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2024年03月05日

ジャン・ポール・サルトルの『嘔吐』で病跡学を考える1

1 はじめに

 病跡学については、作家を一人の人間として見たときにいえる病気の症状や小説の中に描かれているメディカル情報が考察の対象になる。サルトルの場合、斜視で眼が不自由であった。1973年には左目の視力が健常時の半分もなくなり、読み書きができなくなる。ボケの症状が現れ、一日のうち3時間ぐらいしか正常でいられなくなった。半盲状態になると、エジプト人の秘書に本を読んでもらい、対話して過ごした。 
また、白井(2006)によると、サルトルは、30年以上にも渡り神経症を患っていたため、自身の実存を正当化するために文学を絶対視していた。しかし、飢餓状態に比べれば、芸術など一文の値打ちもないとする。
 原題のLa nauéeは、嘔吐物を意味せず、吐きたい気持ちを表す。そこで小説の中からメンタルな症状を覗いて見たい。「嘔吐」の中には、パリでの生活から見えてくる吐きたくなるような場面がいくつも現れる。吐き気をもようす場面を中心に病気の跡を辿り、人間サルトルの症状と合わせて病跡学の考察とする。
 政治への関心は、少なからず文学活動に影響を与えた。文学の政治参加は、小説により労働者階級を開放させることである。
 「嘔吐」執筆時は、自身を単独者と見なしており、社会の絆をよそに自分には社会におうものなどなく、社会の方も自身に手を出すことはないと考えていた。「嘔吐」ではブルジョワを下劣と批判したことが単独者としての文学からの帰結になった。つまり、サルトルが人生とは何かを真面目で真剣に追求した結果、小説「嘔吐」が生まれた。 

花村嘉英(2022)「ジャン・ポール・サルトルの『嘔吐』で病跡学を考える」より
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花村嘉英
花村嘉英(はなむら よしひさ) 1961年生まれ、立教大学大学院文学研究科博士後期課程(ドイツ語学専攻)在学中に渡独。 1989年からドイツ・チュービンゲン大学に留学し、同大大学院新文献学部博士課程でドイツ語学・言語学(意味論)を専攻。帰国後、技術文(ドイツ語、英語)の機械翻訳に従事する。 2009年より中国の大学で日本語を教える傍ら、比較言語学(ドイツ語、英語、中国語、日本語)、文体論、シナジー論、翻訳学の研究を進める。テーマは、データベースを作成するテキスト共生に基づいたマクロの文学分析である。 著書に「計算文学入門−Thomas Mannのイロニーはファジィ推論といえるのか?」(新風舎:出版証明書付)、「从认知语言学的角度浅析鲁迅作品−魯迅をシナジーで読む」(華東理工大学出版社)、「日本語教育のためのプログラム−中国語話者向けの教授法から森鴎外のデータベースまで(日语教育计划书−面向中国人的日语教学法与森鸥外小说的数据库应用)」南京東南大学出版社、「从认知语言学的角度浅析纳丁・戈迪默-ナディン・ゴーディマと意欲」華東理工大学出版社、「計算文学入門(改訂版)−シナジーのメタファーの原点を探る」(V2ソリューション)、「小説をシナジーで読む 魯迅から莫言へーシナジーのメタファーのために」(V2ソリューション)がある。 論文には「論理文法の基礎−主要部駆動句構造文法のドイツ語への適用」、「人文科学から見た技術文の翻訳技法」、「サピアの『言語』と魯迅の『阿Q正伝』−魯迅とカオス」などがある。 学術関連表彰 栄誉証書 文献学 南京農業大学(2017年)、大連外国語大学(2017年)
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