2010年06月18日
3D騒ぎが映画をダメにする9つの理由
3D騒ぎが映画をダメにする9つの理由
2Dの豊かな表現力を忘れて子供だましの映画が量産されかねない。映像体験を進化させる方法は別にある──
ロジャー・エバート(シカゴ・サンタイムズ紙映画評論家)
映画は2Dで十分。「もう1つの次元」は必要ない。ハリウッドが雪崩を打って3Dに走るのは自殺行為だ。飛び出す映像は観客の集中を妨げる場合があり、人によっては吐き気や頭痛の原因になる。映画館に高価な投影機材を売り付け、観客から上乗せ料金をふんだくろうとする狙いが透けて見える。
3D映像は標準的な2Dより明らかに暗い。シリアスな映画には不向き。監督の「撮りたい映画を撮る自由」を縛る。R指定(17歳未満は保護者同伴)などの大人向け映画の観客には、特別料金に見合う満足感はまず与えてくれない。
マーケティングの観点から見れば、私の考えが「異端」であることは承知の上だ。何しろ3Dはハリウッドに史上最大のドル箱商品をもたらし(『アバター』の世界興行収入は27億ドルを超え、さらに記録を更新中)、ほかにも数々のヒット映画を生んでいる。今年の3大ヒット作『アリス・イン・ワンダーランド』『ヒックとドラゴン』『タイタンの戦い』はいずれも3Dで上映されている。
それでも、3Dの限界について私と同じ考えを持つ監督や雑誌編集者、撮影監督、映画ファンは少なくない。映画会社の重役たちの中にも今のブームに抵抗を感じている人がいる。
50年代に一時期話題を呼んだステレオスコープで、3D技術は既に無意味なオモチャであることが分かったはず。ここで異端派の見方を1つずつ説明しよう。
1)もう1つの次元は要らない 2Dの映画を見ているときも、観客の頭の中では3Dの映像が見えている。地平線上の小さな染みのように見えるアラビアのロレンスが、砂漠に馬を駆ってぐんぐん迫ってきたとき、あなたは「あら、少しずつ体が大きくなるよ」と思うだろうか。
私たちの脳は、遠近法で奥行きを感じ取る。人工的にもう1つの次元を加えれば、平面上の奥行きがあざとい感じになるだけだ。
2)より深い感動を与えることはない 心を揺さぶられた映画を思い出してほしい。3Dにする必要があるだろうか。偉大な映画は私たちの想像力を刺激してやまない。『カサブランカ』が3Dになっても、感動が大きくなることはない。
3)集中を妨げる場合がある 3D映画には、2D画像を左目用と右目用に分離しただけのものもある。その結果、ある物体が別の物体の上に浮かんでいるように見えるが、すべてが平板な印象は否めない。
2Dでは、焦点を変えることで観客の目を画面上の1点に引き付ける手法がよく使われる。3Dは前景も背景もくっきりとクリアに見せることを狙っているようだが、その必要があるとは思えないし、観客の注意を引き付ける手段を監督から奪うことになる。
4)人によっては吐き気や頭痛を催す 3Dテレビが市場に登場する直前、ロイター通信が眼科学の権威2人に目に与える影響を聞いた。
その1人ノースウェスタン大学のマイケル・ローゼンバーグ教授によると、「左右の目の周りの筋肉のアンバランスなど、非常に軽い障害があっても、それに気付かずに生活している人が大勢いる」らしい。「通常は脳がうまく調節している」ので支障を感じないが、3D映像を見るという非日常的な体験をすると、「脳に負担をかけることになり、頭痛を起こしやすい」とのことだ。
私たちは普段、左右の目で微妙に異なる角度から物を見ていると、眼科学と神経学の専門家であるロチェスター大学医学センターのデボラ・フリードマン教授は説明する。「それを脳で処理して奥行きを認識している。3D映画の立体感は、人間の目と脳の仕組みとは違ったトリックで作られている」
消費者向け情報誌コンシューマー・リポーツによれば、3D映画を見た人の約15%が頭痛や目の疲れを訴えるという。
5)画面がやや暗い 3D映像システムの父として知られるレニー・リプトンは、現在のデジタルプロジェクターは「(光学的に見て)効率が悪い」と断言している。「光の半分は右目、半分が左目に入るから、単純に明るさが50%減るということだ」。さらに3D用の眼鏡も光を吸収する。
