2024年09月23日
日本昔話 無人島にながされた男
昔々、海辺の静かな村に、漁師の次郎兵衛という男が住んでいました。彼はその腕前で評判の漁師でしたが、謙虚さとはあまり縁がありませんでした。特に酒を飲んだ後は、自慢話が止まらず、村中の人々に「俺ほど海を知り尽くした者はいない!」と言ってはばかりませんでした。
ある晩、次郎兵衛がいつものように酒場で自慢話をしていると、酔っ払った友人たちがこう言いました。
「そんなに偉い漁師なら、無人島で生き延びてみろよ!何もないところで魚を捕まえ、火をおこし、水を見つけてこそ真の漁師だ!」
その挑発に次郎兵衛は激しく応じ、「何が無人島だ!俺ならどこでも生きていけるさ!」と胸を叩きました。すると、友人たちは大笑いし、「じゃあ、船を出してやるから、無人島で何日でも過ごしてみろよ!」と言いました。
翌朝、酔いも冷めぬうちに、次郎兵衛は友人たちに連れられて小さな船に乗せられ、沖へと漕ぎ出しました。彼らは本気で無人島に次郎兵衛を連れて行こうとしていました。次郎兵衛も引き下がるわけにはいかず、「よし、俺をその島に置いていけ!」と、まだ強気です。
そしてしばらく海を進むと、遠くに小さな島が見えてきました。友人たちは次郎兵衛をその島に下ろし、こう言いました。「じゃあな!お前が生き延びられるか、村に戻ってみんなに話してやるよ!」
次郎兵衛は笑いながら手を振り、友人たちが見えなくなるまで見送った後、島を見渡しました。しかし、島は見事に荒れ果て、木々も少なく、水の流れも聞こえません。今までの強気が急に心細くなり始め、次郎兵衛は焦り出しました。
「まあ、まずは火をおこさないとな…」
手当たり次第に枯れ木や小枝を集め、火打石で火をつけようとしましたが、思ったようにはいきません。汗がにじみ出し、手も震えてきます。「おかしいな、こんなはずじゃない…」と次郎兵衛は呟きました。
火をおこすことができないまま、日は沈み、寒さが体に染み渡ります。次郎兵衛は薄暗い夜の中、寒さに震えながらも、「俺は大丈夫だ。俺ならできる…」と自分に言い聞かせましたが、その声は次第に弱々しくなっていきました。
翌朝、次郎兵衛は飢えと疲れで目を覚ましました。海岸に打ち上げられた魚を見つけて捕まえようとしましたが、素手ではうまくいかず、何度も逃げられてしまいます。今度は水が欲しくなり、島を探し回りましたが、飲める水はどこにも見当たりません。
「助けてくれ…」
強がりだった次郎兵衛は、ついに声を上げて助けを求めました。自分ひとりでは何もできない現実に打ちのめされ、彼は初めて自分の限界を知ったのです。
それから数日後、次郎兵衛を迎えに来た友人たちが島に戻ってきました。彼らが見たのは、やつれ果てた次郎兵衛が海岸に座り込み、涙を流している姿でした。
「次郎兵衛!どうしたんだ、あれほど強気だったお前が!」
次郎兵衛はぼろぼろの声で答えました。「もう、俺は何も知らない。お前たちが言う通りだったよ…」
それ以来、次郎兵衛は決して自慢することはなくなり、謙虚な漁師として村の皆に親しまれるようになりました。彼は海の怖さと自分の弱さを知り、以前よりもずっと慎重に、そして感謝の気持ちを忘れずに日々を送るようになったのです。
村の人々は、次郎兵衛のその変わりように驚きましたが、彼の姿から大切な教訓を学びました。
それ以来、次郎兵衛の話は村の子どもたちに語り継がれ、海を知り尽くした“本当の”漁師として、彼の名は永遠に残るのでした。
ギャグ編
昔々、海辺の村に次郎兵衛という漁師がいました。彼は腕利きの漁師だと自分では信じて疑わず、村中で「俺ほど海を知り尽くした男はいない!」と、まるで自分が海の神様であるかのように自慢していました。そんな彼の口癖は、「俺の網にかからない魚なんて存在しない!」という、もう網が万能の道具か何かだと勘違いしているようなものでした。
ある日のこと、次郎兵衛が酒場でいつものように「俺なら一人でも無人島で一年ぐらい生き延びられるぜ!」と豪語していると、村人の一人がニヤリと笑いながら言いました。「じゃあ、試してみるか?今すぐ無人島に連れて行ってやるよ!」
次郎兵衛は酔った勢いもあって「いいぞ、やってみろ!」と大見得を切りました。ということで、翌朝、村人たちは次郎兵衛を小舟に乗せ、無人島へ向かいました。
島に着くやいなや、次郎兵衛はドヤ顔でこう言いました。「さて、これからが俺の出番だ!」村人たちは笑いながら船を漕ぎ出し、「じゃあな、次郎兵衛!一年後に迎えに来るぜ!」と冗談半分で言い残して去っていきました。
次郎兵衛は腕を組んで、「ふん、無人島なんて楽勝だ!」と豪語しましたが、しばらくして、ふと気づきました。
「…あれ?火打石、持ってないぞ。」
まずは火を起こそうとした次郎兵衛ですが、火打石を持っていないことに気づいて冷や汗が出ます。「ま、まぁ…木の枝をこすり合わせれば火くらい起きるだろ…」と無理に自分を励まし、早速木の枝をこすり合わせ始めました。
しかし、30分経っても火は出ません。1時間経っても、ただただ手が痛くなるばかり。次郎兵衛は泣きそうになりながら、「どうして火ってこんなに難しいんだ…!テレビでは簡単そうに見えたのに!」と心の中で叫びました。
次に、食べ物を探しに島を歩き回りました。魚を見つけようと海辺に行きましたが、素手で捕まえようとして、あっという間に逃げられました。「魚よ…俺の網が恋しくないか?」と必死に説得しようとしましたが、もちろん魚はそんなことを聞いてくれません。
さらに、水を探して島中を駆け回りましたが、見つかるのは潮水だけ。「おい、ちょっとぐらい甘い水を流してくれよ、海!」と文句を言いながら、渇きと戦う日々が続きました。
その晩、次郎兵衛は寒さに震えながら「うぅ…これがあのサバイバル番組だったら、今頃スタッフが差し入れしてくれるはずだ…」と夢を見ていましたが、もちろんそんな都合の良いことは起きません。
何日かが経ち、やつれた次郎兵衛が海岸でボーッとしていると、村人たちが船で戻ってきました。彼らは笑いながら言いました。「おい次郎兵衛、無人島での生活はどうだった?」
次郎兵衛は目に涙を浮かべながら、「俺、海を知り尽くしてるどころか…ただの陸のサルだったよ…」と、自らの過信を反省しました。村人たちは大笑いしながら彼を船に乗せ、村へと戻りました。
その日以来、次郎兵衛は決して自慢することなく、むしろ「俺は無人島で火も起こせない男だ!」と逆に自分をネタにして村の笑いを誘う、愉快な漁師として名を馳せました。
そして次郎兵衛の話は村中で語り継がれ、今でも酒場では「無人島の次郎兵衛」の話で笑いが絶えないのでした。