2023年05月17日
時代ものもいいねぇ 「鈴河岸物語」 半村良
鈴河岸に住む飾り職人剣次郎は、
無口だが実直で気の良い
腕の立つ若き名人。
出自は少し謎だが、人柄文句なし。
物語は捕り物あり、色恋あり、
市井の人情ありと娯楽満載。
古今亭志ん朝師の口跡さながらの
語り口もいい。
さらに半村良らしく、人生のもろもろを
粋な短い文句で教えてくれる。
たとえば……
「なんの新しい工夫もないまま、手なれた
細工を今まで通りにはじめるのが、嫌で
嫌でたまらなくなる。
剣次郎はそれを、自分と仲違いする、と
いう風に心の中で呼んでいる。
新しいことを思いつけない自分に腹を立て
その陳腐さになさけなくなてしまうのだ」
おふくろ代わりのおつねから、そろそろ
所帯を持てといわれた剣次郎、
「またはじまりやがった。所帯を持ったばっかりに
しなくてもいい苦労している奴のそこら中にいる」
「だからっていつまでも独り身でのうのうと
していよってのかい。
でも人間、親にならなきゃ一人前じゃないんだよ。
楽していると世の中を見る目が甘くなっちゃう
んだからね」
世話になってる親方がぽつり。
「俺に頭をさげるには及ばねぇ。だがこれだけは
覚えとけ。渡る世間は力ずくだ。真面目にやって
力を示せば、世間は優しく道をあけてくださる。
だが生意気な奴には、世間はそう甘くない。
そっぽを向いて通せんぼしてくるからな」
納品先の大店の旦那の台詞
「商売は気を長く持たないとな。
せっかちな商売は、雨雲を見た道商いのように
なっちまう。投げ売りだよ。
売る者のほうに格がなければ、買う人も
銭を払う楽しみがなくなるよ」
いい小説は人生も教えてくれる。
無口だが実直で気の良い
腕の立つ若き名人。
出自は少し謎だが、人柄文句なし。
物語は捕り物あり、色恋あり、
市井の人情ありと娯楽満載。
古今亭志ん朝師の口跡さながらの
語り口もいい。
さらに半村良らしく、人生のもろもろを
粋な短い文句で教えてくれる。
たとえば……
「なんの新しい工夫もないまま、手なれた
細工を今まで通りにはじめるのが、嫌で
嫌でたまらなくなる。
剣次郎はそれを、自分と仲違いする、と
いう風に心の中で呼んでいる。
新しいことを思いつけない自分に腹を立て
その陳腐さになさけなくなてしまうのだ」
おふくろ代わりのおつねから、そろそろ
所帯を持てといわれた剣次郎、
「またはじまりやがった。所帯を持ったばっかりに
しなくてもいい苦労している奴のそこら中にいる」
「だからっていつまでも独り身でのうのうと
していよってのかい。
でも人間、親にならなきゃ一人前じゃないんだよ。
楽していると世の中を見る目が甘くなっちゃう
んだからね」
世話になってる親方がぽつり。
「俺に頭をさげるには及ばねぇ。だがこれだけは
覚えとけ。渡る世間は力ずくだ。真面目にやって
力を示せば、世間は優しく道をあけてくださる。
だが生意気な奴には、世間はそう甘くない。
そっぽを向いて通せんぼしてくるからな」
納品先の大店の旦那の台詞
「商売は気を長く持たないとな。
せっかちな商売は、雨雲を見た道商いのように
なっちまう。投げ売りだよ。
売る者のほうに格がなければ、買う人も
銭を払う楽しみがなくなるよ」
いい小説は人生も教えてくれる。
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