現在、大半の映画館が3D作品を3〜6フットランバート(fL)の輝度で上映している。fLとは、簡単に言えばフィルムを入れていない映写機がスクリーンに投じる光量のこと。アナログ映写機では大体15fLで、オリジナルのアイマックス(大型映像システム)では22fLだった。
6)デジタルプロジェクターを売りたい商魂が透けて見える 3D上映用機材の導入は巨額のコストが掛かるため、当初は映画館が難色を示し、コストの一部を映画会社が負担すべきだと主張していた。これに対して一部の映画会社は、3Dで上映しないなら2Dでの上映も認めないと主張して映画館に圧力をかけた。
ほとんどの映画館の映写室には、アナログとデジタルの映写機を置くスペースがあるのに、アナログ時代は終わったとばかり、デジタルへの切り替えを迫るセールス攻勢がかけられている。
7)観客は特別料金をふんだくられる 3Dの上乗せ料金はこのまま定着するのか、プロジェクターの元が取れたら無くなるのか。
特別料金は、親たちの頭痛の種だ。子供は宣伝にだまされて「3Dじゃなきゃ嫌だ」と言い張る。私は『タイタンの戦い』の映画評でこう書いた。「この映画は3D映像として製作されたものではない。5ドルの特別料金を取るために3Dで上映されるだけだ。2Dで見ても十分楽しめると、子供に教えてあげたほうがいい」
『タイタンの戦い』は『アバター』に続く2匹目のどじょうを狙って、慌てて3D効果が付け加えられた映画だ。3Dアニメに社運を懸けるドリームワークスのジェフリー・カッツェンバーグでさえ、『タイタンの戦い』の3Dは「観客をだますものだ」と酷評した。ちゃちな疑似3Dは金の卵を生むはずのガチョウを殺してしまいかねないと、カッツェンバーグはバラエティー誌のインタビューで語っている。
8)シリアスなドラマに3Dは必要ない かつてアルフレッド・ヒッチコックは3Dで撮影した『ダイヤルMを廻せ!』の出来に不満で、ニューヨークでの封切りでは2D版を上映した。3Dはもっぱらコンピューターで製作する作品に向いているらしい。子供向けの映画やアニメ、そして『アバター』のような作品だ。
もちろん、ジェームズ・キャメロン監督の『アバター』は別格だ。素晴らしい映画で、オリジナルのアイマックス・システムのスクリーンなら臨場感抜群。それに史上最高の興行収入を挙げている。
この映画は3Dの広告塔として利用されているが、(特別料金のない)2Dでも成功したのではないだろうか。全米興行収入の史上第2位は同じキャメロンの『タイタニック』で、こちらはもちろん2Dだった。
それでも『アバター』は3Dをとても効果的に使っている。最初から3D用に計画を立て、2億5000万ドルを投じて完成させたキャメロンは撮影と編集の達人だ。だが、ほかの監督は特別料金を上乗せしたい映画会社のお偉方に3Dを強制されている。
例えばティム・バートン。『アリス・イン・ワンダーランド』(アイマックス3D版)は、マーケティング担当の重役に無理やり作らされた擬似3D映画だ。なるほど興行収入は文句なしだった。しかし3D効果はほんの蛇足で、追加料金を正当化するための詐欺まがいの行為だった。
今ではキャメロンまでが『タイタニック』の疑似3D化を計画している。そういえば3Dドキュメンタリー映画『ジェームズ・キャメロンのタイタニックの秘密』は、沈没したタイタニック号をキャメロンが個人的に撮影したものだった。3D版『タイタニック』は3D用に作られた本物ではないが、キャメロンなら過去の誰よりもうまく「擬似3D」を作りそうだ。
それでも私は言いたい。『タイタニック』はそのままで素晴らしい映画なのに、なぜ余計な手を加える必要があるのか。歴代興行収入2位の作品でもうひと稼ぎしようという魂胆が見え見えだ。
私は以前、マーティン・スコセッシのような監督が3Dに取り組んだら、3Dに対する評価を変えるかもしれないと言った。絶対にそんなことはないと高をくくっていたのだが、そのスコセッシが児童文学『ユゴーの不思議な発明』を3Dで映画化すると発表した(11年公開予定)。映画を知り尽くし、その可能性にほれ込んでいるスコセッシなら、自分のニーズに合わせて3Dをうまく使うはずだ。
私が敬愛するウェルナー・ヘルツォーク監督は、フランスの先史時代の洞窟絵画を取り上げたドキュメンタリーを3Dで撮影している。古代の洞窟のくぼみをより鮮明に映し出すためだ。
