2014年02月13日
フッ素
フッ素(フッそ、弗素、英: fluorine)は原子番号9の元素。元素記号はラテン語のFluorumの頭文字よりFが使われる[1]。最も軽いハロゲン元素。また、同元素の単体であるフッ素分子(F2、二弗素)をも示す。
全元素中で最も大きな電気陰性度を持ち、化合物中では常に -1 の酸化数を取る。反応性が高いため、天然には蛍石や氷晶石などとして存在し、基本的に単体では存在しない。
目次 [非表示]
1 歴史
2 性質 2.1 人体への影響
2.2 フッ素の化学反応
3 用途 3.1 エキシマレーザー
3.2 屈折率の制御
3.3 ロケット
3.4 清掃
4 フッ素の化合物 4.1 金属のフッ化物
4.2 非金属のフッ化物
4.3 フッ素のオキソ酸
4.4 その他
5 同位体
6 参考文献
7 関連項目
8 外部リンク
歴史[編集]
古くから製鉄などにおいて、フッ素の化合物である蛍石(CaF2)が融剤として用いられた。例えば、ドイツの鉱物学者ゲオルク・アグリコラは1530年に著書「ベルマヌス」Bermannus, sive de re metallica dialogusにおいて、蛍石を炎の中で加熱し、融解させると、融剤として適切であると記している。1670年には、ドイツのガラス加工業者のハインリッヒ・シュヴァンハルト(Heinrich Schwanhard)が蛍石の酸溶解物にガラスをエッチングする作用があることに気づいた。蛍石に硫酸を加えると発生するフッ化水素は1771年、カール・シェーレが発見していた。未知の元素が蛍石 (Fluorite) に含まれる可能性から、フランスのアンドレ=マリ・アンペールは、未発見の新元素にfluorineと名付けた。フッ化水素と塩化水素の組成がフッ素と塩素の違いだけであると、最初に主張したのはアンペールであった。彼はその後、名称を変える。ギリシア語の「破壊的な」という語から、phthorineとした。ギリシア語ではアンペールの新名称(Φθόριο)を採用している。しかしながら、イギリスのハンフリー・デーヴィーがfluorineを使い続けたため、多くの言語ではfluorineに由来する名称が定着した。なお、日本語の「弗素」はドイツ語のFluorの音訳の1文字目から取られたものである。名称は定まったが、フッ化水素の研究は進まず、酸素を発見したアントワーヌ・ラヴォアジェも単離には至らなかった。
1800年、イタリアのアレッサンドロ・ボルタが発見した電池が、電気分解という元素発見に極めて有効な武器をもたらした。デービーは1806年から電気化学の研究を始めると、カリウム、ナトリウム、カルシウム、ストロンチウム、マグネシウム、バリウム、ホウ素を次々と単離。しかし1813年の実験では電気分解の結果、漏れ出たフッ素で短時間の中毒に陥ってしまう。デービーの能力を持ってしてもフッ素は単離できなかった。単体のフッ素の酸化力の高さゆえである。実験器具自体が破壊されるばかりか、人体に有害なフッ素を分離・保管することもできない。
アイルランドのクノックス兄弟は実験中に中毒になり、1人は3年間寝たきりになってしまう。ベルギーのPaulin Louyetとフランスのジェローム・ニクレも相次いで死亡する。1869年、ジョージ・ゴアは無水フッ化水素に直流電流を流して、水素とフッ素を得たが、即座に爆発的な反応がおきた。しかし、偶然にも怪我一つなかったという。
ようやく1886年、アンリ・モアッサンが単離に成功する。白金・イリジウム電極を用いたこと、蛍石をフッ素の捕集容器に使ったこと、電気分解を-50℃という低温下で進めたことが成功の鍵だった。材料にも工夫があり、フッ化水素カリウム(KHF2)の無水フッ化水素(HF)溶液を用いた。だがモアッサンも無傷というわけにはいかず、この実験の過程で片目の視力を失っている。フッ素単離の功績から、1906年のノーベル化学賞はモアッサンが獲得した。翌年、モアッサンは急死しているが、フッ素単離と急死との関係は不明である。2012年に鉱物アントゾナイトにフッ素分子が含まれていることが確認された[2]。
