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2009年12月04日

「ロックフェラー 対 ロスチャイルド」

「ロックフェラー 対 ロスチャイルド」説の研究

■■■第1章:「ロックフェラー対ロスチャイルド」説の登場


●アメリカを代表する「ロックフェラー財閥」と、イギリスを代表する「ロスチャイルド財閥」は、不倶戴天の敵であるという説がある。この説によれば、この二大財閥の対立構造は、そのまま米英の対決の歴史を物語るという。

 


↑藤井昇氏の研究に基づいて作成された表(二大陣営)

 

●この説を最初に日本で唱えたのは、「ハーバード大学国際問題研究所」の研究員で、現在、国際政治学者として活動している藤井昇氏であろう。彼は1994年に『ロックフェラー対ロスチャイルド──巨大対立軸のなか、日本の進むべき道を探る』(徳間書店)という本を出し、注目を浴びた。

 


『ロックフェラー対ロスチャイルド』
藤井昇著(徳間書店)

 

●藤井昇氏は主張する。

「資本主義VS社会主義というイデオロギーの対立が終焉した今、世界を突き動かすダイナミズムはどのような構図で生まれるのか。第三世界を経済発展のエンジンにしようとする『グローバリスト』と、一国ないし一企業繁栄主義をとる『ネイティビスト』の経済対立の構図こそが、世界激変の真相である」と。


彼の説は、当時、『サピオ』(1994年10月13日号/小学館)でも紹介された。

 

 
『サピオ』(1994年10月13日号/小学館)

 

参考までに、この記事の内容を下に載せておきたいと思う。

 

 

 

 
誰がこの世界激変を仕組んだ黒幕か


ロックフェラー家 vs ロスチャイルド家の
対立構造から次の世紀の主役を読む


藤井昇氏

 


国際情勢の激変、その千変万化の実態を目撃していると、一体この現象の背後で、誰がこれらの激変を動かしているのか? と考えざるを得ない。永田町における極めてドメスティックな政変劇ですら、表面に報道されていることと、“真相”は異なっている。だとすれば、国際情勢の大変動に関しては、さらに重大な真相が隠されているのではないか、と思われるのである。

そこで、数々の“陰謀論”が登場することになる。いずれもナンセンスと思われるこれら“陰謀論”のいくつかのパターンを復習しておこう。


◆ユダヤ陰謀論: 偽書『シオンの長老の議定書』などをふりまわし、何でもユダヤの陰謀にしてしまう説。この手の単純なデマゴギーを真に受ける日本人が多いのには、驚かされる。先日、日本で働いているイスラエル人と話したが、彼は「相当に知的レベルの高い日本人まで、この手の陰謀論を信じているのには参った」とうんざりしていた。全世界1500万人のユダヤ人が単一の陰謀をめぐらしているなどというのも信じられぬ話である。


◆ロスチャイルド陰謀論: ユダヤ系財閥の中でも、もっともエスタブリッシュメント的であるロスチャイルド財閥を陰謀の中枢とする説。たしかにロスチャイルド家の系図の広がりは膨大である。しかし、そのことが必ずしもロスチャイルド家の権力もしくは影響力を実証することにはならないのではないだろうか。血が拡散し、血縁が増えるということは、ファミリーの結束力が弱まり、その力が分散し、他のファミリーの影響力が侵入してくるということでもある。


◆ロックフェラー陰謀論: アメリカの、いわゆるWASP(ホワイト・アングロサクソン・プロテスタント)エスタブリッシュメントの中でも、もっとも名門のロックフェラー財閥を世界的陰謀の中心とする説。ロックフェラー家は厳密にいえば、南ドイツ出身のプロテスタント系のファミリーで、アングロサクソンではないが、広義におけるワスプ・エスタブリッシュメントの一員といえる。ロックフェラー財閥は、後述のように、時代の先行指標として注目すべきだが、決して単一の陰謀の中心になるほどの力はない。


◆日米欧委員会・CFR陰謀論: この2つは、いわゆるロックフェラー陰謀論のバリエーションである。


日米欧委員会は、ロックフェラー財閥のデビッド・ロックフェラー氏が、ブレジンスキー元大統領補佐官などのアイデアに従ってつくった日米欧のエリート間の調整組織。カーター政権の主要閣僚がほとんど日米欧委員会のメンバーであることから注目を集めた。レーガン、ブッシュの共和党政権時代は休眠状態であったが、民主党のクリントン政権の誕生とともに再び注目を集めている。

CFR(対外関係評議会)は、やはりロックフェラー財閥を中心につくられたアメリカ外交政策の名門シンクタンク。たしかに第二次大戦直後から冷戦の開始、朝鮮戦争、ベトナム戦争の開始時点までの対外関係評議会の外交政策フォーラムとしてのコンセンサス形成力には抜群のものがあった。民主・共和両党の外交エリートを集め、超党派主義で、対共産主義の冷戦を戦い抜く基盤をつくった。しかし、ベトナム戦争での国論の分裂の時代から、CFRの外交政策形成力は著しく低下して来た。無視はできないが、今や老舗の一シンクタンクといったところであろう。

日米欧委員会についてみても、1年に1回、2日や3日の討論をやったところで、陰謀をめぐらすだけの中央集権的な力が生ずるわけではない。日米欧の政策にかかわるエリートの間に、一定のコンセンサスを形成しようとしてできた国際組織だが、ソフトな影響力に限ってみても、日米欧委員会を陰謀の中心とすることなど、とてもできないだろう。

 

■■資本主義の構造変化こそが世界激変の主人公となる


近年、日本において“陰謀論”が流行している理由の一つは、日本の不景気、特にバブル崩壊のショックであろう。“アメリカをも凌ぐ勢いで発展して来ていた強い日本経済はどうなったのだ、今日の不況はきっと何者かの日本をターゲットにした陰謀であるに違いない”というような意見は俗耳に入りやすいのである。

