2009年11月14日
変革を組織に定着させる「武勇伝」の効力
事業環境が刻々と変化する中で、変化に適応し、あるいは変化を先取りするために組織変革に乗り出す企業は少なくない。しかし、複雑な組織構造にメスを入れ、社員の行動を変えることは、言うまでもなく一筋縄では行かない。
変革がスタートする段階から大多数の社員の合意が取れていることなど稀である。通常は、変革を強く支持する一部のグループと、一部の根強い反対勢力と、どちらのグループを支持するか決めかねている大多数の中間層に分かれるのが一般的だ。変革推進グループは、変革を推し進めながら、徐々に変革の正当性を証明する必要に迫られる。
私は現在、ある企業で営業スタイルの変革のお手伝いをさせていただいており、営業担当者が新しい営業スタイルを習得するための研修を実施している。このクライアントは、市場の成熟と競合他社からの激しい攻撃により新規商談の機会が減少し、かつ1つ1つの商談規模も小さくなりつつあるという問題を抱えていた。そこで、従来の営業スタイルに加えて新たな営業スタイルを確立し、それを実践できる営業人材を育成するという変革に数年前から着手している。
だが、今までの営業スタイルとはかなり異なる手法であるため、社員の中には当然のことながら懐疑派も存在する。特に、今までの営業スタイルで高い業績を上げてきた上の年代には、明確に反対の態度こそ示さないものの、変革に理解を示さなかったり、新しい営業スタイルで商談を進める部下やチームメンバーを支援しなかったりすることがあるという。
変革を成功させる1つの要因として、ジョン・コッターは「短期的な成果の追求」(※)を挙げている。変革とは中長期的な取り組みであり、往々にして数年に及ぶ。しかし、変革が終わるまで何も成果が出ないとなると、変革を推進する人間もさすがに息切れしてしまうし、反対勢力にも変革の無効性を主張する格好のネタを与えることになってしまう。だから、変革の成果を見える化し、変革が着実に実を結びつつあることを早い段階で示すことが非常に重要である。
短期的な成果を可視化する1つの方法が、KPI(Key Performance Indicator)の設定である。つまり、変革の成果を定量的に測定する指標を設定し、その数値をモニタリングすることである。これだと一発で成果の有無が見えるし、成果が出ていなければ何らかの策を打たなければならないこともすぐに解る。先のクライアントでも、「新しい営業スタイルによる商談件数」、「新しい営業スタイルによる総受注金額、商談1件あたりの平均受注金額」などの指標を用いている。
だが、KPIの数値がいくら上がっていても、「自分とは関係ない」とか、「上手くできる人にはできるかもしれないが、自分にはできない」と斜に構えた人はいるものである。数値は論理的に訴えることはできても、感情に訴えるのはどうしても苦手である。そこで、変革推進グループがもう1つ気を配らなければならないのが、社員の「武勇伝」だと思う。すなわち、成功ストーリーを蓄積することである。
先日、先のクライアントで研修を実施した際、事務局の方から、「前回の研修の受講者が、ある新規顧客の案件を手がけたんです。しかし、すでに他社の製品を導入することである程度決まっていたらしく、最初は先方の担当者から全然相手にしてもらえずに、『お前、帰れ』ぐらいのことを言われていました。でも、その受講者が『その製品を導入しただけでは御社の本当の課題は解決しない』ということを、新しい営業スタイルを活用してしつこく訴えたんです。そうしたら、最後の最後に大逆転して3億円の商談を受注したんですよ。」という話を聞いた。
こうした物語が数値と決定的に異なるのは、聴き手が自分を投影することができる点である。物語には、「そういう体験ができるなら、自分もちょっとやってみようかな」と思わせる効力がある。こうした武勇伝がもっと社員に広まれば、新しい営業スタイルの伝播スピードが上がるだろうなと私は感じた。なお、本当にすごすぎて誰も真似できない武勇伝だけでは意味がないため、できるだけ多様な物語を集める方が効果的だろう。どれか1つぐらいは自分にもできそうだ、と社員が実感できる「武勇伝データベース」を構築することは、決して無駄ではないと思う。
もちろん、武勇伝ばかりが一人歩きするのも考えものである。物語のインパクトが強すぎると、実態を正しく認識する力が麻痺する可能性もある。すごい成功ストーリーが生まれたが、ふたを開けたら変革の成果はその成功ストーリー1件だけだった、というのでは喜べない。KPIによる定量的なモニタリングと、武勇伝の蓄積による定性的な体験の構築を上手く組み合わせることが大切である。言い換えれば、論理と情理のバランスを取りながら、変革の成果を見える化することが、変革の正当性を示すことにつながる。
