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2024年10月24日

f1204 パンティー欲しい


島の古老と飲むと、パンティパンティと言う発音が連発される。
パンティの意味は、いっぱい、と言う意味だ。
いっぱいいっぱい注げ、がパンティ、パンティと言う意味で使われオットットットーがパンティ、パンティになる。
だから飲む時パンティパンティ(いっぱい、いっぱい)と溢れんばかりに注ぎ連発は当たり前。
50年前冷蔵庫は無く氷も無い。島には水も乏しくおチョコで原酒。
オットットットー、いっぱい、いっぱい、パンティ、パンティになる。
下着のパンティは50年前日本に来た排除すべき外来語だ。
以前はサルマタ フンドシ ズロースと言っていた。
時代劇でパンティが出たら即カット、いかさまで放送中止!
だから島の古老と飲む時、パンティパンティパンティー(オットットットー)連発は当然。
ちなみに「お腹がパンパン」は「お腹がパンティパンティ」が正しいでしょう。
パンティパンティパンティー、(いっぱい、いっぱい、いっぱい)、溢れるが「パントゥリル」で「パンクル」は短略語。
島では正式な「パントゥリル」が使われ「パンクル」てはない。
なにしろ、丸々の感じ、太っちょ、はパンティかパンタルに近い発音になる。
太るはパンタルで中国のパンダ、多分太っちょの意味から名前がきているはずだ。
太っちょ、ERが付いてパンタラーになる。
パンタル(太る)のイントネーションとゴロ合がピッタリ、どう考えても偶然とは思えない。
今日も飲み屋で、オットットットー、パンティ パンティーが連呼、オチョコに口付けする。
島の古老にパンティ飲もう、と言うと喜ぶぞ。
パンティ行くわよ、と言うともっと喜ぶぞ。
貴方の愛がいっぱいいっぱい欲しい、は貴方の愛がパンティパンティ欲しいになる。
もしかして、国技館の満員御礼の垂れ幕、パンティ御礼にしたら受けるかも。
フンドシとパンティ、ゴロ合いがいいな・・
飲み屋で満員になったら、パンティ御礼の張り紙を数箇所に張ると大受け、連日パンティ御礼になる事、間違いなし。
なぜか、やっかいニョロ棒が入って、パ〜ンティ〜と発音すると昔々という意味になる。
今でも使われている方言だから問題なし。
だから島にはパンティーだらけという事になる。
満杯で破裂する状態を、パンクリル、と言う。
そう、自転車がパンクル、はこのパンクリルが原語でいっぱいいっぱいがついにパンクリル、パンクになる。
焼き鳥屋で飲む時、色気のない乾杯代わりに声高らかにパンティパンティパンティーを連呼して飲もう。
回りもつられ、皆んなでパンティパンティーだ!
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f1203 むんぴる


若い青年二人、A君、B君と酒を飲んでいると、C君の話題、文句で盛り上がっていた。
そこへC君が、「よー!」と、入って来た。
話題は必然的に他の話題となり、アルコールが入り、その内A君が、先程のC君に対する文句話となってきた。
酔った勢いもあり「お前は第一、自分勝手で、どうのこうの・・」と説教に入ったのである。
C君は、切れるタイプなので、B君はなんとか、その話題を止めようと、色々気を使っている。
その内、A君が、B君に対し、「先ほどから黙っていたが、なんで俺を、むんぴるんだ!」と、荒れ出したのである。
むんぴる、とは方言で、つねる、ことだ。
ひかるはすかさず「よくぞこのような古い方言を知っていたもんだ」と、話題を方言に切り替え、場を治めたのである。
この島では、ぴる、という言葉が、いたるところに出てくる。
珍しいは、ぴるまさー、になる。
昼は、当然、ぴる、である。
女の子よ、この島は、ぴるだらけだが、売っていないぞ。
島自体がハートの形をしており、温暖な気候、繁殖牛がたくさん飼われ、受胎率は日本ナンバーワン。
すぐ子供が出来ちゃうぞ。
この島へ来る時は、ぴるを忘れずに・・・
ところで、男がぴるを飲んだら、どうなるのかなぁ・・・
ビール同様、酔うのかな、一度飲んでみようっと。

f1202 貴方は一万円か?


