2014年02月06日
魔女
魔女(まじょ、英: witch、仏: sorcière、独: Hexe)は、古いヨーロッパの俗信で、超自然的な力で人畜に害を及ぼすとされた人間、または妖術を行使する者のこと[1]。
現存する史料からうかがわれる魔女狩りの時代の魔女観では、魔女は、多くの場合女性で、時には男性であったとされている[2]。現代ヨーロッパ言語には「男性のwitch」を指す言葉(英: warlock、仏: sorcier、独: Hexer)も存在するが、日本語では「魔男」という言い方は普及しておらず、男性形の sorcier に「魔法使い」という訳語を当てる場合がある[3]。
概要[編集]
(始めに、ここで登場する「異教」及び「異端」という言葉はキリスト教主観からのものである)
冒頭で魔女の一般的な定義を与えたが、すべてに当てはまる最大公約数的定義を示すのは困難である。ヨーロッパの歴史における魔女は複雑な背景を持つ重層的な概念となっており、多面的な魔女像が存在する。古代や中世前期での原型的魔女ないし魔法使いから、中世末以降に魔女論者たちが定式化し識字層に広まった類型的魔女像、近世・近代の民間伝承やメルヒェンの中の魔女像、19世紀以降に考えられたロマンチックな魔女像や、20世紀以降の新異教主義の魔女に至るまでの、さまざまなものが魔女という言葉で括られている。
魔女の概念の古層には、ラテン語で「マレフィキウム」(悪行)と呼ばれた加害魔法の概念があるとされる[4]。呪術的な手段によって他者を害することは、古代ギリシア・ローマの異教時代から刑罰の対象であった。キリスト教化された中世ヨーロッパでもこのマレフィキウムに対する考え方は存続し、呪術による罪を宣告された者は死刑などの重い刑を科せられた。
しかし中世晩期の15世紀になると、それまでの単なる悪い呪術師とは別様の、「悪魔と契約を結んで得た力をもって災いをなす存在」という概念が生まれた。魔女とは悪魔に従属する人間であり、悪魔や精霊(デーモン)との契約および性的交わりによって、超自然的な魔力や人を害する軟膏を授かった者とされた[5]。魔女裁判が盛んに行われた16世紀から17世紀の近世ヨーロッパ社会において識字層を中心に広まっていた魔女観はこのようなものであった。
欧米では20世紀後半以降、魔女と自己規定する人が増えている。その多くは、20世紀半ばにジェラルド・ガードナーが始めた魔女の宗教運動であるウイッカや、これに類する新異教主義のウイッチクラフトの信奉者である。ウイッカを信奉する者はウイッチ (Witch) という言葉のもつ悪いイメージを嫌い、ウイッカンと呼ばれる。ウイッカやこれに類する新異教主義のウイッチクラフト諸派は日本で魔女宗とも魔女術とも呼ばれている。
魔女狩り[編集]
詳細は「魔女狩り」を参照
15世紀から17世紀にかけてのヨーロッパ諸国において、多くの人々が魔女の嫌疑をかけられ、世俗の裁判や宗教裁判によって処断された。当時魔女は悪魔と交わり特別な力を授けられ、作物や家畜に害をなすと信じられていた。特に女性と限られてはおらず「男性の魔女」というのもおり、どちらも英語では同じ Witch という語で現され(のちに詐欺師、悪魔を意味する Warlock をあてはめられた)、魔法使い・魔術師 (Wizard) とは異なるものである。魔女は聖俗の裁判官や教会学者によって捏造されたものであるとする説が19世紀に登場した。しかし魔女とされた人々の一部は何らかの異教的または異端的な豊穣儀礼を実践していたという説もある。
15世紀に書かれた魔女を糾弾する書物の中でも、ドイツの異端審問官によって著された『魔女への鉄槌』(1489年)は魔女狩りの手引きとして特に有名である。同書は15世紀の印刷革命に乗じてヨーロッパ諸国で広く読まれ、ドイツにおける魔女裁判の本格化に寄与したとも言われている[6]。もっとも、魔女狩りが本格化したのは同書の出版の1世紀後のことであるから、同書と魔女狩りの激化との関係は明白ではない。魔女狩りの盛期であった16世紀から17世紀には、フランスの法律家ジャン・ボダンの『魔女の悪魔憑依』(1580年)をはじめとして魔女妄想を煽る悪魔学書が多数出版された。一方、ドイツの医師ヨーハン・ヴァイヤーは『悪魔の眩惑』(1563年)を著して魔女裁判に異議を唱え、イギリスのレジナルド・スコットは『妖術の暴露』(1584年)を書き、魔女をめぐる種々の空想(妄想)を否定した。