自分の作品はあくまでスクリーンの平面にとどまると、ヘルツォークは言った。つまり、映像が飛び出すわけではないということだ。観客は絵画と同じ空間にいるような錯覚を抱き、先史時代の芸術家と同じ目線で絵画を味わえる。
9)ハリウッドは危機を感じるたびに新技術に頼ってきた トーキー、カラー、ワイドスクリーン、ステレオ音響、そして3D。要するに、最新技術によって家庭ではできない体験を提供するということだ。
ブルーレイディスクやHDケーブルテレビの登場で、家庭でも映画館に近い体験ができるようになった。3Dは映画館と家庭の差を広げたが、今度は家庭用3Dテレビが再び差を縮めるかもしれない。
ハリウッドに必要なのは、家庭での体験より格段に素晴らしい「極上の」体験、特別料金に値する体験だ。私は以前から、マキシビジョン48という映像方式を高く評価してきた。既存の映画技術を使うが、1秒間に48コマ(48fps)で撮影し、ちらつきのまったくない映像を提供する。
今の映画は24fps。トーキー映画初期にアナログ音声を乗せるにはそれが限界の速度だったからだ。だがマキシビジョン48は48fpsなので、画質は2倍向上する。
私はマキシビジョン48も、少し前の方式であるショースキャンもこの目で見た。どちらも非常に素晴らしく、スクリーンが「3次元への窓」の役割を果たす。映画好きが見たら、3Dのことなど頭から消え去ってしまうだろう。
私は3Dという映像方式に反対しているのではない。ハリウッドが3Dで塗りつぶされてしまうことに反対なのだ。3Dのせいで、大手映画会社の路線はアカデミー賞に値する映画作りから遠ざかっているような気がする。スコセッシやヘルツォークは大人の映画を作るが、ハリウッドは先を争って子供向け市場に殺到している。
大手映画会社はストーリーと作品の質に対するこだわりを失いつつある気がする。今は何でもかんでもマーケティング優先だ。
ハリウッドはあらゆるタイプの映画に使える、過去のどんな方式よりも圧倒的に優れた映像方式を必要としている。マーケティング担当重役の言うとおり、観客は家庭では味わえない極上の体験を映画館に求めている。しかし、探している答えは3Dではない。
2Dの豊かな表現力を忘れて子供だましの映画が量産されかねない。映像体験を進化させる方法は別にある──
ロジャー・エバート(シカゴ・サンタイムズ紙映画評論家)
映画は2Dで十分。「もう1つの次元」は必要ない。ハリウッドが雪崩を打って3Dに走るのは自殺行為だ。飛び出す映像は観客の集中を妨げる場合があり、人によっては吐き気や頭痛の原因になる。映画館に高価な投影機材を売り付け、観客から上乗せ料金をふんだくろうとする狙いが透けて見える。
3D映像は標準的な2Dより明らかに暗い。シリアスな映画には不向き。監督の「撮りたい映画を撮る自由」を縛る。R指定(17歳未満は保護者同伴)などの大人向け映画の観客には、特別料金に見合う満足感はまず与えてくれない。
マーケティングの観点から見れば、私の考えが「異端」であることは承知の上だ。何しろ3Dはハリウッドに史上最大のドル箱商品をもたらし(『アバター』の世界興行収入は27億ドルを超え、さらに記録を更新中)、ほかにも数々のヒット映画を生んでいる。今年の3大ヒット作『アリス・イン・ワンダーランド』『ヒックとドラゴン』『タイタンの戦い』はいずれも3Dで上映されている。
それでも、3Dの限界について私と同じ考えを持つ監督や雑誌編集者、撮影監督、映画ファンは少なくない。映画会社の重役たちの中にも今のブームに抵抗を感じている人がいる。
50年代に一時期話題を呼んだステレオスコープで、3D技術は既に無意味なオモチャであることが分かったはず。ここで異端派の見方を1つずつ説明しよう。
1)もう1つの次元は要らない 2Dの映画を見ているときも、観客の頭の中では3Dの映像が見えている。地平線上の小さな染みのように見えるアラビアのロレンスが、砂漠に馬を駆ってぐんぐん迫ってきたとき、あなたは「あら、少しずつ体が大きくなるよ」と思うだろうか。
私たちの脳は、遠近法で奥行きを感じ取る。人工的にもう1つの次元を加えれば、平面上の奥行きがあざとい感じになるだけだ。
2)より深い感動を与えることはない 心を揺さぶられた映画を思い出してほしい。3Dにする必要があるだろうか。偉大な映画は私たちの想像力を刺激してやまない。『カサブランカ』が3Dになっても、感動が大きくなることはない。