古老の話によると、昔は名字が無かったそうだ。
そのせいか、この島の古老達は、あだ名をよく使っている。
また、あだ名のつけ方が、ユニークで、特徴をよくとらえている。
普通は、大工屋あるいは畳屋、鍛冶屋など、職業による名前を使っているが、結構あだ名を使う場合が多い。
ある体の大きな巨漢の人がいたそうだ。その人のあだ名は、軍艦とつけたそうだ。まともに名前を言っても分からないが、軍艦といえば、すぐ島中で通じる。
そして、その一家は今でも軍艦屋、と呼ばれているそうだ。
その家の嫁は軍艦の嫁と呼ばれ、孫達は軍艦の孫と呼び、誰も苗字を使わない。
ひかるが帰郷し隣村を散策中、おばあちゃんが杖を持って石に腰掛け休んでいた。会釈をし通り過ぎようとしたら、まじまじと見て手招きする。
「初めて見る顔だが、あんたは、一万円か?」と言う。
何の事だ??
訳が分からない。
ボケているのか??
名字を言うと「やっぱりあんたは一万円だ」と言う。
そして、一万円の子供だと言う。
訳を聞くと、ひかるの父が生前、魚獲りの名人だった。
注文を聞き、注文通りの魚種を獲って来、売り歩いていた。
漁で稼ぐので、一日いくら稼ぐのだと聞いたそうだ。
父は「一万円に決めている。それ以上獲らない」と言ったそうだ。
その話一つで翌日からは、一万円というあだ名が島中、伝わったそうだ。
だから父に似ている、ひかるを一万円、いや、一万円の子供だと言う。
それにしても、一万円の子供なら五千円か?
まさか、千円という訳ではないだろう。
よく考えると、ひかるは聖徳太子と肩を並べる大大人物だぞ!!!
しかし大蔵省、なんとか一万円以上の紙幣を発行してくれ。
ひかるは一生、一万円を越えられないではないか。
出来れば、ひかるをモデルに・・・

f1201 ハナ ハナ ハナミー


民宿の庭で観光客と飲んでいると、二十歳前後の女の子がペアでいた。
島の方言で、親しい間柄、信頼している中、親友中の親友は、パナヌミ(鼻の穴)と表現する。
訳は、人間の体の中で、目や耳、乳、手や足など、対になっているが、鼻の穴が一番近い。
奥では一つに繋っているので、極々親しい間柄の事を、パナヌミ、鼻の穴、鼻の仲と呼ぶ。
ちなみに、男女の場合でもこの言葉は使われる。
彼と彼女は、もう出来ている。という場合に、あの二人は、パナヌミだよという。
早い話が、信頼している、極々親しい関係は、ハナミの関係である。
女の子が、キャーキャーいいながら喜んだ。
おじさん、この言葉使っていい? 
大阪でハナ、ハナ、ハナミ、ブレイクさせるよ!
おじさんと私は、ハナミ、ハナミ!
ハナミの元祖は、南の島のおじちゃんだよと、両隣へ割り込んでくる。
おい! おい! おじさんと出来て、子供が出来たら、ひ孫だぞ!
だけど、いいか・・
ハナ ハナ ハナミー
今日も、明日もハナミーで行こう。
あなたには、ハナミーいるかな?
本土では、人指し指で鼻を指すと、自分だが、この島では、昨夜肉体関係が出来たらしいよ、と鼻を指しひそひそ話をされているから気をつけよう・・
東京にいる時は、スポーツクラブで泳ぎ、サウナへ入る事を日課にしている。
男がサウナに入る時、特に前を隠すわけでもなく、租チンあらわに、足は逆八の字、堂々と座る。
いつも会う、アラブ系で、小錦といい勝負する、立派な体格の人だが、その人も、堂々と、租チンを見せ座っている。
先日、隣に年齢30代半ばくらいの男で、中肉中背。
顔は、今はやりのイケメンで、腰にバスタオルをしっかり巻いて、租チンが見えないように隠している。
足は、多少内股、八の字スタイルである。
タオルで、租チンをしっかり隠しているところは、几帳面な人だなと、その程度で、特に違和感も何も感じなかった。
10分くらいたって、汗だくだく。その男も、ほんのりと、体中がピンク色に染まっていた。
その男が、先にサウナを出た。
何気なく後姿を見て、あれれ・・・
背中に、横にブラジャーの跡が、ほんのりついているのであった。
ありゃりゃ・・
なるほど・・なるほど・・
一瞬浮かんだ。
オカマちゃん、租チン隠して、背隠さず。