性質[編集]
単体は通常2原子分子の F2 として存在する。常温常圧では淡黄褐色で特有の臭い(塩素のようとも、きな臭いとも称される)をもつ気体。非常に強い酸化作用があり、猛毒。
融点 -223 ℃、沸点 -188 ℃、比重 1.11(沸点時、空気を1とする)。反応性が極めて高く、ヘリウムとネオン以外の殆んどの単体元素を酸化し化合物(フッ化物)を作る。
ガラスや白金さえも侵すためその性質上、単体で保存することはほとんどない。もっぱら単体よりも穏やかな化合物の状態で保存され、容器には化合物であっても侵されにくいポリエチレン製の瓶や、テフロンコーティングされた容器が用いられる。単体はフッ化水素 (HF) を電解するか、フッ化水素カリウム (KHF2) を電解することで得られる。
人体への影響[編集]
必須微量元素のひとつであると主張する学術団体がある。欠乏と過剰になる量の範囲が狭い(歯のフッ素症#食事摂取基準を参照)。フッ素のサプリメントは、日本国外では製品化されているが、日本国内での製品化は難しいと主張されることもある。主な摂取源は飲料水と動物の骨などである。
フッ素の過剰摂取は骨硬化症、脂質代謝障害、糖質代謝障害と関連がある(フッ素症を参照)。
フッ素の化学反応[編集]
フッ素の単体は酸化力が強く、ほとんど全ての元素と反応する。
水素とは高温では光なしでも反応し、光の存在下では室温でも反応してフッ化水素 (HF) を生成する。水素との1対1混合物を燃焼させると4,300K程度まで達する。
酸素とは放電によりフッ化酸素 (O2F2)を生じ、液体酸素とは放電により、O3F2 が得られる。
カルコゲン元素(硫黄、セレン、テルル)とは六フッ化物 (SF6、SeF6、TeF6) を生成する。
水と反応させるとフッ化水素(HF)、酸素 (O2) と一部オゾン (O3) を生成する。つまり水を燃やす。
水酸化ナトリウム水溶液と反応して、OF2 を生じる。
窒素とは反応しないが、アンモニアと直接反応させると、三フッ化窒素 (NF3) を生成する。
炭素はフッ素雰囲気下で燃焼し、四フッ化炭素 (CF4) を生成する[1]。
アモルファス二酸化ケイ素 (SiO2) はフッ素雰囲気下で燃焼し、四フッ化ケイ素 (SiF4) と酸素 (O2) になる。ケイ素の単体とは爆発的に反応する(モアッサンが単離したフッ素の確認に用いたのはこの反応であった)。
鉄などとは即座に反応する。他の金属も室温から比較的低温で反応する。
ニッケル、銅、鉛は、表面にフッ化銅 (CuF2) など、不動態の皮膜を形成するので比較的腐食し難い。
金、白金とは主に500℃以上で反応する。
キセノンとは加熱あるいは光存在下に反応し、二フッ化キセノン (XeF2) を生じる。大過剰のフッ素存在下に400℃で加熱すると、二、四、六フッ化物(XeF2,XeF4,XeF6)の混合物を生成する。クリプトンとは光存在下に反応し二フッ化クリプトン (KrF2) を生成する。
ハロゲン元素とはハロゲン間化合物を生成し、フッ化塩素 (ClF、ClF3)、フッ化臭素 (BrF、BrF3、BrF5)、フッ化ヨウ素 (IF5、IF7) などが知られている。
フッ素の酸化還元電位は+2.89(V)で、他のハロゲン族元素に比べて非常に高い値である。酸素の+1.21Vより高いため、他のハロゲン化物塩水溶液と異なり、フッ化物塩の水溶液を電気分解してもフッ素の単体は得られず酸素が発生する。
用途[編集]
その性質上、フッ素を単体で使う場面は少なく、フッ化カルシウム (CaF2) と硫酸 (H2SO4) から生成するフッ化水素 (HF) を介して利用されることが多い。ウラン235 (235U) 濃縮のため、揮発性の高いフッ化ウラン (UF6) を製造する目的で単体フッ素が利用されることは、特筆すべき事柄である。
