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2024年03月05日

ジャン・ポール・サルトルの『嘔吐』で病跡学を考える4

 偶然性は、消去できる見せかけの仮象ではない。絶対的なものである。無償である。そのことを理解すると、気持ちがむかつき、吐き気をもようすことになる。
 もう少し、自分のことを語るのは止める。なんの役に立つのか。吐き気、恐怖、実存、これらのことはすべて自分の胸にしまっておく方がよい。
 最も強い強烈な恐怖や吐き気の際に、自分が救われることを期待していた。まだ若いし、やり直す十分な力がある。しかし、何をやり直すのであろうか。私は死に、一人で自由であり、けれどもこの自由は、死に似ている。
 今日、私の肉体は衰弱しているため、吐き気は耐えられない。しかし、病人でも、病気の意識を忘れてしまうほどの幸福で衰弱なときがある(Aujourd’hui mon corps est trop épuisé pour la supporter. Les maladies aussi ont d’heureuses faiblesses qui leur ôtent, quelques heures, la conscience de leur mal)。吐き気は、また戻ってくるとわかっていても、短い猶予を与えてくれた。
 また発作がおきるのではないかとか次はもっと激しい発作かもしれないといった不安が消えなくなる予期不安は、パニック障害でよく見られる症状である。
 ブーヴィルのエリアは、非常に静かで清らかである。ビクトル・ノワール通り、ガルヴァ二通りをよく散策した。吐き気もここを大目に見ている(emploierais-je ces derniers moments à faire une longue promenade dans Bouville, à revoir le boulevard Victor-Noir, l’avenue Galvani, la rue Tournebride? La Nausée l’avait épargné)。ペンを放さずに持っていれば、吐き気を遅らせることができる。頭に浮かぶことを書きながらそれをする。
 過度なストレスは、体に置く影響を及ぼすが、適度なストレスだとよい影響になることがある。ストレスを受けたときに、脳内にβエンドルフィンや副腎皮質刺激ホルモンが分泌され、集中力や注意力を高めてくれる。吐き気のありかは、台なしになった私の人生に関する観念の下にある。私の人生の上には、機械的な計算があった。吐き気は、曙のようにおどおどしている。
 そこで、サルトルの「嘔吐」の購読脳は「吐き気と実存」にし、執筆脳は「自己への関心と執筆」にする。シナジーのメタファーは、「サルトルと自覚存在」である。

花村嘉英(2022)「ジャン・ポール・サルトルの『嘔吐』で病跡学を考える」より
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花村嘉英
花村嘉英(はなむら よしひさ) 1961年生まれ、立教大学大学院文学研究科博士後期課程(ドイツ語学専攻)在学中に渡独。 1989年からドイツ・チュービンゲン大学に留学し、同大大学院新文献学部博士課程でドイツ語学・言語学(意味論)を専攻。帰国後、技術文(ドイツ語、英語)の機械翻訳に従事する。 2009年より中国の大学で日本語を教える傍ら、比較言語学(ドイツ語、英語、中国語、日本語)、文体論、シナジー論、翻訳学の研究を進める。テーマは、データベースを作成するテキスト共生に基づいたマクロの文学分析である。 著書に「計算文学入門−Thomas Mannのイロニーはファジィ推論といえるのか?」(新風舎:出版証明書付)、「从认知语言学的角度浅析鲁迅作品−魯迅をシナジーで読む」(華東理工大学出版社)、「日本語教育のためのプログラム−中国語話者向けの教授法から森鴎外のデータベースまで(日语教育计划书−面向中国人的日语教学法与森鸥外小说的数据库应用)」南京東南大学出版社、「从认知语言学的角度浅析纳丁・戈迪默-ナディン・ゴーディマと意欲」華東理工大学出版社、「計算文学入門(改訂版)−シナジーのメタファーの原点を探る」(V2ソリューション)、「小説をシナジーで読む 魯迅から莫言へーシナジーのメタファーのために」(V2ソリューション)がある。 論文には「論理文法の基礎−主要部駆動句構造文法のドイツ語への適用」、「人文科学から見た技術文の翻訳技法」、「サピアの『言語』と魯迅の『阿Q正伝』−魯迅とカオス」などがある。 学術関連表彰 栄誉証書 文献学 南京農業大学(2017年)、大連外国語大学(2017年)
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