f1200 アリ避難


前年に続き、大型台風が10月に島を襲った。
4日前の10月3日、島は台風の予兆も無く晴れて雨も無い。
いつも通り庭でくつろいでいると、あれれ?いっぱいいるはずのアリ達が、完璧にいなくなり、巣に避難してしまっているのだ。
とんでもない予知能力だ。
確かに普通の雨と台風では量と時間が桁違いだ。
台風の雨が降り出すと庭が水びたしになり、引かない。早めに巣に戻らないと戻れなくなるのだ。
台風はまだフィリッピン沖にあり、何で島へ来る事、超大型である事を予知出来るのか?
これは、とんでもない大発見だ。
間違いなくアリは予知している。
気象庁、国土交通省はじめ、国挙げての研究が必要ではないか。
もしこのアリ達が、地震を予知出来たら?
これはとんでもない事だ。
国を挙げてP波警報体制が採られている。それに3日前に警報発令の予報が出来れば、被害は格段に軽減されるはずだ。
二千キロ先の台風を予測できるのだから、地震は数十キロから数百キロ圏内、かなり精度の高い情報が得られるのではないだろうか。
ひかるは老後、ブログで遊ぼう、と思ったが、もう一つアリの研究と言うテーマが加わった。
人生、楽させてもらえないようだ。
今日もハエ叩きで99%叩き落せるようになった。
アリ達の食料を確保、アリ達との会話を本気で考える。
ワシは宮本武蔵だ!
ちなみに、ナマズが地震を予測すると言われているが、事実であろう。
しかし、自然界で先祖代々生息している環境の中での事だ。
地震の前の微かな地響きか、水圧の変化で、棲家への影響を読むのだろう。
人間の作った環境や水槽での予測は絶対無理だ。
気象庁、本気でアリを研究すべきだぞ・・

 1199 アッコにお任せしたーい


昔々南の小さな島では若い男女の巡り合い、恋愛やお見合い等ではなく、夜這いが結びつきの大きなきっかけであった、と曾祖父が話をしていた。
今では想像つかない面白い話がある。
小さな島に高島吉蔵、91歳のおじいちゃんがいた。
ばあちゃんは90歳で名前は明子、声と体が一回り大きく別名アッコと呼ばれ、
子供は無く仲の良いオシドリ夫婦。
祭りや行事等を先導、周りから信頼され羨ましがられていた。
おじいさんは年のせいか妄想なのか、あらぬ事を口走るようになった。
家で晩酌をしながらアッコばあちゃんにポツリとしゃべった。
なんと島一番の大金持ちで船を持ち船会社を経営している50歳前後の新一、母親大友良江に昔夜這いを仕掛け出来た子が新一だ。
バリバリ働き者で若かりし頃の俺に似ているであろうと褒めちぎり自慢をしたのである。
さあ大変な事が起きる予感。
島には飲み屋も無く祭りや結婚式や長寿の祝い等島中の人が集まりストレス発散派手に賑う。
そこでアッコバーさんのストレス、ヤキモチが炸裂したのだ。
新一の母親良江の髪の毛を鷲掴み、陰売女 泥棒猫 どうやって亭主を受け入れた。
大股おっぴろげ こうしたのか!
よくぞしゃーしゃーとした顔をしていられる、と噛付き祭りは修羅場と化した。
島中の話題でびっくりしたところだが、この吉蔵じーさんはまたあらぬ事を口走るのである。
郵便局長、五十がらみで一番やり手の男だ。
実はこの裕介の母親下村陽子、若い頃夜這いを仕掛けて出来た俺の種だ。
またあらぬ事を口走ってしまったのである。
これまたアッコばーちゃん大変だ。
島育ちの青年が成人式で、島中の人が集まってのどんちゃん騒ぎの祝いの場。
裕介の母、陽子に馬乗りバトル、島人の祝いの場の楽しみが修羅場と化し台無し。
話はここで終わらない。
吉蔵じーさんはあの診療所の息子、則夫の母親山城京子に私が若い頃夜這いを仕掛けて出来た子供だと・・・
二度ある事は三度ある。
今度は四人のタッグマッチ、女の戦いは恐ろしい。
祭りは全て中止。呪いが祟ったのか吉蔵じーさんは亡くなる。
これで一件落着と思いきや、今度はアッコばーさん、三軒へ乗り込み雀の涙の香典では済まない。
実の父親の香典だと、香典揺すりを初めたのである。
それにしても痴呆症や物忘れ、妄想などあるが三途の川を渡る手前の出来事は気を付けて欲しい!!
島人の願い、和田アッコさ〜ん アッコにお任せしたーい。
解決して・・・

