2014年02月13日
ネオン
ネオン(英: neon)は原子番号10の元素である。名称はギリシャ語の'新しい'を意味する「νέος (neos)」に由来する[4]。元素記号は Ne。
単原子分子として存在し、単体は常温常圧で無色無臭の気体。融点 -248.7 °C、沸点 -246.0 °C(ただし融点沸点とも異なる実験値あり)。密度は0.900 g/dm3 (0 °C、1 atm) ・液体時は1.21 g/cm3 (-246 °C)。空気中に18.2 ppm含まれ、希ガスとしてはアルゴンに次ぐ割合で存在する。工業的には、空気を液化・分留して作る手段が唯一事業性を持てる[4]。磁化率 -0.334×10-6 cm3/g。1体積の水に溶解する体積比は0.012[5]。
ネオンの三重点(約24.5561 K)はITS-90の定義定点になっている[1]。
目次 [非表示]
1 歴史
2 性質・用途
3 同位体
4 脚注
5 参考文献
6 関連項目
歴史[編集]
ジョゼフ・ジョン・トムソンの写真乾板。右下に二つのネオン同位体(ネオン20、ネオン22)の衝突痕が見られる。
ネオンは1898年にロンドンで、イギリス人化学者ウィリアム・ラムゼー卿(1852年 - 1916年)とモーリス・トラバース (en)(1872年 - 1961年)が発見した[6]。この当時、すでにヘリウムとアルゴンの存在が知られていたこと、さらに周期律が知られていたことから、その存在が確実視されていたわけだが、この発見によって周期表の空欄が1つ埋まった。発見に至った手法は液化空気の分留である。ラムゼーが、液体状になるまで冷却した大気を暖めて気化したガスをそれぞれ分留する実験を行っているとき、大気主成分(窒素・酸素・アルゴン)を取り除いた後に残る物質からクリプトン・キセノン・ネオンをそれぞれ見つけた[7]。
1910年12月、フランスの技術者ジョルジュ・クロードがネオンガスを封入した管に放電することで、新たな照明器具を発明した。パリの政府庁舎グラン・パレで公開後、1912年には彼は仲間たちとこの放電管をネオン管として販売し始め、理髪店で最初の広告として使用された。1915年に特許を取得し「クロードネオン社」を設立[8]。1923年、彼らがネオン管をアメリカに紹介すると、早速ロサンゼルスのパッカード自動車販売代理店にふたつの大きなネオンサインが備えられた。赤々と輝き人目を惹くネオンの広告は、他社との差別化を鮮明に映し出した[9]。
1913年にジョゼフ・ジョン・トムソンが、陽極線 (en) の成分分析を行っていた際、磁界や電界を通る流れを導き出し、写真乾板上に写り込んだ軌跡から偏向を計測して、ネオン原子の基本的性質の解明が始まった。写真には二本の光軌跡が見つかり、これは異なる放物線を描くネオンの偏向があることを示していた。トムソンは、これが同じネオン元素で分子量が異なるものが二種類あるために起こった現象と結論づけた[10]。これは最初の安定的な同位体発見であり、その手法は改良され現在の質量分析法へ[11]と発展した。
性質・用途[編集]
ネオンはガスとしてのみならず物質全体でも最も反応性に乏しい元素である[12]。
ネオン放電管
ネオンのスペクトル。なお、可視光領域は対応する色で、紫外線(左)と赤外線(右)領域は白い線で現している。
ネオンサイン
ネオンは希ガスとしては2番目に軽く、ガイスラー管に詰め放電すると橙赤色で光るため、ネオン管の封入気体として利用される[5]。実際は、アルゴンや水銀などの添加物を用いていろいろな色を出す。標準的な電圧と電流下において、ネオンのプラズマは希ガス中で最も激しい光を放つ。人間の目には一般に赤 - オレンジ色に見えるこの光は、実際には多くの波長から成っている。強い緑色の光線も含まれるが、これは分光しないと判断できない[13]。ネオン管は高電圧がかかると、管内に封入されているネオンがイオン化するために、高圧電流を素早く流す性質があり、落雷の電気をアースに流し機器類を護る避雷塔にも使われる[4]。
ネオンは窒素や酸素よりも原子番号が大きく、原子1つを比べた場合は、ネオンの方が重い。しかし、ネオンは地球の地表付近でも単原子分子として存在できるのに対し、同じ条件で窒素や酸素は多原子分子として存在する。気体は同一体積当たりの分子数がおおよそ等しいので、ネオンは地球の地表付近の空気の大部分を占める窒素分子や酸素分子よりも軽く、このため、ネオンの気球はヘリウムと比べればゆっくりであるが上昇する[14]。
