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2015年10月30日

第二章第二節 理解者が現れる

二〇〇六年夏、張玉はすでに段連祥の遺言の陰影から抜け出し、画に専心して『紅楼夢』の十二美女人物画を創作した。人から吉林省文化庁周維傑庁長(現在既に退職)が人物画の造詣にたいへん深いと聞くと、張玉は自分の画を持って周文化庁長に面会に行った。周庁長は張玉の人物画を見た後に、画に対して賞賛する意見を述べただけでなく、彼女に『紅楼夢』に出てくる全ての女性人物を描いて、『紅楼夢』の美人達を集め、『紅楼夢』美女人物画展を開いたらどうかと提案した。『紅楼夢』にでてくるそれぞれの女性人物の特徴を把握するために、画に区別が付けられるようにと、周庁長は特別に張玉に省内にいる『紅楼夢』研究専門家の奚少庚(奚少庚は二〇〇八年八月に病逝した)を紹介してくれた。
奚少庚との交流により、張玉が『紅楼夢』の美女人物画を創作する上で得た益は浅からず、同時に彼らの間には「年齢を超えた」親しい友誼が芽生えた。張玉が奚少庚と世間話をしているうちに、奚少庚夫婦は共に満州族で、奚少庚の夫人である周光藹の家族が皇帝の親戚筋にあたると聞き、また張玉の「秘密」を打ち明けたいという思いが湧き上がってきた。そこで、張玉は試しに心中の「秘密」を奚少庚に聞かせると、彼ら夫婦はいささかも疑うことなく、異口同音に彼女を支持し、張玉がこの「秘密」の調査をやり遂げるよう希望した。奚少庚は真剣に彼女に言った。
「川島芳子はたしかにやや反面人物ではあるが、彼女は有名人でもあるし、日本にも少なからず影響がある。彼女の死刑執行については、ずっと論争があり、いまだ決着が付いておらず、すでに国境を越えた、世紀を越えた歴史的懸案となっている。もし、お前が事実によって証明でき、銃殺された川島芳子は替え玉で、お前の方おばあさんが本当に川島芳子なら、これはお前が中国の歴史学界にできる一大貢献になり、お前はきっと有名になれるだろう。やってみてもいいんじゃないか。」
奚少庚先生のこの言葉は、張玉の決心を促し、彼女が再び躊躇と迷いに沈むことをなくさせた。彼女は決心をつけると全力で彼女を助けてくれそうな人を探すことにした。実は彼女にはすでに早くからある人物に目星を点けていた。この人ならきっと全力で助けてくれると信じている人物だった。
二〇〇六年七月のある日、吉林省の八天英語倍訓管理センターの李剛校長(本書作者の一人)は、いつものように朝早くに長春市人民大街二八三六号の旧満州協和会の建物の中にある自分のオフィスに来て、今日一日の仕事の準備をしていた。ちょうどその時、門を「コツ、コツ」と叩く音が聞こえた。
「どうぞ、お入り。」
李剛が言うとすぐに、一人の流行の服装で、日本女性風の髪形をして、手には皮製の筒状のバッグを持った若い女性が、そそくさと急ぐように李剛の目の前に駆け込んできた。
「おや、我らが美人画家の張玉じゃないか!ここに来るとはどういう風の吹き回しだい?」
李剛はこの以前よりよく知る女性に冗談交じりに声をかけ、笑顔で招きいれた。張玉は、本名を張波涛といい、長春市青年美術家協会会員で、当代の傑出した細筆重彩画家王叔暉先生の弟子で、細筆美人画を得意としている。彼女の画作の手法は細やかにして、画く人物が俊美だと、長春市の美術界ではちょっとした有名人であった。八年前に、李剛が吉林省軍星芸術学校校長だった時に、張玉とは共に教壇に立ったことがあり、既にお互いよく知った間柄であった。
「李校長、私ちょっと悩んでいることがあるんだけど、もう二年近くになるかしら、誰も理解してくれなくて。貴方だけが頼りなのです。」
張玉は芸術家肌で、何事でも率直で、歯にもの着せずに、遠慮なく言うタイプだ。
「何をそんな大事があるんだい。まずお茶でも飲んで、ちょっと落ち着きなさい。ほら、どんな事でもいいから、できる限り手伝ってあげるから。」
李剛はこう言って張玉を落ち着かせると、お茶を入れて張玉に渡し、それからイスに座って彼女と対面して話を聞く体勢を取った。
張玉のこの時の話によって、李剛がびっくり仰天させるだけでなく、六十年以上隠されてきた歴史の懸案が再び明らかにされることになろうとは、このときは誰も予想だにしていなかった。
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