1198 女の夜這い


ちなみに、この地区の島に、夜這いは、女がする事になっている島があるそうだ。
そんな島で生まれ育っていればよかった、と誰も思うだろう。
しかし、待てよ・・
もしかして夜這いを待ち続け、何時の間にか立つべきものも立たなくなる。
そしてご臨終、俺は何のために生まれたのか・・
考えないようにしよう・・・・・
女の夜這い。夜這いの作法は、ノーパンが原則だとの事。
ノーパンを方言ではマルバイと言う。
女の夜這いはマルバイだー!
あるボス的存在の女で、顔やプロポーションも十人並み。
その女は、島一番の人気者の男を自分が夜這をかける、と周りに案に振れ回っていたそうだ。
番長的存在だから、当然と考えていたのだろう。
ところが、ある女が、その番長には負けじとこっそり夜這いをかけてしまったのだ。
童貞、略奪だ!
さあ、その事がばれて大変だ。
番長は、手下も動員し、事あるごとにその女をいびり、虐めぬいたのである。
とうとうその女は、島にいられなく、こっそり出ていったそうだ。
以後、親兄弟にも連絡が取れず、生涯行方不明だったという。
しかし、その番長は、いじめの代名詞として、島中知れ渡り、最後まで、結婚出来なかったそうだ。
虐めをすると、結婚出来ない、と言う教訓として、今でも語り継がれ、虐めの事をその女の名前で呼んでいるとの事。
おい! スケバンごっこで、番町やってる女いないか。
あなたの噂は男達に知れ渡り、一生結婚なぞ出来なくなるぞ。
虐めは、よせよ。
虐めは結婚の敵!
それにしてもノーパン女の夜這い、来て欲しい・・
特に村はずれの一軒家で、チョンガー生活男がコチョコチョ台所に立ち、洗濯にトイレや風呂掃除、膝を抱いて寝ていると、つくずく思うもの。
しからば、念じに念じ、念じ続ければ、お夜這いさんが来てくれるのでは、と・・・
戸の隙間をつくり、真っ暗闇にし、待ち続けると気配がしたので、うす目で見ると、野良猫のお夜這いさん。
翌日枕元に小石を用意し、思い切り命中、以後ピタリと来なくなった。
諦める訳にはいかない、お夜這いさんを待ち続けて、一ヶ月半。
待望の、本物のお夜這いさんが来たのだ!
来た・来た・来たぞー!
台風通過後、どんよりと曇った闇夜の三時、うす目で見ると、昼間すれ違い時、笑顔で話しかけて来た、歳は三十前後で二年前より島に住み着いている、艶やかな一人身の女である。
逃げられるとまずいので、いびきをかく。
部屋の隅で闇に目を慣らせた後、いよいよ動き出した。
夏掛けの裾から潜り込み、しなやかなる指先の動き、当然パンツいっちょうはなんなく剥ぎ取られ、息子は直立不動の万全なる体勢。
なま暖かい風は下半身から全身を覆う。
大波、小波、漕ぐ舟は極楽の境地、奥歯が小きざみに舞い上がる。
あまりの腰の激しい使いに、全身の筋肉が収縮し炸裂、思いっきり突き上げた。
夏掛けがポロリ、と落ちた瞬間。
ギャー 
ギ、ギャーーー
歯っ欠け婆バーだ!!!
閃光が全身を走り、生まれて初めて、夢で失神してしもーた。
南無・ 南無・・南無・・・・