液体ネオンの気化熱は420cal/mol=1.8kJ/molであり、極低温環境での冷媒として非常に効率が高く、経済的である[4][15]。
同じ質量で気体・液体の体積比率差が大きいこともネオンの特徴である。通常の気体:液体比率が500 - 800倍なのに対しネオンは1400倍にもなる。そのため貯蔵性・輸送性に優れる。また、ネオンは窒素分子に近い密度があるため、酸素とネオンを混合して作った人工空気の中では、ほとんど音速が変化しない。よって、酸素とヘリウムの混合気のような声の変化は起こさない。この特徴を生かして大深度潜水のテクニカルダイビングや宇宙で使用されることもある[4]。
この他にも、高エネルギー粒子の軌跡観察に使用する箱にネオンを満たすと、ネオンがイオン化して発光する。ヘリウムとの混合ガスはレーザー光の波長を揃えることが出来る[4]。
同位体[編集]
20Ne、21Ne、22Neの3種類の安定同位体の存在が知られている。ちなみに地球では、これらのうち20Neが約9割を占めていて、22Neが1割弱、21Neはごくわずかである。
詳細は「ネオンの同位体」を参照
脚注[編集]
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1.^ a b Preston-Thomas, H. (1990). “The International Temperature Scale of 1990 (ITS-90)”. Metrologia 27: 3-10.
2.^ “Section 4, Properties of the Elements and Inorganic Compounds; Melting, boiling, triple, and critical temperatures of the elements”. CRC Handbook of Chemistry and Physics (85th edition ed.). Boca Raton, Florida: CRC Press. (2005).
3.^ Magnetic susceptibility of the elements and inorganic compounds, in Handbook of Chemistry and Physics 81st edition, CRC press.
4.^ a b c d e f 「【ネオン】」『元素111の新知識』 講談社、1998年(初版1997年)、第六刷、72-74頁。ISBN 4-06-257192-7。
5.^ a b 「【ネオン】」『岩波理化学辞典』 岩波書店、1994年、第四版第九刷、948頁。ISBN 4-00-080015-9。
6.^ ウィリアム・ラムゼー、モーリス・W・トラバース (1898年). “On the Companions of Argon”. Proceedings of the Royal Society of London 63: 437-440. doi:10.1098/rspl.1898.0057.
7.^ “Neon: History” (英語). Softciências. 2007年2月27日閲覧。
8.^ 小野博之. “ネオン史余話” (日本語). 社団法人全日本ネオン協会. 2010年4月17日閲覧。
9.^ Mangum, Aja (2007年12月8日). “Neon: A Brief History”. New York Magazine 2008年5月20日閲覧。
10.^ “1-3:中性子の発見” (日本語). 九州大学粒子物理学講座. 2010年4月17日閲覧。
11.^ “核燃料サイクル工学実験教育テキスト (PDF)” (日本語). 財団法人エネルギー総合工学研究所. 2010年4月17日閲覧。
12.^ Lewars, Errol G. (2008年). Modelling Marvels. Springer. pp. 70-71. ISBN 1402069723.
13.^ “Plasma” (英語). 2007年3月5日閲覧。
14.^ Gallagher, R.; Ingram, P. (2001年). Chemistry for Higher Tier. University Press. ISBN 9780199148172.
