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2019年05月20日

俺の穴


俺の部屋のドアには穴があいている。

何故俺の部屋のドアに穴があいているかというと、俺は昔アルバイトだったが編集の仕事をしていた。

二年程で編集を辞めた時、俺は締め切りや人間関係のストレス、睡眠不足で本当に疲れ切っていた状態で、目の下のクマや抜け毛が俺の体の疲労を顕著に示していた。

次の仕事の事は考えず、しばらくはゆっくりと体と心を休ませようと二ヶ月くらい、当時彼女もいない俺はゲームやネットに明け暮れて完全に昼と夜の逆転した生活を送っていた。

完全な引篭もり生活だ(お恥ずかしい話です…)。

さすがに心配になったウチの母親の呼びかけも無視し続けていると(無視というより昼は寝ていて起きないだけだったのだが)、内側からドアに鍵をかけ、連日、中から物音が聞こえない状況に、母親は俺が自殺でもしたのかと勘違いし、外から消火器で一発、ドアノブのすぐ横の辺りに拳二個分ほどの穴をブチ開けた。

その時はまさに寝耳に水の衝撃の後、自分の部屋のドアにぽっかりあいた穴を見て愕然としたものだった。

だが親に負けず抜けた所のある俺はよく鍵を部屋に忘れて外出する事があるため(車のドアみたいに中でロックして閉めれば鍵がかかるドアだった)、万一の場合は便利でいいかとドアを直さず穴を小さいポスターのようなもので外から隠すだけの状態にしていた。

まあ、穴があいている理由はそんなわけ。

結構くだらないでしょ(笑)そして疲れも大分癒えた頃、俺は編集時代、編集部は違ったが仲の良かった同僚の紹介で出会い系サイト管理人の仕事をはじめた。

サイトの仕事はここではあまり話せないが、なかなか面白い(裏家業のような気はするが、そこそこ給料もいい)。

管理画面でメッセージチェック(掲示板に番号、アド、住所、公俗良序に反する画像がないかをチェック)をしているとそこには実に多様な書込みがある。

いつものようにチェックしていると女性掲示版に

「今すぐ会って欲しい。困ってるの、苦しい助けて。誰でもいいから相談したい(中略)番号載せるからいつでもいいから電話してください090○○○○×…」

という内容の書込みがあった。

どうも援助交際を持ちかける内容ではい。

本当に困っている様子だ。

しかしこの書込み内容では携帯番号の記載が規約上のNGなので即削除した。

しかし、なんとなくその書込みが気になっていた俺はその番号に仕事が終わった後、ずいぶん遅い時間ではあったが、電話してみる事にした。

まあ、チョット下心があった事は否定しないけどね。

まず非通知で電話してみたのだが、かけてわずか2コールぐらいで彼女は電話に出た。

「もしもし…」

ものすごく怯えたような声だったが、かわいらしい女の子の声だった。

俺は一般男性会員のフリをし、彼女と会話した。

もちろん彼女は自分の書込みが削除されている事には気づいていないだろう。

話を聞いてみると彼女の年齢は21歳、住まいはやや遠いが俺の自宅から車を使い、30分位で行ける距離に住んでいた。

気になっていた、困っている事とは何てことはない。

ただ彼女は合法ドラックに初めて手を出してバットトリップを経験してしまったのだ。

その恐怖と不安が引き金でパニック発作が止まらないらしい。

常に誰かがそばにいてくれないと不安で仕方がないそうだったのだ。

まぁ、メンタルクリニックに行き、薬をもらえばすぐ落ち着くのだが、彼女の場合、周りに秘密で手を出してしまい、相談できなかったらしい。

俺も実はバッドトリップは一度経験している。

当時、まだ合法だったマジックマッシュだったが。

それを話すと今すぐ会いたいと言ってきた。

俺も多少の警戒心はあったが、パニック発作は本当に苦しいものだ。

苦しさのあまり自殺を考える事だってある。

人と話しているだけでも随分違う。

人助けのつもりで彼女の家まで行く事にした。

彼女の顔も分からないし、その時には全く下心もなく、明日の朝、診療所が開く時間まで一緒にいてあげればいいかと思っていた。

待ち合わせの場所に到着すると彼女は体育座りのような格好で座っていた。

発作の疲れか少々青白い顔だったが、愛嬌のある顔だ。

割とタイプに近い感じだった。

本当に期待はしていなかったし、話だけのつもりだったが、俺はその晩、彼女と一線を超えてしまった。

まあ、ここで俺のセックスについては語らないがな(笑)翌朝、彼女に俺が通院した診療所を紹介した。

彼女はとりあえず、パニック発作の苦しみからは開放されたようだった。

人の弱っている時につけこんで悪い気もしたが、こんな俺でも人の役に立つことができた気がして自己満足に浸っていたりもした。

その後、俺からは連絡するつもりはなかったのだが、毎日のようにメールや電話がかかってきていた。

当時仕事にもまだ慣れていない所もあってなかなか相手をしてあげられなかったのだが、半日連絡を絶つとものすごいヒステリックなメールが何件も受信ボックスに溜まっていた。