実際に魔女と名指しされた人たちがどのような人々であったかについては、地域や個々の魔女裁判によって異なるため一般化するのは難しい。告発された人は女性とは限らなかった。裁判記録に基づく統計によれば、西欧ではおおむね女性が多い傾向にあったが、北欧では男性の方が多い地域もあった。多くの地域で犠牲者は貧しい下層階級の人々が多く、高齢の女性が多い傾向にあった。時には比較的身分の高い人や少年少女が魔女とされることもあり、さまざまな種類の人々が魔女として告発された。集団的な妄想の犠牲者やマイノリティ、同性愛者や姦通者、隣人の恨みを買った人たち、悪魔憑きなどがいた。「賢い女性たち」といわれる民間療法の担い手・正規の医者ではないが医者の代行を務めた、今で言う助産師のような人たちが多かったとの説があるが、学術的には受け入れられていない。悪魔学者たちは産婆を魔女として糾弾したが、実際には裁判記録にみられる産婆の数はけっして多くはない。また民間の治療師や占い師である白魔女も、少なくともイングランドの裁判記録を見る限り、ことさらに告発の対象になったわけではないようである[7]。
『旧約聖書』には呪術や口寄せを断罪する記述がいくつかあるが、魔女狩りの時代にはそれらは当時の魔女のイメージに合うように解釈された。たとえば「出エジプト記」の中で、律法を述べた22章第17節[補註 1]には、「女呪術師を生かしておいてはならない」ということが記されている。この女呪術師のヘブライ語はメハシェファ(mekhashshepheh)で、呪術を使う女と解されている[8]。この箇所が『欽定訳聖書』(1611年)では「魔女(Witch)を生かしおくべからず」と翻訳され、魔女迫害の正当化の根拠として引き合いに出された。
魔女狩りの対象者の性別[編集]
「記録として残された魔女裁判」の統計調査結果からすると、地域や年代によって差はあるが、被告が女性である事例が多い地域が目立ち、全体としてみればおよそ8割が女性であった[9]。ただし記録が現存していない事例や不完全な記録も多いため、実際に女性のほうが多かったとするのはあくまで有意な帰納的推定であり、事実として確定しえない。訴追にまで至らなかった民間の魔女迫害についても、どれほどの事例があったのかも今日では知りえず調査対象とならない。その中でも、アイスランドやモスクワなど男性のほうが多い地域もあったことや、魔女狩りの早期であった15世紀頃には男性もかなり含まれていたことは注目に価する。
魔女とジェンダー[編集]
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この記事には独自研究が含まれているおそれがあります。問題箇所を検証し出典を追加して、記事の改善にご協力ください。議論はノートを参照してください。(2011年5月)
魔女は必ずしも女性ではないが、中世・近世のヨーロッパでは女性の社会的地位は男性に比べてはるかに下に位置づけられていたし、女性形と男性形がある言語では、よくないことをあらわす名詞は女性形をとることが多かった(フランス語の Sorcière やドイツ語の Hexe は女性形)。古代エジプトやメソポタミアや古代ローマなどアニミズム的な信仰のもとでは女性の宗教的地位・社会的地位は高かったが、それらの世界の征服者であるキリスト教やイスラム教や仏教などは女性の位置を低く置いて発達していくこととなった。20世紀になって男女平等的をよしとする社会の中で暮らしていると当時の観念を勘違いしてしまうことは多いが、当時のように社会的地位において女性が低く置かれていた社会において、男に対して女呼ばわりするというのは最大限のののしり行為である。「記録として残された魔女裁判」の統計からすると女性の例が多かったとする説もある[10]が、件数だけ判明している村などがあり、人物名や人物像など詳細な記録にならなかった例のほうがはるかに多く、実際に女性のほうが多かったかどうかは明らかではない。