フッ素の化合物は、一般に極めて安定しており、長期間変質しないという特徴を持つ。この性質は環境中で分解されにくく、いつまでも残存するということを意味しており、その使用には注意が必要である。
フッ化物#利用も参照
エキシマレーザー[編集]
エキシマレーザーの発振媒体としてフッ素ガスと希ガスの混合ガスが用いられる。例えば半導体の露光に用いられるArFレーザーがその代表である。配管にはフッ素との反応で不動態を作りそれ以上腐食が進行しにくい銅などが用いられ、さらにガス漏洩時には迅速にバルブが遮断されるような安全装置も組み込まれている。
屈折率の制御[編集]
フッ素にはガラスの屈折率を低下させる働きがあるため、光ファイバーなど通信の分野において、その屈折率制御にフッ素が使われている。
ロケット[編集]
単体のフッ素やClF5などの化合物はロケット燃料の酸化剤として、1950-1970年頃にかけNASAを含むいくつかの機関で検討されたことがある[3]。例えばNASAでは液体酸素の代わりに液体酸素-液体フッ素の混合物(フッ素を70%含むFLOX-70や同30%含むFLOX-30等)をアトラスロケットのエンジンを用いて試験しているし[4]、ソビエトでも同様の実験が行われていた[5]。これはフッ素を酸化剤として使用した場合の比推力が酸素を用いた場合を上回るためであったが、性能向上がわずかであったのに対しフッ素の危険性ゆえに取り扱い上の困難が非常に大きく、結局ロケット燃料としての利用に関しては断念されることとなった[6]。
清掃[編集]
半導体や液晶の製造装置に溜まったシリコンなどのかすを除去するためにフッ素ガスが使われている。
フッ素の化合物[編集]
詳細は「フッ化物」を参照
フッ素の化合物はフッ化物と呼ばれる。
金属のフッ化物[編集]
フッ化アルミニウム AlF3
フッ化カルシウム CaF2 蛍石 - フッ化カルシウムの鉱石
フッ化ナトリウム NaF
氷晶石 - 六フッ化アルミニウムナトリウム Na3AlF6 の鉱石
六フッ化ウラン UF6
非金属のフッ化物[編集]
フッ化水素 HF
四フッ化炭素 CF4
フッ化硫黄 四フッ化硫黄 SF4
六フッ化硫黄 SF6
フッ化キセノン 二フッ化キセノン XeF2
四フッ化キセノン XeF4
六フッ化キセノン XeF6
フッ化ケイ素酸
ヘキサフルオロ白金酸キセノン XePtF6
アルゴンフッ素水素化物 HArF
フッ素のオキソ酸[編集]
フッ素のオキソ酸は慣用名をもつ。次にそれらを挙げる。
オキソ酸の名称
化学式
(酸化数)
オキソ酸塩の名称
備考
次亜フッ素酸
(hypofluorous acid) HFO
(−I) 次亜フッ素酸塩
( - hypofluorite)
オキソ酸塩名称の '-' にはカチオン種の名称が入る。
その他[編集]
モノフルオロ酢酸 CH2FCOOH
テフロン
ポリフッ化ビニル
マジック酸 FSO2OH•SbF5
ヘキサフルオロリン酸リチウム LiPF6
同位体[編集]
詳細は「フッ素の同位体」を参照
参考文献[編集]
1.^ Storer, Frank Humphreys (1864). First outlines of a dictionary of solubilities of chemical substances. Cambridge. pp. 278–280.
2.^ 自然界に単体フッ素=鉱物で確認、定説覆す−独大学 時事ドットコム 2012年7月6日
3.^ 長倉三郎ら編、「フッ素」、『岩波理化学辞典』、第5版CD-ROM版、岩波書店、1999年
4.^ J. D. Clark, Ignition!: An informal history of liquid rocket propellants, Rutgers University Press, 1972.
5.^ F. J. Krieger, "The Russian Literature on Rocket Propellant", The Rand Corporation, 1960.