15.^ “NASSMC: News Bulletin” (2005年12月30日). 2007年3月5日閲覧。
単原子分子として存在し、単体は常温常圧で無色無臭の気体。融点 -248.7 °C、沸点 -246.0 °C(ただし融点沸点とも異なる実験値あり)。密度は0.900 g/dm3 (0 °C、1 atm) ・液体時は1.21 g/cm3 (-246 °C)。空気中に18.2 ppm含まれ、希ガスとしてはアルゴンに次ぐ割合で存在する。工業的には、空気を液化・分留して作る手段が唯一事業性を持てる[4]。磁化率 -0.334×10-6 cm3/g。1体積の水に溶解する体積比は0.012[5]。
ネオンの三重点(約24.5561 K)はITS-90の定義定点になっている[1]。
目次 [非表示]
1 歴史
2 性質・用途
3 同位体
4 脚注
5 参考文献
6 関連項目
歴史[編集]
ジョゼフ・ジョン・トムソンの写真乾板。右下に二つのネオン同位体(ネオン20、ネオン22)の衝突痕が見られる。
ネオンは1898年にロンドンで、イギリス人化学者ウィリアム・ラムゼー卿(1852年 - 1916年)とモーリス・トラバース (en)(1872年 - 1961年)が発見した[6]。この当時、すでにヘリウムとアルゴンの存在が知られていたこと、さらに周期律が知られていたことから、その存在が確実視されていたわけだが、この発見によって周期表の空欄が1つ埋まった。発見に至った手法は液化空気の分留である。ラムゼーが、液体状になるまで冷却した大気を暖めて気化したガスをそれぞれ分留する実験を行っているとき、大気主成分(窒素・酸素・アルゴン)を取り除いた後に残る物質からクリプトン・キセノン・ネオンをそれぞれ見つけた[7]。
1910年12月、フランスの技術者ジョルジュ・クロードがネオンガスを封入した管に放電することで、新たな照明器具を発明した。パリの政府庁舎グラン・パレで公開後、1912年には彼は仲間たちとこの放電管をネオン管として販売し始め、理髪店で最初の広告として使用された。1915年に特許を取得し「クロードネオン社」を設立[8]。1923年、彼らがネオン管をアメリカに紹介すると、早速ロサンゼルスのパッカード自動車販売代理店にふたつの大きなネオンサインが備えられた。赤々と輝き人目を惹くネオンの広告は、他社との差別化を鮮明に映し出した[9]。
1913年にジョゼフ・ジョン・トムソンが、陽極線 (en) の成分分析を行っていた際、磁界や電界を通る流れを導き出し、写真乾板上に写り込んだ軌跡から偏向を計測して、ネオン原子の基本的性質の解明が始まった。写真には二本の光軌跡が見つかり、これは異なる放物線を描くネオンの偏向があることを示していた。トムソンは、これが同じネオン元素で分子量が異なるものが二種類あるために起こった現象と結論づけた[10]。これは最初の安定的な同位体発見であり、その手法は改良され現在の質量分析法へ[11]と発展した。
性質・用途[編集]
ネオンはガスとしてのみならず物質全体でも最も反応性に乏しい元素である[12]。
ネオン放電管
ネオンのスペクトル。なお、可視光領域は対応する色で、紫外線(左)と赤外線(右)領域は白い線で現している。
ネオンサイン
ネオンは希ガスとしては2番目に軽く、ガイスラー管に詰め放電すると橙赤色で光るため、ネオン管の封入気体として利用される[5]。実際は、アルゴンや水銀などの添加物を用いていろいろな色を出す。標準的な電圧と電流下において、ネオンのプラズマは希ガス中で最も激しい光を放つ。人間の目には一般に赤 - オレンジ色に見えるこの光は、実際には多くの波長から成っている。強い緑色の光線も含まれるが、これは分光しないと判断できない[13]。ネオン管は高電圧がかかると、管内に封入されているネオンがイオン化するために、高圧電流を素早く流す性質があり、落雷の電気をアースに流し機器類を護る避雷塔にも使われる[4]。
ネオンは窒素や酸素よりも原子番号が大きく、原子1つを比べた場合は、ネオンの方が重い。しかし、ネオンは地球の地表付近でも単原子分子として存在できるのに対し、同じ条件で窒素や酸素は多原子分子として存在する。気体は同一体積当たりの分子数がおおよそ等しいので、ネオンは地球の地表付近の空気の大部分を占める窒素分子や酸素分子よりも軽く、このため、ネオンの気球はヘリウムと比べればゆっくりであるが上昇する[14]。
