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2024年09月14日

サピアの「言語」と魯迅の「阿Q正伝」10

3.2 海馬モデル

 記憶を司る部位として知られる海馬は、側頭葉と呼ばれる大脳皮質のすぐ裏側にあり、耳の奥に左右一つずつ置かれ、直径が約1センチメートル、長さが10センチメートルほどで、キュウリのような形をしている。
海馬は神経細胞の集まりで、その断面を見るとS字に似た筋が見られ、そこに細胞がぎっしりと詰まっている。S字の筋の上部はアンモン角と呼ばれ、下部は歯状回と呼ばれる。アンモン角の細胞は三角形の錐体細胞であり、歯状回の細胞は丸くて小さい顆粒細胞である。アンモン角はさらに4つの部位(CA1野、CA2野、CA3野、CA4野)に分けられる(CAとはCornu Ammonisの略)。(池谷祐二:2001) 
 この中で重要な部位は、CA1野とCA3野である。これらと歯状回を合わせた三つの部位は、神経線維で繋がった連絡網になっている。海馬の中の情報は、歯状回→CA3野→CA1野の順に伝わっていき、五感の情報がそれぞれ大脳皮質の側頭葉に送られる。しかし、津田(2002)によると、貫通繊維にはCA3野に至るものとこれをパスしていきなりCA1野に至るものとがある。
 銃殺される前に街中を引き回される阿Qが刑場へ向かう途中で車から喝采している人々を見て、ある瞬間に4年前山麓で出会った飢えた狼のことを思い出す。(例、(40))。ここで喝采している人々は、「馬々虎々」という無秩序状態にあり、予測不可能な振舞い(非線形性)を示すと見なされる。そして、刑場へ向けて荷車を引く仕事人と阿Qの視神経がとらえる入力情報は、引き回しの開始の時点ではほぼ同じである(例、(37))。ところが、しばらくすると阿Qは飢えた狼のことを思い出す(例、(40)、(41))。つまり、両者の出力は、その時点で全くかけ離れたものになる(非決定論)。
 こうしたカオスの特徴は記憶とも結びつく。近づきも離れもせずに阿Qを罪人として追いかけてくる狼の目(例、(41)、(42))。例えば、これがエピソード記憶であり、阿Q並びに彼の周りにいる人々に託された「馬々虎々」という無意識の思想を連続した物体の存在認識に見られるカオスの世界とする理由である。 

花村嘉英(2015)「从认知语言学的角度浅析鲁迅作品−魯迅をシナジーで読む」より
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花村嘉英
花村嘉英(はなむら よしひさ) 1961年生まれ、立教大学大学院文学研究科博士後期課程(ドイツ語学専攻)在学中に渡独。 1989年からドイツ・チュービンゲン大学に留学し、同大大学院新文献学部博士課程でドイツ語学・言語学(意味論)を専攻。帰国後、技術文(ドイツ語、英語)の機械翻訳に従事する。 2009年より中国の大学で日本語を教える傍ら、比較言語学(ドイツ語、英語、中国語、日本語)、文体論、シナジー論、翻訳学の研究を進める。テーマは、データベースを作成するテキスト共生に基づいたマクロの文学分析である。 著書に「計算文学入門−Thomas Mannのイロニーはファジィ推論といえるのか?」(新風舎:出版証明書付)、「从认知语言学的角度浅析鲁迅作品−魯迅をシナジーで読む」(華東理工大学出版社)、「日本語教育のためのプログラム−中国語話者向けの教授法から森鴎外のデータベースまで(日语教育计划书−面向中国人的日语教学法与森鸥外小说的数据库应用)」南京東南大学出版社、「从认知语言学的角度浅析纳丁・戈迪默-ナディン・ゴーディマと意欲」華東理工大学出版社、「計算文学入門(改訂版)−シナジーのメタファーの原点を探る」(V2ソリューション)、「小説をシナジーで読む 魯迅から莫言へーシナジーのメタファーのために」(V2ソリューション)がある。 論文には「論理文法の基礎−主要部駆動句構造文法のドイツ語への適用」、「人文科学から見た技術文の翻訳技法」、「サピアの『言語』と魯迅の『阿Q正伝』−魯迅とカオス」などがある。 学術関連表彰 栄誉証書 文献学 南京農業大学(2017年)、大連外国語大学(2017年)
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