「なんで電話でないの、信じられない!人でなし」

みたいなモノばかり…。

そのうち

「死のうかな…」

とか

「抗鬱剤や安定剤が効かない」

とか言い出してきて、怖くなってきた俺は一切連絡をしないようにしていた。

俺の事は薦めた病院の近所に住んでいる事ぐらいしか言ってなかったし、もう会う事もないだろうと思っていた。

ある日を境にぱったりメールも来なくなり、もし本当に自殺でもしていたら…なんて一抹の不安もあったが、今時ソレくらいの事で自殺する奴もいないよななんて思う事にした。

メールが来なくなって七ヶ月くらいだろうか、俺は社内の片思いだった事務の美幸(仮)と付き合う事になった。

実はパニック発作の女も割と自分のタイプだったのに冷たい対応をしてしまったのも、片思いの美幸の存在があったからなんだ。

本当に付き合えるとは思っていなかったからすごく舞い上がっていた俺は毎晩、仕事が終わって部屋に戻ると美幸とのメールや電話で夢中だった。

あの夜も彼女とメールで会社の愚痴なんかを話し合っていた時だった。

メールの最中に俺の部屋の窓からコツン、コツンと小石が当たったような音がする。

最初は全然気にもならなかったし、無視をしてメールをしていた。

すると今度はパン、パンッと平手で窓を叩く音がする。

流石に俺もなんだろうとカーテンを開けようと窓に近づくと

「…るんでしょ…」

とかすかに人の声が聞こえた。

えっとひるんだ俺はその場に立ち尽くすと、今度ははっきりと聞き覚えのある女の声で

「そこにいるんでしょ!!!」

俺はカーテンにかけていた手を慌てて戻し、窓から離れた。

血の気が引く感じってああいうことを言うのだろう。

気が動転した俺は部屋を飛び出し、車で美幸の家に駆け込みその日は泊めてもらうことにした。

次の日、俺は深く考えた。

どうして今ごろ彼女は会いにきたのか?どうやって俺の自宅がわかったのか?そもそも彼女とはあの日一晩だけしか会っていない。

その後も、メールや電話の会話はしたがたいした話ではない。

また会いたいと頼まれた事もあったが、やんわりと断ってきた。

まあ昨日は突然の訪問で取り乱したが、よく考えてみると別に彼女が自宅に来たからとはいえ、別段問題はない。

もしかしたらまた何か問題が発生して相談しに来ただけかもしれない。

それを聞いてあげ、今は本命の美幸がいることを伝えれば彼女もまた訪問してくる事もなかろう…その晩、俺は部屋で彼女を待つ事にした。

会社には我侭を言って少し早めにあがらせてもらうように頼んだ。

すると上司は自分の仕事さえ終わればいつでもあがっていいと言ってくれた。

その日はかなり頑張って自分の業務内容を全て消化し、いつもより二時間も早めにあがった。

部屋に戻ってまず彼女にメールを送ってみたが、メールは送れず帰ってくる。

電話は

「現在使われていません」

のアナウンスが流れる。

きっと携帯を買い替えたのだろう。

彼女が訪問したらすぐに気付くようにカーテンを開け、テレビを観たり、週刊誌を読んで待った。

しかしいっこうに彼女は現れない。

仕事で気合を入れすぎてしまったせいか眠くなってしまったので、豆電球だけつけたまま眠ることにした。

ひょっとしたらもう彼女は来ないな、なんて思いちょっと安心したりしながら寝たのを覚えている。

何時だったかは覚えていない。

自分の感覚では2、3時間は眠っていたような感じがする。

パンパンッ…まだ眠りが浅かったのか、物音に気付きはっと俺は体を起こした。

窓から聞こえる

「…いるんでしょっ!」

彼女だ!俺は体をひねり、窓の方を振り向いた。

そして固まった。

そこにいたのは大きく目を見開き、窓にへばりついている彼女の姿だった。

窓は曇りガラスだったがあんまりべったりへばりついてるからはっきりと表情がわかる。

無表情で大きく目を見開きあまりにも…異常だ。

パンパンパンッ窓を叩く左手を見ると何かおかしい。

…血だ。

左手から流血しているようだ。

コツンコツンッその音の出所はすぐわかった。

右手に刃物を持っているのだ!

「そこにいるんでしょ…」

俺はぞーとした。

数時間前までは彼女を玄関から迎え入れるつもりだったが、そんな事できるワケがない。

「どうして入れてくれないの…わかった…」

と言うと彼女は窓から離れてどこかに消えた!逃げよう昨日とまた同じ事だが美幸の家に逃げ込もう!と直感的に思った。

振り返って俺は部屋のドアから逃げようとした。

俺は発狂しそうになった。

「うああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!」

あのドアの穴から流血した青白い左手がドアノブを探していた。

だってあの女が窓際から姿を消して俺がドアに振り返るまでに10秒も時間はたっていないはずなんだぜ!俺の家は言っとくがそんなに小さくはない。

物理的に窓際から玄関を通過して俺の部屋のドアまでまわってくるのには10秒は確実に無理だ。

俺は心霊的な類の話は一切信じていない。

けどその時は思ったよ、

「幽霊だ!」

って。

窓から飛び出したのは覚えている。

後は覚えていない。

つくづく情けない話だけども、気付いたら美幸の家でただ泣いてたよ。

何故、彼女が俺の所に来たのかはわからない。

彼女が今、生きているのか死んでいるのかもわからない。

その後、俺はひとりじゃ怖くて友達2人を連れてあの女の部屋に行ったんだ。

ちょうど彼女からメールが来なくなった頃に越していたよ。

あれから俺はいまだにどこにいてもひとりで部屋にいることが怖いんだ。

アイツがまたやってきそうな気がして。

ずっと実家暮らしだったが、彼女に頼み込んで同姓のような生活を今はしている。

あの部屋には物を取りに行くときだけしか戻らない。

真っ昼間の時間に母親と一緒にね(本当に情けないでしょw)。

今も俺の部屋のドアには穴があいている。

穴はなるべく見ないようにしている。

穴の向こうからアイツがあの時の表情で覗いているような気がするから。

「シャイニング」

のジャックニコルソンみたいにね。

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