女性の宗教的地位・社会的地位の低かった中世近世ヨーロッパの中にあって、女王が存在し独自のキリスト教会(イングランド国教会)を作った島国イギリスで用いられる言語である英語では性による区別が大方失われており[補註 2]、必然的にウイッチ (Witch)は男女双方に対して適用される名詞としてある。
日本では民俗儀礼や神道では女性は神と通じる役目を持っているし、古代史には女性天皇が続いた時代もあり、中世でも関東では女性の土地相続が男性と変わらず保障されるなどの例があり、女性の社会的・宗教的地位は必ずしも低くはなかったともいえる。しかし、仏教が席巻してからの日本では仏教の男性上位の考え方が広まって社会的地位は男性のものとなり、人をたぶらかす類の「あやかし」は雪女や女狐といった形でやはり女を付けてあらわされることが多かった(大入道など、力や大きさで人をおどろかす類の「あやかし」は男性のイメージで語られてきた)。
白魔女[編集]
害悪をもたらす妖術には関わらない白魔女も存在した。彼/彼女らは、イギリスで「器用な人」(cunning man, cunning woman)、フランスで「占い師兼病気治し」(devins-guerisseurs)などと呼ばれた[11]。 民衆は白魔女を信頼していた。教会学者は白魔女を魔女の同類とみなし、白魔女の占いや治療行為を非難したが、イングランドの裁判記録では白魔女の関係する訴訟はかなり少なかったことが判っている[7]。
黒魔女[編集]
人間界を、暗黒にするといわれている魔女。白魔女とは逆。黒魔術を使って、人を苦しめる。
垣根の上にいる女[編集]
魔女に当たるドイツ語は Hexe(ちなみに魔法使いは Zauberer)で、ヨーロッパの多くの言語で、「魔女」はこれに類したつづりになる[要出典]が、これは「垣根の上にいる女」の意味に由来している。この「垣根」とはただの垣根ではなく、生と死の間の垣根のことである。出産の介助、病気の看病、薬草、傷薬の処方、熱さまし、避妊、堕胎など、彼女たちの多くの活動が「生と死の垣根」の仕事であり、それが不首尾に終わったりすると、逆恨みから「魔女」と名指しされることも多かった。
『魔女への鉄槌』中に見られる用語、sorcier(妖術師と訳される。魔術師のこと)の女性形で sorciere がのちに魔女を意味するようになり、魔女裁判の記録に残されている。フランス語では現在もこれを引き継ぎ、魔女は Sorcière、男性の魔女、魔法使い・魔術師は Sorcier と性が異なるのみで同じ単語を用いる。
魔女についての迷信[編集]
死に際の魔女の手を握ると魔力が握った側に移る。
女性が悪魔と交わることで魔女となる。
魔女はホウキにまたがって空を飛び、サバトに参加する。ここで悪魔との乱交が行われる。
魔女は悪魔の力を借りて作物や家畜に被害を与える。
魔女は水中に沈められても悪魔に助けられて浮かび上がる。
魔女は体のどこかに「契約の印」と呼ばれる、痛みを感じない箇所がある。
魔女はカラスを召使いとする。
多くの魔女は黒猫を聖なるものとして飼っているとされた。そのため魔女の使い魔とされている。
「魔女狩りにより猫を殺し過ぎたために天敵のいなくなった鼠の数が増え、これがペスト流行の一因となった」といわれるがこれは誤りである。
創作上の魔女[編集]
西洋の童話などに頻繁に登場する魔術、呪術、妖術などを使う女性の、大抵のイメージは鉤鼻の老婆が黒い三角帽・黒マント姿で、大鍋でトカゲなどを煮ているというものが多い。このイメージは、魔女狩りの歴史の中で固まったと言われている。
現代のファンタジー小説、テレビドラマ、映画等では、上記のような伝統的な意味での用法ではなく、魔法使いの女性形の意味で使われている場合が多い。作品によってはある程度現実的な世界観もあるが、こと魔法に関してはまったく現実から浮遊したものである場合がほとんどである。
