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５月31日（ブルームバーグ）：スイスのチューリヒの目抜き通りバーンホフシュトラッセにある
時計店の女性営業担当者ジルビー・ギルハウゼンさんは、外国人客が携帯電話を取りだすと
厄介なことになると察知するという。

「来店客の中には携帯電話に価格情報を保存してきて店頭の値段と比べる人もいる」と話す
ギルハウゼンさんの隣には「ＩＷＣ」や「タグホイヤー」など最高１万900スイス・フラン
（約104万円）もする高級時計がディスプレーに並ぶ。
「10％の値引きを提示しても、外国人客にとっては本国での値段の方がまだ安い場合もある」
という。

フランは過去２年間に対ユーロで24％上昇し、スイス企業にとって前代未聞の頭痛の種と
なっている。
フラン高で時計やチョコレートなどの製品価格が相対的に上昇し、消費者はドイツや米国で
より有利な買い物をするようになった。
スイス国立銀行（ＳＮＢ、中央銀行）は2010年に192億フランの損失を招いたため、通貨高の
抑制策を断念している。

ＳＮＢの１、２両月の企業経営者調査では、ほぼ半数がフラン高による「悪影響を受けている」
と回答した。機械メーカーは「利益率の大幅な低下」で最も危険にさらされているという。
食品メーカーで世界最大手のネスレなど大企業は生産の海外移転で損失を軽減できるが、
中小企業は経費削減や利益率維持の選択肢が尽きつつある。

■避難場所
高級時計メーカー、パテックフィリップのティエリー・スターン会長は３月のインタビューで、
フラン高が企業業績を悪化させるためスイスはユーロを採用した方が良い状況になるかもしれない
と指摘、「誰にとっても悪夢だ。われわれは適応する必要がある」と語った。

フランは今年の主要通貨の対ドル、対ユーロの上昇率ランキングで首位。
投資家がフランをギリシャやアイルランド、ポルトガルといった高債務国から引き揚げた資金の
安全な避難所として位置付けているためだ。
年初来ではユーロに対し2.8％、ドルに対し9.8％上昇している。

サラシン銀行のチーフエコノミスト、ヤン・アムリット・ポーザー氏によると、歴史的に見て
フラン相場が実質10％上昇すると15％の輸出減少につながる傾向があるという。
輸出がスイス経済に占める割合は５割超と、ドイツの46％を上回る。