3)集中を妨げる場合がある 3D映画には、2D画像を左目用と右目用に分離しただけのものもある。その結果、ある物体が別の物体の上に浮かんでいるように見えるが、すべてが平板な印象は否めない。
2Dでは、焦点を変えることで観客の目を画面上の1点に引き付ける手法がよく使われる。3Dは前景も背景もくっきりとクリアに見せることを狙っているようだが、その必要があるとは思えないし、観客の注意を引き付ける手段を監督から奪うことになる。
4)人によっては吐き気や頭痛を催す 3Dテレビが市場に登場する直前、ロイター通信が眼科学の権威2人に目に与える影響を聞いた。
その1人ノースウェスタン大学のマイケル・ローゼンバーグ教授によると、「左右の目の周りの筋肉のアンバランスなど、非常に軽い障害があっても、それに気付かずに生活している人が大勢いる」らしい。「通常は脳がうまく調節している」ので支障を感じないが、3D映像を見るという非日常的な体験をすると、「脳に負担をかけることになり、頭痛を起こしやすい」とのことだ。
私たちは普段、左右の目で微妙に異なる角度から物を見ていると、眼科学と神経学の専門家であるロチェスター大学医学センターのデボラ・フリードマン教授は説明する。「それを脳で処理して奥行きを認識している。3D映画の立体感は、人間の目と脳の仕組みとは違ったトリックで作られている」
消費者向け情報誌コンシューマー・リポーツによれば、3D映画を見た人の約15%が頭痛や目の疲れを訴えるという。
5)画面がやや暗い 3D映像システムの父として知られるレニー・リプトンは、現在のデジタルプロジェクターは「(光学的に見て)効率が悪い」と断言している。「光の半分は右目、半分が左目に入るから、単純に明るさが50%減るということだ」。さらに3D用の眼鏡も光を吸収する。
現在、大半の映画館が3D作品を3〜6フットランバート(fL)の輝度で上映している。fLとは、簡単に言えばフィルムを入れていない映写機がスクリーンに投じる光量のこと。アナログ映写機では大体15fLで、オリジナルのアイマックス(大型映像システム)では22fLだった。
6)デジタルプロジェクターを売りたい商魂が透けて見える 3D上映用機材の導入は巨額のコストが掛かるため、当初は映画館が難色を示し、コストの一部を映画会社が負担すべきだと主張していた。これに対して一部の映画会社は、3Dで上映しないなら2Dでの上映も認めないと主張して映画館に圧力をかけた。
ほとんどの映画館の映写室には、アナログとデジタルの映写機を置くスペースがあるのに、アナログ時代は終わったとばかり、デジタルへの切り替えを迫るセールス攻勢がかけられている。
7)観客は特別料金をふんだくられる 3Dの上乗せ料金はこのまま定着するのか、プロジェクターの元が取れたら無くなるのか。
特別料金は、親たちの頭痛の種だ。子供は宣伝にだまされて「3Dじゃなきゃ嫌だ」と言い張る。私は『タイタンの戦い』の映画評でこう書いた。「この映画は3D映像として製作されたものではない。5ドルの特別料金を取るために3Dで上映されるだけだ。2Dで見ても十分楽しめると、子供に教えてあげたほうがいい」
『タイタンの戦い』は『アバター』に続く2匹目のどじょうを狙って、慌てて3D効果が付け加えられた映画だ。3Dアニメに社運を懸けるドリームワークスのジェフリー・カッツェンバーグでさえ、『タイタンの戦い』の3Dは「観客をだますものだ」と酷評した。ちゃちな疑似3Dは金の卵を生むはずのガチョウを殺してしまいかねないと、カッツェンバーグはバラエティー誌のインタビューで語っている。
8)シリアスなドラマに3Dは必要ない かつてアルフレッド・ヒッチコックは3Dで撮影した『ダイヤルMを廻せ!』の出来に不満で、ニューヨークでの封切りでは2D版を上映した。3Dはもっぱらコンピューターで製作する作品に向いているらしい。子供向けの映画やアニメ、そして『アバター』のような作品だ。
もちろん、ジェームズ・キャメロン監督の『アバター』は別格だ。素晴らしい映画で、オリジナルのアイマックス・システムのスクリーンなら臨場感抜群。それに史上最高の興行収入を挙げている。
