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高坂圭
フリーランスの放送作家・脚本家、コピーライター として活動し、33年目を迎えました。 最近は、物語プランナーとして、ストーリーの力で ビジネスをアップするクリエイターとしても活動しています。
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2023年05月17日

文章の上手さに驚き。 「メイド・イン・オキュパイド  ジャパン」  小坂一也

昭和20年占領下の日本。

10歳だった少年は、高校時代に

カントリー&ウェスタンのバンドの

一員となり、進駐軍のキャンプを巡り

19歳には気が付くとアイドルスターに

なっていた。



まるで古い日本映画を見ているような

楽しさで一気に読了。

何しろ著者の文章が上手く飽きない。

戦後の日本の風景を見事に描いてくれる。

たとえば、



昭和26年の新宿前広場。

進駐軍に向かうミュージシャンたちが

ごった返している。

「トロンボーン、ひとり!いないかあ」

大声で人混みをぬって行くのは、

三流芸能社のマネージャだろう。

「トロンボーン、ひとりひとり!」

「……あのう……テナーは?」

おずおずと近づいた男を一べつすると、

「おー、あんたか。あんたはダメだ」

言い捨ててーもう雑踏にまぎれてしまった。



進駐軍のクラブ内部の飾りつけは、

どこでも似たようなものだった。

ずらりと吊るされた提灯の列、

野だての傘、桜の造花、壁には額入りの

浮世絵、赤い鳥居のミニチュアが各テーブルに

あってそれにメニューがぶら下がっているのも

見たことがある。

(中略)

あまりにもこういったインテリアを見すぎたせいか、

今でも私はこの種のものに、それが純然たる

日本のものであるにもかかわらず、どうしても

”アメリカ”を感じてしまう妙な習性がついて

しまっている。



自分の思いとは裏腹にスターになっていく

様子をこう書く。



その年の暮れ近くに発売されたわれわれの

デビューレコードが、少しずつ売れてきて

いるとコバヤシさんから知らされた。

だがそのときはまだブームを起こすとは、

私も含めバンドの誰もが思ってもみなかった。

それはまるで、裏庭の八つ手の葉っぱを、

ポツリポツリとかすかにゆらしていた

降り始めの雨が、突然、雷をともなう激しい

夕立に変わったような勢いでやってきた。

もうそのときすでに私たちは、引き返すことの

できない”芸能界”という底無し沼にひざ近く

まではまりこんでしまっていたのだ。



著者は十朱幸代、松坂慶子などと浮名を流した

元祖アイドル。

彼が所属していた「ワゴン・マスター」には、

シャボン玉ホリデーやゲバゲバ90分など

日本のバラエティーの先駆者、井原忠高や、

ホリプロの創始者、堀威夫、

元スパイダーズのリーダー、田邊昭知など

錚々たるメンバーがいた。



ちなみにタイトルにある、「メイド・イン

オキュパイト」とは、敗戦から講和条約が

成立する1951年まで、日本からの輸出品に

打たれた刻印、占領下の日本を示すもの。



著者はこの本を、「アメリカびいきの、

アメリカコンプレックスの悲しい性」を

描いたと語っている。



でも僕には、今はない、熱いエネルギーに

溢れていた日本を、音楽シーンを魅せてくれた

一編の小説のように思えた。

いやー、楽しかったなぁ。



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感想(1件)






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