寝かしつけの散歩道　（しいなきの日記）

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龍のように自由に生きると宣言した翌々日。
Ａ美は、泣きながら私に電話をしてきました。

「金の龍のきまぐれ（仮題）」というブログを立ち上げたこと。
「感情を開放するセラピー」と称し、モニター価格で集客を始めたこと。

そして、そのブログはＳＮＳを通じて彼女の親戚の目に触れ、
すぐに夫にも連絡がいき、こっぴどく叱られたこと。

離婚届けを挟んで深夜まで話し合ったそうです。
教祖であるぎいさんのことを全否定され、
今後のセミナー参加などを一切禁止されたとのことでした。


Ａ美は自己啓発セミナーにハマり始めたころから、
「お金を得るために我慢して嫌な仕事をする時代は終わった」
「私が仕事をしてやってる。私がやりたい仕事を選ぶべき」
私にラインでそう宣言し、家族に一切相談しないままに
１０年務めた会社を辞めています。
決して規模の小さくない外資系の企業でした。

急にＡ美の稼ぎがごっそりなくなった家庭。
会ったことはないのですが旦那さんのご苦労は相当なものでしょう。

にもかかわらず、退職金のほぼ全てをぎいさんの追っかけ費用に使い、
年会費６万円の会員になっていることもついにバレてしまいました。

泣き声で「理解してくれない夫」の愚痴を延々と話すＡ美。

以前はたしか「離婚してもいい」と強がっていたのですが、
実際に危機的状況に陥るとやはりパニックになってしまったようです。


Ａ「家族とは離れたくない」

私「だったらぎいさんやスピリチュアルから一切離れることだね」

Ａ「なんで私はやりたいことをやったらいけないの？」

私「口先だけでセラピーをしてお金を取った時点で、
　あなたは教祖と同類だよ。大勢に批判される。そんな覚悟ないでしょう」

Ａ「批判する人にはさせておけばいい。ただうらやましいんでしょう」

私「全然うらやましくないな。むしろ憐れむっていうか」


そんなやりとりがしばらく続きました。
メモを読み返しながら、少し表現を変えて書いていますが。
いま振り返ってみると、か弱いＡ美と意地悪な私のやりとりのようですね。

もともとＡ美は強気で、サバサバしていて、友達思いで…
むしろ私のほうがいつもその明るさや奔放さに助けられていました。

でも、今では「女性性」だの「欲望の解放」だのやたらと言い始め、
教祖の教えやスピリチュアルが世界の真実のようになり、
まったく別人になってしまったように感じていました。

私「あなたは依存状態にあるって前に言ったよね」

Ａ「だって、好きなアイドルのコンサートに行くのとどうちがうの」

私「好きなアイドルのコンサートだって毎月行っていれば散財でしょう。
　しかもぎいさんってただのおじさんじゃん。アイドルですらない」

Ａ「…」

私「自己啓発が悪いとは思わないけど、
　今あなたはそれによっていい方向に行ってると思う？」

Ａ「…今は違うけど、いつか」

私「いつかっていつ？　そう言い続けてどんどんぎいさんにお金を払うの？」

Ａ「自分が払いたいものに払うのよ。それで経済を回すの」

私「あなたがぎいさんにお金を払えば経済は回るの？　
　会社を辞めて今は自分でお金を稼いでいないんだよ」

Ａ「私のやりたいことにお金を出してくれることが旦那の喜びだと」

私「…も、電話切っていいかな？」

Ａ「…旦那がケチだから悪いんよ」

私「本気でそう思うんならあなたと絶交したいわ」

Ａ「しいなきまで私が悪いと思うの？」

私「あなたは悪くない。でも、あなたには向いてない。
　そのぎいさんのセミナーは自己啓発でも心理学でもないわ」

Ａ「じゃあ何よ」

私「詐欺？」

Ａ「…ひどい。本だってたくさん出してテレビにも出てるのに」

私「オ〇ム真理教だってテレビに出てたでしょうよ。
　本だって信者に売れるんなら出す出版社もあるでしょうよ」

Ａ「たくさんの人の気持ちを楽にしてるんだよ」

私「ぎいさんの不思議なパワーで楽にしたの？
　口先だけで、勝手に楽になったと勘違いする人が出てるだけよ」

Ａ「そのことでみんながお金を払うの。素晴らしい気付きだって」

私「それで皆して教祖ファンクラブみたいなのはおかしいよ。
　お近付きになってお金を払う必要なんて一切ないでしょう」

Ａ「じゃあ、なんで皆やってるのよ！」


泣きながらまくしたてるＡ美になんて言えばいいのか、
しばらく悩みました。

皆って、ネット上に見える人がすべてだと思ってない？

私はこうなりました！　今まではこんなでした！　あなたにもできます！
そんなものが広告代わりになってすごく大きく見えている

特別なことに気付いたつもりになって、実際はお金を巻き上げられてるだけ

家族が嫌がるのに、自分のやりたいことだと押し通すのは絶対に違う


これらが真理だとも答えだとは思いませんが、
いろいろと説得の言葉を並べたと思います。
とにかく打算なしで言いたいことを全部出そうと思いました。

押しつけだと思われてもただ自分の思いを伝えてみようと。
私も逃げたくなかった。

少し疲れていたこともあると思います。
泣くＡ美は正直言ってうっとおしいと思っています。
でも、強がらずに感情を出して話してくれたから、
今こうして話ができていると。

そう解釈しました。


長い間があって、Ａ美は言いました。

「ぜんぜん楽になってないね。私、こんなに追い込まれて」

「旦那やお母さんやしいなきや、周りのせいで追い込まれたみたいな…
　そんな考え方がそもそもおかしいのかもしれないね」


もう少しあと少し。
あとひと押し。

ほんの少しだけ、救いが見えたような気がします。