6.^ G. P. Sutton and "O. Biblarz, Rocket Propulsion Elements 8th Ed.", Wiley, 2011.
全元素中で最も大きな電気陰性度を持ち、化合物中では常に -1 の酸化数を取る。反応性が高いため、天然には蛍石や氷晶石などとして存在し、基本的に単体では存在しない。
目次 [非表示]
1 歴史
2 性質 2.1 人体への影響
2.2 フッ素の化学反応
3 用途 3.1 エキシマレーザー
3.2 屈折率の制御
3.3 ロケット
3.4 清掃
4 フッ素の化合物 4.1 金属のフッ化物
4.2 非金属のフッ化物
4.3 フッ素のオキソ酸
4.4 その他
5 同位体
6 参考文献
7 関連項目
8 外部リンク
歴史[編集]
古くから製鉄などにおいて、フッ素の化合物である蛍石(CaF2)が融剤として用いられた。例えば、ドイツの鉱物学者ゲオルク・アグリコラは1530年に著書「ベルマヌス」Bermannus, sive de re metallica dialogusにおいて、蛍石を炎の中で加熱し、融解させると、融剤として適切であると記している。1670年には、ドイツのガラス加工業者のハインリッヒ・シュヴァンハルト(Heinrich Schwanhard)が蛍石の酸溶解物にガラスをエッチングする作用があることに気づいた。蛍石に硫酸を加えると発生するフッ化水素は1771年、カール・シェーレが発見していた。未知の元素が蛍石 (Fluorite) に含まれる可能性から、フランスのアンドレ=マリ・アンペールは、未発見の新元素にfluorineと名付けた。フッ化水素と塩化水素の組成がフッ素と塩素の違いだけであると、最初に主張したのはアンペールであった。彼はその後、名称を変える。ギリシア語の「破壊的な」という語から、phthorineとした。ギリシア語ではアンペールの新名称(Φθόριο)を採用している。しかしながら、イギリスのハンフリー・デーヴィーがfluorineを使い続けたため、多くの言語ではfluorineに由来する名称が定着した。なお、日本語の「弗素」はドイツ語のFluorの音訳の1文字目から取られたものである。名称は定まったが、フッ化水素の研究は進まず、酸素を発見したアントワーヌ・ラヴォアジェも単離には至らなかった。
1800年、イタリアのアレッサンドロ・ボルタが発見した電池が、電気分解という元素発見に極めて有効な武器をもたらした。デービーは1806年から電気化学の研究を始めると、カリウム、ナトリウム、カルシウム、ストロンチウム、マグネシウム、バリウム、ホウ素を次々と単離。しかし1813年の実験では電気分解の結果、漏れ出たフッ素で短時間の中毒に陥ってしまう。デービーの能力を持ってしてもフッ素は単離できなかった。単体のフッ素の酸化力の高さゆえである。実験器具自体が破壊されるばかりか、人体に有害なフッ素を分離・保管することもできない。
アイルランドのクノックス兄弟は実験中に中毒になり、1人は3年間寝たきりになってしまう。ベルギーのPaulin Louyetとフランスのジェローム・ニクレも相次いで死亡する。1869年、ジョージ・ゴアは無水フッ化水素に直流電流を流して、水素とフッ素を得たが、即座に爆発的な反応がおきた。しかし、偶然にも怪我一つなかったという。
ようやく1886年、アンリ・モアッサンが単離に成功する。白金・イリジウム電極を用いたこと、蛍石をフッ素の捕集容器に使ったこと、電気分解を-50℃という低温下で進めたことが成功の鍵だった。材料にも工夫があり、フッ化水素カリウム(KHF2)の無水フッ化水素(HF)溶液を用いた。だがモアッサンも無傷というわけにはいかず、この実験の過程で片目の視力を失っている。フッ素単離の功績から、1906年のノーベル化学賞はモアッサンが獲得した。翌年、モアッサンは急死しているが、フッ素単離と急死との関係は不明である。2012年に鉱物アントゾナイトにフッ素分子が含まれていることが確認された[2]。
性質[編集]
