2023年08月09日
何度読んでも飽きない 「絢爛たる影絵 小津安二郎」 高橋治 ’
何度読んでも飽きない
「絢爛たる影絵 小津安二郎」
高橋治
’
数ある小津本の中でも群を抜いた一冊。
著者は「東京物語」で助監督を
つとめ、監督として三本の映画を
撮り、のちに直木賞作家になった。
彼が原節子、岸恵子、杉村春子の
エピソードや撮影秘話を描いたの
だから、面白くないわけがない。
でもこの本の一番の魅力は、
映画の名場面を深く考察し、
ファンに改めて小津の凄さを教えて
くれるところ。
’
いろいろ引きたいところはあるんですが、
長くなるので、とりあえず、著者が実際に
聞いた小津の言葉をランダムに紹介します。
’
映画は「東京物語」。
笠、東山の尾道の家で東山の死の場面、
山村聡、杉村春子、香川京子、原節子、
全員がひとつのシーン。
各俳優陣の演技に火花が散る。
そのとき、小津は言う。
「みなさん、お上手で結構だ。上手なばかりで
なく、テストの度に違う芝居を見せてくれる。
そりゃ有難いんですがね、どうだろう、
一番良いのをひとつきりで結構ですから
やって見てくれませんか」
’
小津はわかりやすい演技を嫌う。
口癖は、
「わからせようとするのは下衆だ。
ああ、そういうことですかよくわかりましたと
客が思った時に、客は離れる。
感動も薄れて二度と食いつかない」
’
「映画の人物というのは、懐に、なんか刃物の
ようなものをのんでなきゃ駄目なんだよ。
確かに刃物がある。それがどんなものか、
いつ抜かれるのか、客はわくわくしながら
それを待ってくれるのさ」
’
「映画の終わりが、実は始まりなんだ」
’
最後に僕の小津体験を少し。
初めて「東京物語」を観たのは高校二年の
時だった。
最初の感想は「なんじゃ、こりゃ。変な映画」。
台詞を言うたびに切り替わる顔のアップ。
妙におしゃれな日本家屋と登場人物たち。
古き良き日本を描いているという話は
聞いたことあったが、僕は違うと感じた。
なんだか外国人が撮った日本みたいだと
思った。
’
後年、この本を読んで僕の直感は正しかったと
嬉しくなった。
高橋治は記している。
’
小津は最も日本的な作家だと短絡して
考えられることが多い。
観客のみならず、批評家の間にもこの
見方は定着している。
だが、それは大きな誤りだと私は思う。
小津は一見非常に日本的だが、実は大変
西欧的だ。
画面を埋める日本趣味の小道具や
衣装に幻惑されては、小津の真の姿は
見えて来ない。
「秋刀魚の味」の老いを凝視する姿勢、
「晩春」の親子関係をつき破っても愛を
打ちあけようとする女の執着、
「麦秋」の家族関係のそれぞれの立場で
噴き出してくる自我。
それらを残酷なまでに描いて見せる
作家精神は日本的と呼ばれるものとは
およそ対極にある。
’
小津ファンなら絶対におすすめの一冊です。
「絢爛たる影絵 小津安二郎」
高橋治
’
数ある小津本の中でも群を抜いた一冊。
著者は「東京物語」で助監督を
つとめ、監督として三本の映画を
撮り、のちに直木賞作家になった。
彼が原節子、岸恵子、杉村春子の
エピソードや撮影秘話を描いたの
だから、面白くないわけがない。
でもこの本の一番の魅力は、
映画の名場面を深く考察し、
ファンに改めて小津の凄さを教えて
くれるところ。
’
いろいろ引きたいところはあるんですが、
長くなるので、とりあえず、著者が実際に
聞いた小津の言葉をランダムに紹介します。
’
映画は「東京物語」。
笠、東山の尾道の家で東山の死の場面、
山村聡、杉村春子、香川京子、原節子、
全員がひとつのシーン。
各俳優陣の演技に火花が散る。
そのとき、小津は言う。
「みなさん、お上手で結構だ。上手なばかりで
なく、テストの度に違う芝居を見せてくれる。
そりゃ有難いんですがね、どうだろう、
一番良いのをひとつきりで結構ですから
やって見てくれませんか」
’
小津はわかりやすい演技を嫌う。
口癖は、
「わからせようとするのは下衆だ。
ああ、そういうことですかよくわかりましたと
客が思った時に、客は離れる。
感動も薄れて二度と食いつかない」
’
「映画の人物というのは、懐に、なんか刃物の
ようなものをのんでなきゃ駄目なんだよ。
確かに刃物がある。それがどんなものか、
いつ抜かれるのか、客はわくわくしながら
それを待ってくれるのさ」
’
「映画の終わりが、実は始まりなんだ」
’
最後に僕の小津体験を少し。
初めて「東京物語」を観たのは高校二年の
時だった。
最初の感想は「なんじゃ、こりゃ。変な映画」。
台詞を言うたびに切り替わる顔のアップ。
妙におしゃれな日本家屋と登場人物たち。
古き良き日本を描いているという話は
聞いたことあったが、僕は違うと感じた。
なんだか外国人が撮った日本みたいだと
思った。
’
後年、この本を読んで僕の直感は正しかったと
嬉しくなった。
高橋治は記している。
’
小津は最も日本的な作家だと短絡して
考えられることが多い。
観客のみならず、批評家の間にもこの
見方は定着している。
だが、それは大きな誤りだと私は思う。
小津は一見非常に日本的だが、実は大変
西欧的だ。
画面を埋める日本趣味の小道具や
衣装に幻惑されては、小津の真の姿は
見えて来ない。
「秋刀魚の味」の老いを凝視する姿勢、
「晩春」の親子関係をつき破っても愛を
打ちあけようとする女の執着、
「麦秋」の家族関係のそれぞれの立場で
噴き出してくる自我。
それらを残酷なまでに描いて見せる
作家精神は日本的と呼ばれるものとは
およそ対極にある。
’
小津ファンなら絶対におすすめの一冊です。
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