この映画は3Dの広告塔として利用されているが、(特別料金のない)2Dでも成功したのではないだろうか。全米興行収入の史上第2位は同じキャメロンの『タイタニック』で、こちらはもちろん2Dだった。
それでも『アバター』は3Dをとても効果的に使っている。最初から3D用に計画を立て、2億5000万ドルを投じて完成させたキャメロンは撮影と編集の達人だ。だが、ほかの監督は特別料金を上乗せしたい映画会社のお偉方に3Dを強制されている。
例えばティム・バートン。『アリス・イン・ワンダーランド』(アイマックス3D版)は、マーケティング担当の重役に無理やり作らされた擬似3D映画だ。なるほど興行収入は文句なしだった。しかし3D効果はほんの蛇足で、追加料金を正当化するための詐欺まがいの行為だった。
今ではキャメロンまでが『タイタニック』の疑似3D化を計画している。そういえば3Dドキュメンタリー映画『ジェームズ・キャメロンのタイタニックの秘密』は、沈没したタイタニック号をキャメロンが個人的に撮影したものだった。3D版『タイタニック』は3D用に作られた本物ではないが、キャメロンなら過去の誰よりもうまく「擬似3D」を作りそうだ。
それでも私は言いたい。『タイタニック』はそのままで素晴らしい映画なのに、なぜ余計な手を加える必要があるのか。歴代興行収入2位の作品でもうひと稼ぎしようという魂胆が見え見えだ。
私は以前、マーティン・スコセッシのような監督が3Dに取り組んだら、3Dに対する評価を変えるかもしれないと言った。絶対にそんなことはないと高をくくっていたのだが、そのスコセッシが児童文学『ユゴーの不思議な発明』を3Dで映画化すると発表した(11年公開予定)。映画を知り尽くし、その可能性にほれ込んでいるスコセッシなら、自分のニーズに合わせて3Dをうまく使うはずだ。
私が敬愛するウェルナー・ヘルツォーク監督は、フランスの先史時代の洞窟絵画を取り上げたドキュメンタリーを3Dで撮影している。古代の洞窟のくぼみをより鮮明に映し出すためだ。
自分の作品はあくまでスクリーンの平面にとどまると、ヘルツォークは言った。つまり、映像が飛び出すわけではないということだ。観客は絵画と同じ空間にいるような錯覚を抱き、先史時代の芸術家と同じ目線で絵画を味わえる。
9)ハリウッドは危機を感じるたびに新技術に頼ってきた トーキー、カラー、ワイドスクリーン、ステレオ音響、そして3D。要するに、最新技術によって家庭ではできない体験を提供するということだ。
ブルーレイディスクやHDケーブルテレビの登場で、家庭でも映画館に近い体験ができるようになった。3Dは映画館と家庭の差を広げたが、今度は家庭用3Dテレビが再び差を縮めるかもしれない。
ハリウッドに必要なのは、家庭での体験より格段に素晴らしい「極上の」体験、特別料金に値する体験だ。私は以前から、マキシビジョン48という映像方式を高く評価してきた。既存の映画技術を使うが、1秒間に48コマ(48fps)で撮影し、ちらつきのまったくない映像を提供する。
今の映画は24fps。トーキー映画初期にアナログ音声を乗せるにはそれが限界の速度だったからだ。だがマキシビジョン48は48fpsなので、画質は2倍向上する。
私はマキシビジョン48も、少し前の方式であるショースキャンもこの目で見た。どちらも非常に素晴らしく、スクリーンが「3次元への窓」の役割を果たす。映画好きが見たら、3Dのことなど頭から消え去ってしまうだろう。
私は3Dという映像方式に反対しているのではない。ハリウッドが3Dで塗りつぶされてしまうことに反対なのだ。3Dのせいで、大手映画会社の路線はアカデミー賞に値する映画作りから遠ざかっているような気がする。スコセッシやヘルツォークは大人の映画を作るが、ハリウッドは先を争って子供向け市場に殺到している。
大手映画会社はストーリーと作品の質に対するこだわりを失いつつある気がする。今は何でもかんでもマーケティング優先だ。
ハリウッドはあらゆるタイプの映画に使える、過去のどんな方式よりも圧倒的に優れた映像方式を必要としている。マーケティング担当重役の言うとおり、観客は家庭では味わえない極上の体験を映画館に求めている。しかし、探している答えは3Dではない。
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