単体は通常2原子分子の F2 として存在する。常温常圧では淡黄褐色で特有の臭い(塩素のようとも、きな臭いとも称される)をもつ気体。非常に強い酸化作用があり、猛毒。
融点 -223 ℃、沸点 -188 ℃、比重 1.11(沸点時、空気を1とする)。反応性が極めて高く、ヘリウムとネオン以外の殆んどの単体元素を酸化し化合物(フッ化物)を作る。
ガラスや白金さえも侵すためその性質上、単体で保存することはほとんどない。もっぱら単体よりも穏やかな化合物の状態で保存され、容器には化合物であっても侵されにくいポリエチレン製の瓶や、テフロンコーティングされた容器が用いられる。単体はフッ化水素 (HF) を電解するか、フッ化水素カリウム (KHF2) を電解することで得られる。
人体への影響[編集]
必須微量元素のひとつであると主張する学術団体がある。欠乏と過剰になる量の範囲が狭い(歯のフッ素症#食事摂取基準を参照)。フッ素のサプリメントは、日本国外では製品化されているが、日本国内での製品化は難しいと主張されることもある。主な摂取源は飲料水と動物の骨などである。
フッ素の過剰摂取は骨硬化症、脂質代謝障害、糖質代謝障害と関連がある(フッ素症を参照)。
フッ素の化学反応[編集]
フッ素の単体は酸化力が強く、ほとんど全ての元素と反応する。
水素とは高温では光なしでも反応し、光の存在下では室温でも反応してフッ化水素 (HF) を生成する。水素との1対1混合物を燃焼させると4,300K程度まで達する。
酸素とは放電によりフッ化酸素 (O2F2)を生じ、液体酸素とは放電により、O3F2 が得られる。
カルコゲン元素(硫黄、セレン、テルル)とは六フッ化物 (SF6、SeF6、TeF6) を生成する。
水と反応させるとフッ化水素(HF)、酸素 (O2) と一部オゾン (O3) を生成する。つまり水を燃やす。
水酸化ナトリウム水溶液と反応して、OF2 を生じる。
窒素とは反応しないが、アンモニアと直接反応させると、三フッ化窒素 (NF3) を生成する。
炭素はフッ素雰囲気下で燃焼し、四フッ化炭素 (CF4) を生成する[1]。
アモルファス二酸化ケイ素 (SiO2) はフッ素雰囲気下で燃焼し、四フッ化ケイ素 (SiF4) と酸素 (O2) になる。ケイ素の単体とは爆発的に反応する(モアッサンが単離したフッ素の確認に用いたのはこの反応であった)。
鉄などとは即座に反応する。他の金属も室温から比較的低温で反応する。
ニッケル、銅、鉛は、表面にフッ化銅 (CuF2) など、不動態の皮膜を形成するので比較的腐食し難い。
金、白金とは主に500℃以上で反応する。
キセノンとは加熱あるいは光存在下に反応し、二フッ化キセノン (XeF2) を生じる。大過剰のフッ素存在下に400℃で加熱すると、二、四、六フッ化物(XeF2,XeF4,XeF6)の混合物を生成する。クリプトンとは光存在下に反応し二フッ化クリプトン (KrF2) を生成する。
ハロゲン元素とはハロゲン間化合物を生成し、フッ化塩素 (ClF、ClF3)、フッ化臭素 (BrF、BrF3、BrF5)、フッ化ヨウ素 (IF5、IF7) などが知られている。
フッ素の酸化還元電位は+2.89(V)で、他のハロゲン族元素に比べて非常に高い値である。酸素の+1.21Vより高いため、他のハロゲン化物塩水溶液と異なり、フッ化物塩の水溶液を電気分解してもフッ素の単体は得られず酸素が発生する。
用途[編集]
その性質上、フッ素を単体で使う場面は少なく、フッ化カルシウム (CaF2) と硫酸 (H2SO4) から生成するフッ化水素 (HF) を介して利用されることが多い。ウラン235 (235U) 濃縮のため、揮発性の高いフッ化ウラン (UF6) を製造する目的で単体フッ素が利用されることは、特筆すべき事柄である。
フッ素の化合物は、一般に極めて安定しており、長期間変質しないという特徴を持つ。この性質は環境中で分解されにくく、いつまでも残存するということを意味しており、その使用には注意が必要である。
フッ化物#利用も参照
エキシマレーザー[編集]