変革がスタートする段階から大多数の社員の合意が取れていることなど稀である。通常は、変革を強く支持する一部のグループと、一部の根強い反対勢力と、どちらのグループを支持するか決めかねている大多数の中間層に分かれるのが一般的だ。変革推進グループは、変革を推し進めながら、徐々に変革の正当性を証明する必要に迫られる。
私は現在、ある企業で営業スタイルの変革のお手伝いをさせていただいており、営業担当者が新しい営業スタイルを習得するための研修を実施している。このクライアントは、市場の成熟と競合他社からの激しい攻撃により新規商談の機会が減少し、かつ1つ1つの商談規模も小さくなりつつあるという問題を抱えていた。そこで、従来の営業スタイルに加えて新たな営業スタイルを確立し、それを実践できる営業人材を育成するという変革に数年前から着手している。
だが、今までの営業スタイルとはかなり異なる手法であるため、社員の中には当然のことながら懐疑派も存在する。特に、今までの営業スタイルで高い業績を上げてきた上の年代には、明確に反対の態度こそ示さないものの、変革に理解を示さなかったり、新しい営業スタイルで商談を進める部下やチームメンバーを支援しなかったりすることがあるという。
変革を成功させる1つの要因として、ジョン・コッターは「短期的な成果の追求」(※)を挙げている。変革とは中長期的な取り組みであり、往々にして数年に及ぶ。しかし、変革が終わるまで何も成果が出ないとなると、変革を推進する人間もさすがに息切れしてしまうし、反対勢力にも変革の無効性を主張する格好のネタを与えることになってしまう。だから、変革の成果を見える化し、変革が着実に実を結びつつあることを早い段階で示すことが非常に重要である。
短期的な成果を可視化する1つの方法が、KPI(Key Performance Indicator)の設定である。つまり、変革の成果を定量的に測定する指標を設定し、その数値をモニタリングすることである。これだと一発で成果の有無が見えるし、成果が出ていなければ何らかの策を打たなければならないこともすぐに解る。先のクライアントでも、「新しい営業スタイルによる商談件数」、「新しい営業スタイルによる総受注金額、商談1件あたりの平均受注金額」などの指標を用いている。
だが、KPIの数値がいくら上がっていても、「自分とは関係ない」とか、「上手くできる人にはできるかもしれないが、自分にはできない」と斜に構えた人はいるものである。数値は論理的に訴えることはできても、感情に訴えるのはどうしても苦手である。そこで、変革推進グループがもう1つ気を配らなければならないのが、社員の「武勇伝」だと思う。すなわち、成功ストーリーを蓄積することである。
先日、先のクライアントで研修を実施した際、事務局の方から、「前回の研修の受講者が、ある新規顧客の案件を手がけたんです。しかし、すでに他社の製品を導入することである程度決まっていたらしく、最初は先方の担当者から全然相手にしてもらえずに、『お前、帰れ』ぐらいのことを言われていました。でも、その受講者が『その製品を導入しただけでは御社の本当の課題は解決しない』ということを、新しい営業スタイルを活用してしつこく訴えたんです。そうしたら、最後の最後に大逆転して3億円の商談を受注したんですよ。」という話を聞いた。
こうした物語が数値と決定的に異なるのは、聴き手が自分を投影することができる点である。物語には、「そういう体験ができるなら、自分もちょっとやってみようかな」と思わせる効力がある。こうした武勇伝がもっと社員に広まれば、新しい営業スタイルの伝播スピードが上がるだろうなと私は感じた。なお、本当にすごすぎて誰も真似できない武勇伝だけでは意味がないため、できるだけ多様な物語を集める方が効果的だろう。どれか1つぐらいは自分にもできそうだ、と社員が実感できる「武勇伝データベース」を構築することは、決して無駄ではないと思う。
もちろん、武勇伝ばかりが一人歩きするのも考えものである。物語のインパクトが強すぎると、実態を正しく認識する力が麻痺する可能性もある。すごい成功ストーリーが生まれたが、ふたを開けたら変革の成果はその成功ストーリー1件だけだった、というのでは喜べない。KPIによる定量的なモニタリングと、武勇伝の蓄積による定性的な体験の構築を上手く組み合わせることが大切である。言い換えれば、論理と情理のバランスを取りながら、変革の成果を見える化することが、変革の正当性を示すことにつながる。
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