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高坂圭
フリーランスの放送作家・脚本家、コピーライター として活動し、33年目を迎えました。 最近は、物語プランナーとして、ストーリーの力で ビジネスをアップするクリエイターとしても活動しています。
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2023年08月09日

何度読んでも飽きない 「絢爛たる影絵 小津安二郎」 高橋治 ’

何度読んでも飽きない
「絢爛たる影絵 小津安二郎」
          高橋治

数ある小津本の中でも群を抜いた一冊。
著者は「東京物語」で助監督を
つとめ、監督として三本の映画を
撮り、のちに直木賞作家になった。
彼が原節子、岸恵子、杉村春子の
エピソードや撮影秘話を描いたの
だから、面白くないわけがない。
でもこの本の一番の魅力は、
映画の名場面を深く考察し、
ファンに改めて小津の凄さを教えて
くれるところ。

いろいろ引きたいところはあるんですが、
長くなるので、とりあえず、著者が実際に
聞いた小津の言葉をランダムに紹介します。

映画は「東京物語」。
笠、東山の尾道の家で東山の死の場面、
山村聡、杉村春子、香川京子、原節子、
全員がひとつのシーン。
各俳優陣の演技に火花が散る。
そのとき、小津は言う。
「みなさん、お上手で結構だ。上手なばかりで
なく、テストの度に違う芝居を見せてくれる。
そりゃ有難いんですがね、どうだろう、
一番良いのをひとつきりで結構ですから
やって見てくれませんか」

小津はわかりやすい演技を嫌う。
口癖は、
「わからせようとするのは下衆だ。
ああ、そういうことですかよくわかりましたと
客が思った時に、客は離れる。
感動も薄れて二度と食いつかない」

「映画の人物というのは、懐に、なんか刃物の
ようなものをのんでなきゃ駄目なんだよ。
確かに刃物がある。それがどんなものか、
いつ抜かれるのか、客はわくわくしながら
それを待ってくれるのさ」

「映画の終わりが、実は始まりなんだ」

最後に僕の小津体験を少し。
初めて「東京物語」を観たのは高校二年の
時だった。
最初の感想は「なんじゃ、こりゃ。変な映画」。
台詞を言うたびに切り替わる顔のアップ。
妙におしゃれな日本家屋と登場人物たち。
古き良き日本を描いているという話は
聞いたことあったが、僕は違うと感じた。
なんだか外国人が撮った日本みたいだと
思った。

後年、この本を読んで僕の直感は正しかったと
嬉しくなった。
高橋治は記している。

小津は最も日本的な作家だと短絡して
考えられることが多い。
観客のみならず、批評家の間にもこの
見方は定着している。
だが、それは大きな誤りだと私は思う。
小津は一見非常に日本的だが、実は大変
西欧的だ。
画面を埋める日本趣味の小道具や
衣装に幻惑されては、小津の真の姿は
見えて来ない。
「秋刀魚の味」の老いを凝視する姿勢、
「晩春」の親子関係をつき破っても愛を
打ちあけようとする女の執着、
「麦秋」の家族関係のそれぞれの立場で
噴き出してくる自我。
それらを残酷なまでに描いて見せる
作家精神は日本的と呼ばれるものとは
およそ対極にある。

小津ファンなら絶対におすすめの一冊です。


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