるという立場でこの問題を処理している(イディオムの原理)。
 その理由は、Fleischer (1982)が説くように、慣用句がイゾトピー(同位元素性)のようなテキスト内の様相パラメータを 特別な方法で識別することができると考えているからである。これにより、Montague Grammarのイディオム分析は、拡張されることになる。なお、Fleischer (1982)は、イディオム性を語彙の構成要素の意味と文全体の意味の間に存在する不規則な関係としている。

花村嘉英(2022)「イディオム−モンタギュー文法からGPSGそしてHPSGへ」より

イディオム−モンタギュー文法からGPSGそしてHPSGへ16

 この立場に立つと、例えば、schön Xの内容は、 Xの意味にかなり依存することになる。 しかし、(30)のように「美しい」の標準が修飾される名詞(肋骨)によって決まらないことがある。重要な特徴(レントゲン写真)は、むしろ前述の文脈によって提供されると考えた方が自然である。標準(STANDARDの属性値としての役割を果たすパラメータのアンカー)は、修飾される名詞の特徴(関係)によって決まるが、文脈に依存する場合もあるということになる。
 Angeblich(自称の、表向きの)のような形容詞は、angeblich XがXである必要はないという理由から、解説7で説明した制約と一致しないように見える。この場合、名詞の制約は、angeblich な関係の変数として挿入される(31を参照すること)。そして、 angeblicher TäterのようなNʼの内容は、(32)に示されているnom− objになる。この種の名詞により言及される個人は、文脈上決まるある個人が実際に犯罪者でなくても、犯罪者であると主張すれば、成立するからである。

花村嘉英(2022)「イディオム−モンタギュー文法からGPSGそしてHPSGへ」より

イディオム−モンタギュー文法からGPSGそしてHPSGへ15

5 HPSGによるイディオム分析

 論理文法では、量化と同様に、修飾の問題もしばしば取り上げられている。* ここでは、名詞を修飾する形容詞がテーマになる。また、これと関連してイディオムの内部を修飾する形容詞、例えば、auf den leibhaftigen Hund kommenのleibhaftigについても検討するが、これは、フレーゲの構成性原理がポイントになる。*
 ここでの研究の対象は、修飾語、特に名詞を修飾するまたはイディオムの一部を修飾する形容詞である。まず、付加的な形容詞「青い」の語彙登録に関するローカルな値の処理を見てみよう。(27)のような形容詞は、指標の制限が形容詞からなるpsoa とNʼ主要部の名詞からなるpsoaを含んだNʼを形成するために、名詞の構成要素と結合することになる。
 しばしば議論になるが、色彩用語は、その値自体が目盛りを固定する隠れたパラメータになることがある。ここでは、「青さ」を決定する尺度がそれに当たる。つまり、「青い」という関係が付加的な役割(STANDARD)を持っていて、その値は、文脈上で決まる特徴であり、「青さ」を決定するための標準を提供してくれる。これにより(29)のような形容詞に対して制約を設けることが可能になる。これらは、修飾する名詞と関連した特徴を変数とする関数として処理されるべきである。

花村嘉英(2022)「イディオム−モンタギュー文法からGPSGそしてHPSGへ」より

イディオム−モンタギュー文法からGPSGそしてHPSGへ14

 Thomason(1972)は、(24)のような述語の誤った種類への適用から生じた表現を分類上不正確(sorial incorrectness)と呼び、それに対して真理値はないと考えている。*

(24)Der Schatten der Zentralheizung ist warm.

 (24)の否定が一見真であるようにみえる。しかし、否定には、選択的な意味(ある選択をすることがすでに他を選択している)と排他的な意味(単に否定されることが拒絶される)があるとして、(24)の否定を前者の意味と考え、真理値付与の対象外として扱っている。* では、真でも偽でもない表現は、どこに位置づけられるのであろうか。
 諸々の特性なり役割からなる論理空間(Logical Space: LS)があるとする。* これは、ある種の概念上の資源から生成される。LSにおける形式言語Lには、二項述語PにLSの部分集合(LSの構成要素の順序対の集合)を割り当てる分類上の指定SPがある。* この部分集合(SPの地域)は、Qが肯定も否定もされうる点を含んでいる。 
 (24)の所在地は、ここである。言語Lには、SPと関連して二項述語QにSP(Q)の部分集合s(Q)(sは指標<i, j>)を当てるsが存在する。すなわち、ILの基本表現に指示対象を対応付けるために、ここでは、PTQとは異なる二段階の手順を踏んでいる。
 M、i、j、gに関するILの有意表現αの外延記述を(25)の形に修正する。

(25)αM,E, i, j, g

 s(Q)を設けることにより、LS中の点pを占める個体Qv1, v2(v1, v2はそれぞれ個体変項)を満たすように、pの集合を指定することができ、spielen‘‘が項としてdie-erste-Geigeだけを選択することが説明される。

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花村嘉英
花村嘉英(はなむら よしひさ) 1961年生まれ、立教大学大学院文学研究科博士後期課程(ドイツ語学専攻)在学中に渡独。 1989年からドイツ・チュービンゲン大学に留学し、同大大学院新文献学部博士課程でドイツ語学・言語学(意味論)を専攻。帰国後、技術文(ドイツ語、英語)の機械翻訳に従事する。 2009年より中国の大学で日本語を教える傍ら、比較言語学(ドイツ語、英語、中国語、日本語)、文体論、シナジー論、翻訳学の研究を進める。テーマは、データベースを作成するテキスト共生に基づいたマクロの文学分析である。 著書に「計算文学入門−Thomas Mannのイロニーはファジィ推論といえるのか?」(新風舎:出版証明書付)、「从认知语言学的角度浅析鲁迅作品−魯迅をシナジーで読む」(華東理工大学出版社)、「日本語教育のためのプログラム−中国語話者向けの教授法から森鴎外のデータベースまで(日语教育计划书−面向中国人的日语教学法与森鸥外小说的数据库应用)」南京東南大学出版社、「从认知语言学的角度浅析纳丁・戈迪默-ナディン・ゴーディマと意欲」華東理工大学出版社、「計算文学入門(改訂版)−シナジーのメタファーの原点を探る」(V2ソリューション)、「小説をシナジーで読む 魯迅から莫言へーシナジーのメタファーのために」(V2ソリューション)がある。 論文には「論理文法の基礎−主要部駆動句構造文法のドイツ語への適用」、「人文科学から見た技術文の翻訳技法」、「サピアの『言語』と魯迅の『阿Q正伝』−魯迅とカオス」などがある。 学術関連表彰 栄誉証書 文献学 南京農業大学(2017年)、大連外国語大学(2017年)
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