2024年10月23日

f1197 図


夜這い女

f1196 社長


二十歳で島を出た時は、着の身着のまま、石垣島、沖縄本島で、日雇い労働者として旅費を工面、少しでもいまわしい記憶のある島から離れたい、と大阪まで辿り着いたのである。
大阪でペンキ屋、左官や土木作業員等転々し、溶接工になった。
暇になると、どうしても島での出来事を思い出す。
忘れるように、人の二倍三倍働きに働き続けた。
溶接工から身を起こし、今では立派な鉄骨屋の社長となったのだ。
社員へ訓示する事は「借金経営はしない、夜駆け、不意打ちはだめだ、
物事は正面からとらへ、筋を通し、正々堂々と行うべし、
迷った時、辛い時は、お互い知恵を出し合い助け合っていこう」
という経営理念を貫いているのだ。
社内外からも太っ腹な立派なリーダーとして、社長として尊敬されているのであった。
自分は今、何の不足もなく幸せ、お金はその気になって働けばいくらでも手に入る。
明子を見た時、自分が起こした事件、その影響は明子の人生に少なからず災となった事は間違いないだろう。
出来るだけの事をやり、詫びようと思ったのである。
詫びて済むような事ではない、明子が幸せになることを願い、手を合わせる日々である。
今日の金曜日も無言電話があり、明子は華やかな気持ちで踊り狂っていた。
明子の踊りには、願いが込められた念仏踊である。
確かに、昭二の事は、大好きであった。
恋しい昭二、いとしい昭二は、何時の間にか徐々に遠いものとなりつつある。
昭二を思い浮かべると、孫をお風呂に入れる姿、乳母車で散歩、木陰でくつろぐ昭二の姿。
もう今となっては、思いを寄せたとて、叶わぬ夢となってしまった。
世の中を這いずり、惨めな生活を救ってくれた昭二、今では大事な大事な恩人である。
遠のく恋心、不安でもある。
しかし親にはぐれた子供が、親を恨み、親を恋しがる、生きているなら、もう一度会いたい気持ち同様、昭二には、今の姿をもう一度見て欲しい。
今更交わる心は微塵もない。
たった一度、もう一度、自分の姿を見て欲しい。
この極楽とんぼで、一晩で良いから泊まって欲しいのである。
蘇えった明子は、とても六十に手の届く女性とは思えない。
若々しく、遥か彼方を見つめ、遠ざかる昭二の姿を追い求める踊り、時にはフラメンコを遙かに凌ぐ激しさ、しなやかな腰の動き、
見る者を怪しい魔の世界へ引きずり込みかねない、艶やかな色気さえ漂う。
お客が明子の踊りを見ると、ジッとしていられない。
一緒になって腰を上げ、激しく踊り狂うのである。
今日も明子は、心の中で念仏をあげ踊る。
民宿とんぼ 極楽とんぼ。
一度でいいから、泊まりに来て下さい。
きっと、きっとよ!
民宿とんぼ 極楽とんぼ。是非、泊まりに来て下さい。
きっと、きっとよ・・・・・完

f1195 大金


昭二は、夜這いの話が再燃し、明子の身にこれ以上災が起きては、とそそくさと帰り支度をした。
明子の縋る気持を振り切り、来た道をとぼとぼ帰る昭二の背中は泣いていた。
昭二は、やはり自分の家には寄らず、そのまま港から四十年前と同じ、誰にも気づかれず島を出た。
後日、明子のもとへ小包が届いた。
差出人住所には全く覚えはなく、昭二からの郵便物には間違いなし。
この郵便物は、明子の度肝を抜くのである。
郵便物の中味は、長靴とカッパ、明子名義の通帳と印鑑、なんと二千万円ものカネが入っていた。
当時のお金では、腰を抜かす程の大金である。
間違いなく、昭二が送ってきたものだと考えられるが、どうしたものか考えあぐねた。
思案に思案をした末、この金を大事に使い、何時の日か昭二に恩返しをしたい、と考えた。
結論を出してからの明子は、まるで人が変わった。
当時、旅人がちらほら島に来たが、聞くところ島の民家にお世話になり、民泊しているとの事。
そこで明子は、大勢の人と会話が出来、大勢の人の為に、民宿をはじめようと決断した。
一度決断をすると、その後はもう電光石火。
役場での諸手続き、指摘、アドバイスを受ければ、間違いなく指示通りやる。
生まれて初めての建物、建築関係者との打ち合わせあり。
民宿は素人なので、石垣島の民宿へ正面からお願い。
お金はいりません、是非、手伝わせて下さいと、朝から晩までお風呂やトイレの掃除。料理、接客方法などを次から次とマスターしていったのだ。
島の民家は、台風があるため平家だが、ものの見事、コンクリート建ての二階家の民宿が一年を待たずに、あっと言う間に完成。
時代も味方したのか、民宿は早々に大繁盛である。
タレントや有名人も宿泊、話題となって大繁盛。
そしてテレビの取材が舞い込んだ。
明子は、飛び上がらんばかりに喜んだ。
もしかして、昭二が見てくれるのではないだろうかと考えたのである。
放送後、明子は昭二からの電話を待つが、やはり一度もかかってこなかった。
しかしよく考えると無言電話がかかってくるようになった。
明子はそこで、はっと気がついた。
電話は毎週金曜日夜の8時頃、決まった時間にかかってくる。
その電話は昭二が名乗れずに明子の声を聞くため、かけているのだと思った。
それからの明子は、金曜日になるとそわそわ、丹念に化粧をし、電話の前で正座するのであった。
そして客は、何故か理解出来ないがこの民宿、金曜日8時以降は、酒の無料飲み放題。
明子が、さも楽しそうに踊りまくるのであった。
ちなみに民宿の名前は、極楽とんぼをイメージし、「とんぼ」と名付けた。
毎週金曜日は、お客も入り交じって踊りまくる、極楽とんぼの民宿となった。
昭二は、誰にも身分を明かしていないが、実は大阪で押しも押されぬ、中堅企業の鉄骨屋の社長となっていた。
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