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2022年01月31日

フランス語を話す三島由紀夫

1966年に撮られたインタビューで、三島由紀夫がフランス語を話している動画があったので取り上げる。





 まず谷崎亡きあとは三島由紀夫というかたちで、三島文学のフランス語の翻訳者から紹介されている。三島が日本文学のトップの作家であるということである。しかし、アメリカなどでは翻訳が盛んだが、いまだフランスでは「金閣寺」のほかは、十分知られていないとのことだ。これは「宴のあと」がフランス語に翻訳された機会に設けられたインタビューなのだろう。

 以下、インタビュアーと三島由紀夫の対談である。三島由紀夫は、英語は流暢だったし、法学部でドイツ語ができたはずだが、おそらく彼自身の文学のためにフランス語も学んでいたのだろう。ところどころ、フランス語で話している。三島のフランス語は、自らの芸術を構築するための読み中心のものだったように思われる。三島文学の源泉の一つが、フランス文学であった。
 そこで三島由紀夫がフランス語で話している箇所だけ引用してみる。

「日本文学には、伝統的なものと、現代的なものという二つの文学が存在していますか? 」という質問に対して、三島は、

Il n’y a pas opposition entre les deux tendences. La littérature japonaise contemporaine est une synthèse entre un apport occidental important et les formes nationalles traditionnelles.
「二つの傾向のあいだに対立はありません。現代日本文学は、西洋の重要な寄与と、日本の伝統的形態との総合であります。」

と答える(d’oppositionと言った方が文法的には正確だろうが、会話なのでこのぐらいは構わないだろう)。そこで質問者は、「古いものと、現代的なもの、二つのうちどちらの傾向にあなたは、愛着がありますか?」と聞く。ここから三島は、おそらく誤解が生じてはいけないので、日本語で話している。そこで三島が使ったフランス語は、「Je voudrais parler japonais.日本語で話したいと思います」である。
 
 ここから三島の話した内容はフランス語での解説によると、以下の通り、「自分の作品の傾向は、美学と心理学の総合です。二つの日本の伝統は、二つの異なる要素ではない。美学がレアリスムと対立しないところが、日本の独自性であると考えます。日本の作家には、私はそこに参加していないが、ある流派があります。それは、体験された小説、いわゆる私小説というジャンルです。それは西洋のロマン主義文学と、中世の日本の僧侶の告白文学との融合です。それが19世紀末から流行している文学的形態です。」

質問者は次に、「フランス文学であなたに影響を与えた作家はありますか?」と聞く。三島は以下のように答えた。


Oui, Raymond Radiguet que j’admire beaucoup. J’ai lu Le Bal du comte d'Orgel, très jeune. Celui m’a beaucoup frappé.
はい、レイモン・ラディゲにはとても感嘆しました。とても若いころ、「ドルジェル伯の舞踏会」を読みました。大変衝撃を受けました。

 「現代日本の作家が置かれている状況はいかなるものでしょうか。」という質問には、日本のそれは、かつてのアレクサンドル・デュマやゾラの時代を思わせるものであるとフランス語で答え、ここから日本語で話す。日本の小説は、その時代のように連載小説の形で根付いていると語る。

 そのあと「現代作家にテレビの影響はあるのか」という質問には、三島は、中産階級は、本を読むよりテレビを見るのを好むようになったが、連載小説はよく読まれていると答える。そこで日本の作家はまず小説を文芸雑誌に投稿しようとするのだと述べる。

 「原爆は、作品にインスピレーションを与えるのですか。」という問いには、三島は、「原爆の問題は、僕らには語りにくい問題で、それは、心の奥深くに、個人的感情としてとどまり続ける、深淵のようです。戦後、数年たって小説家は広島について扱い始めました。政治的観点から、あるいは、他の作家は、個人的な経験を、自伝的な小説の形をとって語ります。原爆から15年たって、想像力による作品が現われました。より客観的な観点から書かれた作品です」と述べる。
 まず自分の作品の「美しい星」をその例に挙げる。ナレーションが聞き取りにくいが、さらに井伏鱒二の「黒い雨」(65年から66年に連載)が優れた作品として例に挙げられるというインタビューの流れである。
 
 このインタビューの数年後に切腹することになるのだから、とんでもない男である。ラディゲが、三島由紀夫によって取り上げられているのが印象的だった。三島は、「ドルジェル伯の舞踏会」を書いて特攻隊で死ぬのが理想だと語った男なのであるから、その心酔ぶりがうかがわれる。
 
 このブログは、語学を勉強することが主題なので、語学的要素を取りあげるが、三島は、ラディゲを称えるために、frapperという単語を使っている。これは「殴る」の他に、「強い衝撃を与える、印象を与える」の意味がある。三島にとってラディゲは、頭を殴られるような芸術的な衝撃だったのだろう。
 
  僕自身このインタビューは刺激になった。三島由紀夫を再読する気になった。




*以下本の紹介です。まずフランス文学を語る三島由紀夫の本と、フランス語版の「金閣寺」。三島由紀夫はフランス文学の良き案内者。また日本文学がフランス語にどのように訳されるのか興味深い。さいごに話題になったラディゲの「ドルジェル伯の舞踏会」。


【中古】三島由紀夫のフランス文学講座 / 鹿島茂



Le Pavillon d'Or de Yukio Mishima (Essai et Dossier)



Le bal du comte d'Orgel



ドルジェル伯の舞踏会改版 (新潮文庫) [ レーモン・ラディゲ ]


posted by hidekifrance at 12:58 | TrackBack(0) | 聞き取り

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hideki。人文系の大学院生です。日々フランス語の勉強をしています。パリに留学していました。 資格(仏検1級保持)
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