エキシマレーザーの発振媒体としてフッ素ガスと希ガスの混合ガスが用いられる。例えば半導体の露光に用いられるArFレーザーがその代表である。配管にはフッ素との反応で不動態を作りそれ以上腐食が進行しにくい銅などが用いられ、さらにガス漏洩時には迅速にバルブが遮断されるような安全装置も組み込まれている。
屈折率の制御[編集]
フッ素にはガラスの屈折率を低下させる働きがあるため、光ファイバーなど通信の分野において、その屈折率制御にフッ素が使われている。
ロケット[編集]
単体のフッ素やClF5などの化合物はロケット燃料の酸化剤として、1950-1970年頃にかけNASAを含むいくつかの機関で検討されたことがある[3]。例えばNASAでは液体酸素の代わりに液体酸素-液体フッ素の混合物(フッ素を70%含むFLOX-70や同30%含むFLOX-30等)をアトラスロケットのエンジンを用いて試験しているし[4]、ソビエトでも同様の実験が行われていた[5]。これはフッ素を酸化剤として使用した場合の比推力が酸素を用いた場合を上回るためであったが、性能向上がわずかであったのに対しフッ素の危険性ゆえに取り扱い上の困難が非常に大きく、結局ロケット燃料としての利用に関しては断念されることとなった[6]。
清掃[編集]
半導体や液晶の製造装置に溜まったシリコンなどのかすを除去するためにフッ素ガスが使われている。
フッ素の化合物[編集]
詳細は「フッ化物」を参照
フッ素の化合物はフッ化物と呼ばれる。
金属のフッ化物[編集]
フッ化アルミニウム AlF3
フッ化カルシウム CaF2 蛍石 - フッ化カルシウムの鉱石
フッ化ナトリウム NaF
氷晶石 - 六フッ化アルミニウムナトリウム Na3AlF6 の鉱石
六フッ化ウラン UF6
非金属のフッ化物[編集]
フッ化水素 HF
四フッ化炭素 CF4
フッ化硫黄 四フッ化硫黄 SF4
六フッ化硫黄 SF6
フッ化キセノン 二フッ化キセノン XeF2
四フッ化キセノン XeF4
六フッ化キセノン XeF6
フッ化ケイ素酸
ヘキサフルオロ白金酸キセノン XePtF6
アルゴンフッ素水素化物 HArF
フッ素のオキソ酸[編集]
フッ素のオキソ酸は慣用名をもつ。次にそれらを挙げる。
オキソ酸の名称
化学式
(酸化数)
オキソ酸塩の名称
備考
次亜フッ素酸
(hypofluorous acid) HFO
(−I) 次亜フッ素酸塩
( - hypofluorite)
オキソ酸塩名称の '-' にはカチオン種の名称が入る。
その他[編集]
モノフルオロ酢酸 CH2FCOOH
テフロン
ポリフッ化ビニル
マジック酸 FSO2OH•SbF5
ヘキサフルオロリン酸リチウム LiPF6
同位体[編集]
詳細は「フッ素の同位体」を参照
参考文献[編集]
1.^ Storer, Frank Humphreys (1864). First outlines of a dictionary of solubilities of chemical substances. Cambridge. pp. 278–280.
2.^ 自然界に単体フッ素=鉱物で確認、定説覆す−独大学 時事ドットコム 2012年7月6日
3.^ 長倉三郎ら編、「フッ素」、『岩波理化学辞典』、第5版CD-ROM版、岩波書店、1999年
4.^ J. D. Clark, Ignition!: An informal history of liquid rocket propellants, Rutgers University Press, 1972.
5.^ F. J. Krieger, "The Russian Literature on Rocket Propellant", The Rand Corporation, 1960.
6.^ G. P. Sutton and "O. Biblarz, Rocket Propulsion Elements 8th Ed.", Wiley, 2011.
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