液体ネオンの気化熱は420cal/mol=1.8kJ/molであり、極低温環境での冷媒として非常に効率が高く、経済的である[4][15]。
同じ質量で気体・液体の体積比率差が大きいこともネオンの特徴である。通常の気体:液体比率が500 - 800倍なのに対しネオンは1400倍にもなる。そのため貯蔵性・輸送性に優れる。また、ネオンは窒素分子に近い密度があるため、酸素とネオンを混合して作った人工空気の中では、ほとんど音速が変化しない。よって、酸素とヘリウムの混合気のような声の変化は起こさない。この特徴を生かして大深度潜水のテクニカルダイビングや宇宙で使用されることもある[4]。
この他にも、高エネルギー粒子の軌跡観察に使用する箱にネオンを満たすと、ネオンがイオン化して発光する。ヘリウムとの混合ガスはレーザー光の波長を揃えることが出来る[4]。
同位体[編集]
20Ne、21Ne、22Neの3種類の安定同位体の存在が知られている。ちなみに地球では、これらのうち20Neが約9割を占めていて、22Neが1割弱、21Neはごくわずかである。
詳細は「ネオンの同位体」を参照
脚注[編集]
[ヘルプ]
1.^ a b Preston-Thomas, H. (1990). “The International Temperature Scale of 1990 (ITS-90)”. Metrologia 27: 3-10.
2.^ “Section 4, Properties of the Elements and Inorganic Compounds; Melting, boiling, triple, and critical temperatures of the elements”. CRC Handbook of Chemistry and Physics (85th edition ed.). Boca Raton, Florida: CRC Press. (2005).
3.^ Magnetic susceptibility of the elements and inorganic compounds, in Handbook of Chemistry and Physics 81st edition, CRC press.
4.^ a b c d e f 「【ネオン】」『元素111の新知識』 講談社、1998年(初版1997年)、第六刷、72-74頁。ISBN 4-06-257192-7。
5.^ a b 「【ネオン】」『岩波理化学辞典』 岩波書店、1994年、第四版第九刷、948頁。ISBN 4-00-080015-9。
6.^ ウィリアム・ラムゼー、モーリス・W・トラバース (1898年). “On the Companions of Argon”. Proceedings of the Royal Society of London 63: 437-440. doi:10.1098/rspl.1898.0057.
7.^ “Neon: History” (英語). Softciências. 2007年2月27日閲覧。
8.^ 小野博之. “ネオン史余話” (日本語). 社団法人全日本ネオン協会. 2010年4月17日閲覧。
9.^ Mangum, Aja (2007年12月8日). “Neon: A Brief History”. New York Magazine 2008年5月20日閲覧。
10.^ “1-3:中性子の発見” (日本語). 九州大学粒子物理学講座. 2010年4月17日閲覧。
11.^ “核燃料サイクル工学実験教育テキスト (PDF)” (日本語). 財団法人エネルギー総合工学研究所. 2010年4月17日閲覧。
12.^ Lewars, Errol G. (2008年). Modelling Marvels. Springer. pp. 70-71. ISBN 1402069723.
13.^ “Plasma” (英語). 2007年3月5日閲覧。
14.^ Gallagher, R.; Ingram, P. (2001年). Chemistry for Higher Tier. University Press. ISBN 9780199148172.
15.^ “NASSMC: News Bulletin” (2005年12月30日). 2007年3月5日閲覧。
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