しかしフリーメイソンやら何やら持ち出しての《神秘的》もしくは《一元的》説明論は、あまりに非現実的である。「今日の世界の激変は誰が動かしているのか」というような大きな疑問には、筆者は二段階で考えるのが適当だと思う。

根底的には、世界の資本主義の構造変化が、もっとも重要な変動の原動力となっている。単に日米欧市場のボーダレス化などのことをいっているのではない。今や世界の資本王義は、低開発諸国の経済開発ブームに成長の主要エンジンを求める方向に、構造転換をとげつつある。中国、東南アジア、インドの経済成長は急だ。さらにNAFTA(北米自由貿易協定)でアメリカと運命共同体になったメキシコ、またその南の中南米の国々もこれを追いつつある。中東和平とともに中東地域にも経済開発ブームがやって来ている。

1980年代に明らかになった先進資本主義諸国のマーケットの構造的停滞、実質経済成長率の低迷。確かに、マルチメディア・ブームなどが言われてはいるが、先進資本主義国における、実質経済成長に結びつく有効な投資機会は確実に減少している。1980年代初頭以来、「ハイテク成長論」「高度情報化社会論」「第三の波」等々のブームはあったが、現実には経済成長の余力はますますやせ細って来ている。

その一方で、資本は新たな投資機会を求めて、第三世界・低開発国へ続々と投資されてゆく。これらの国々では、既存のテクノロジーを展開するだけで、いまだに“高度成長”が可能だからである。

マクロ的に考えてみれば、先進国の人口は全人類のたった15%、低開発国(旧共産圏を含む)の人口は85%。先進国マーケットの構造停滞をしり目に、資本は増殖を求めて北から南に大移動を始めたのだ。今後の約100年は、第三世界の開発、近代化ブームが、世界経済を牽引してゆく最大のエンジンとなるであろう。

これは、資本主義の構造変化そのものなのである。この“構造変化”こそが、「世界激変を動かしている」最大の主人公であろう。これが本質論である。そして、このような南北間の共生的発展を推進しようとするグループ、人々、企業もいれば、このような潮流に反対しようとするグループ、人々、企業もいる。

実はこの2つの大きなトレンドのぶつかり合いこそが、政治や経済の内部で起きている矛盾・闘争・抗争・対立の実態なのである。

南北間の共生的発展を推進しようとする企業や個人を「グローバリスト(Globalist)」と呼び、この潮流に反対する企業や個人を「ネイティビスト(Nativist)」と呼ぼう。ごく単純化していうならば、グローバリスト対ネイティビストの対立が実体論における「世界激変」の原因であることになる。

 

■■ロックフェラー財閥を中心とする企業集団に注目


世界的に見て、多国籍企業的な財界は、おおむね、グローバリスト化する傾向にあるし、国内マーケット重視の企業、労働組合、農業関係者などは、自らの利害からネイティビスト化する傾向にある。また当然のことながら、キリスト教・イスラム教・ユダヤ教・ヒンズー教等々、様々な宗教でも、原理主義運動は、ネイティビスト化する傾向にある。しかし大事な点は、多国籍企業的グローバリストの主張は何でもボーダーレス化しようというわけではない点だ。それぞれの国や民族の個性を生かしながら、低開発国の開発を行なっていこうという立場である。

多国籍企業の中で、もっともグローバリスト(親第三世界)的な傾向をはっきりと打ち出しているのが、「IBM」「GM」「GE」などのアングロサクソン的な多国籍企業財界の中枢部である。彼らはアメリカ国内のネイティビストたちと闘いながらNAFTAを成立させ、APEC(アジア太平洋経済協力会議)のシアトルでの首脳会談を成功させ(1993年11月)、中国へのアメリカ政府の最恵国待遇を延長(1994年5月)させた原動力である。もちろん、1993年9月13日のイスラエル=PLO和解も、米財界主流の支持によって成立したものである。

一方、多国籍企業でも、アラブの対イスラエル・ボイコット・リストに載っていた「コカ・コーラ」や「AT&T」に代表されるシオニスト派と見られている企業は、真にグローバル化することはできなかった。英ロスチャイルド財閥の企業も、対アラブ問題からネイティビスト的傾向にあったと思われる。しかしこのような対立も、中東和平の本格推進とともに解消してきている。

また、財閥の中で、もっともグローバリスト的な第三世界開発戦略を明確に打ち出しているのが、米ロックフェラー財閥といっても差しつかえないだろう。ロックフェラー財閥のこのような親第三世界的な姿勢は、すでに第二次大戦前の中国でも見られた。中国での農村の生活改善や近代医療の普及に、ロックフェラー財閥はかなりの努力を傾注している。

第二次大戦後で画期的だったのは、1962年のフィリピンでのロックフェラー財閥による「国際稲作研究所」の設立であった。この研究所の研究は、いわゆる『緑の革命』による稲や麦の増産に結びつき、世界農業に広範で複雑な影響を与えることになる。





そこで時代の先行指標としては、ロックフェラー財閥がらみの様々な組織(日米欧委員会など)の動きを見てゆくことが、大事になる。これは「ロックフェラー陰謀説」ではなく、世界資本主義のお目付け役的な役割をになっているアメリカ保守本流の財閥が、多国籍企業的なグローバリズムの先行指標の役割を果たしているということにすぎない。各国の保護主義者、過激な民族派、宗教原理主義者などは、ネイティビズムの中心である。

このような立場からすれば、各国エリートの意見を知り、またその意見をある程度の枠内に収束させようと考え、そのために様々なエリートの協調機関・組織をつくってゆくのは当然のことであろう。

posted by hilde at 02:34| 趣味
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