入社5年目、放送局では心臓部門の「テレシネ」職場へ配属されました。
放送開始から終了まで、交代制宿泊勤務がある、映画やアニメ、大量のコマーシャルなどを送出する職場。
数10台もの映写機がずらりと立ち並び、指定された映写機へ素材を装填。
魔法の箱の心臓部は、ミスが即全国へ流れ、緊張感がピリピリ伝わる職場です。
遂に自分自身の手で、フイルムをかけ、全国へ映画を流す時が来たのです。
興奮のあまり胸は高鳴り、震える手。
映写機の爪の噛み具合をニ、三度確認。
3秒前!
2秒前!
1秒前!
スタート、オン!
・・大成功!!
遂に魔法の箱へ辿り着いた。
見果てぬ夢だと思っていたのに・・
熱く込み上げるものがあり、私と同じ映画館に行けない子供達が、テレビで映画を観る事でしょう。
体が不自由な人で、映画館に行かなくても、家で映画が観られる。
病院で療養中の人も・・
お年寄りで映画館に足を運べない人も・・
山間部の人も・・
島の人も・・
この映画を、何百万人もの人が観ているのだろうか。
少しは世の役に立っているのでは・・
夢を追い続けて来た事は、間違いではなかった。
遥か南の島、南十字星を眺め、ランプの灯りで過ごした子供の頃が思い出され、映画が観れなくて悔しかった事。
数々の失敗をし、パスポートを握り締め、親と別れた事。
貧しくて辛かった東京での生活等が、走馬灯の如く通り過ぎ、日本の南端で動き出したこの鼓動、無意味ではなかった。
父よ! 母よ! この世に誕生させてくれて、有難う。
生まれて初めて、芯底湧き出る喜びを体験し、涙が出ました。
男泣きです。
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