日本のアニメには『魔女っ子メグちゃん』『おジャ魔女どれみ』など、魔法を行使する少女、魔法少女を主人公としたパターンがしばしば見られる。また、本来の魔女も『怪物くん』や『ゲゲゲの鬼太郎』のゲストキャラや敵キャラとして登場し、また前述の魔法少女アニメでも魔法少女の師匠に当たる役割で登場する事もある。
魔女を題材とした海外ドラマには、『チャームド〜魔女3姉妹〜』、『奥さまは魔女』、『サブリナ』などがある。
魔女術・魔女宗(Witchcraft・Wicca)[編集]
詳細は「ウィッカ」を参照
新異教主義の一種である魔女宗(ウイッカ、ウイッチクラフト)は、魔女は古代の異教を伝える人々であったという思想を前提に、魔女の信仰と知恵を復興させ現代に実践しようとする宗教運動である。
20世紀半ばにして魔女禁止令がようやく廃止されたイギリスで、魔女の宗教集団に接触し教えを伝授されたと主張するジェラルド・ガードナーという人物が、魔女の宗教についての一連の著作を執筆するなどの活動を通じて、魔女の宗教を復活させようとした。現在では学問的価値がないとされているイギリスのエジプト考古学者マーガレット・マリーの魔女の宗教に関する学説や近代西洋儀式魔術の儀式様式などを取り入れて創作されたものとも言われている彼の魔女宗教は、当初ウイッチクラフトと呼ばれ、後にはウイッカと呼ばれるようになった。
Witchcraftを単純に和訳し、魔女術(ウイッチクラフト)と呼ばれることがある。その場合は、単なる「術」、つまりおまじないや呪術の総称と言える。対して、「キリスト教以前に存在したヨーロッパの多神教の復活である」という思想を有する、ガードナーに始まるウイッカ (Wicca) やこれに類する新異教主義のウイッチクラフト諸派は信仰的側面をもっているため、ウイッカ宗、魔女宗と訳すのが望ましい。魔女宗は、オカルト趣味とは異なり、欧米で認められている宗教の一つである。ウイッカを信奉する魔女は、差別的な意味合いを負わされてきた英語のウイッチ(Witch)という言葉を好まず、ウイッカン (Wiccan) と称することが多い。
魔女宗の魔女たちは、魔女を「キリスト教の悪意によって魔女とされた、自然の神々の崇拝者」であるとし、キリスト教以前の神々を崇拝する。現代の魔女宗の復興に大きな影響を与えたジェラルド・ガードナーが近代西洋儀式魔術の要素を導入したため、儀式魔術と同じようなものとして語られることがあるが、魔女宗は宗教であり魔術とは異なる。むしろシャーマニズムや神道と同列に語られるべきものである。
欧米における魔女宗の魔女たちは、伝統的には13人、しかし実際にはもっと少ない人数の実践グループ「カヴン(魔女団)」に所属するか、もしくは一人で活動する。中には全裸で儀式を執り行うグループもあり、スキャンダラスに取り上げられがちであるが、ヌーディズムのヌーディスト・クラブの例を見るまでもなく、全裸の作業が性的な乱れに繋がることは一部の不心得団体以外にはない(そしてそのような不心得の団体は、本物の魔女宗のメンバーとは認められない)。
現存する史料からうかがわれる魔女狩りの時代の魔女観では、魔女は、多くの場合女性で、時には男性であったとされている[2]。現代ヨーロッパ言語には「男性のwitch」を指す言葉(英: warlock、仏: sorcier、独: Hexer)も存在するが、日本語では「魔男」という言い方は普及しておらず、男性形の sorcier に「魔法使い」という訳語を当てる場合がある[3]。
概要[編集]
(始めに、ここで登場する「異教」及び「異端」という言葉はキリスト教主観からのものである)
冒頭で魔女の一般的な定義を与えたが、すべてに当てはまる最大公約数的定義を示すのは困難である。ヨーロッパの歴史における魔女は複雑な背景を持つ重層的な概念となっており、多面的な魔女像が存在する。古代や中世前期での原型的魔女ないし魔法使いから、中世末以降に魔女論者たちが定式化し識字層に広まった類型的魔女像、近世・近代の民間伝承やメルヒェンの中の魔女像、19世紀以降に考えられたロマンチックな魔女像や、20世紀以降の新異教主義の魔女に至るまでの、さまざまなものが魔女という言葉で括られている。
魔女の概念の古層には、ラテン語で「マレフィキウム」(悪行)と呼ばれた加害魔法の概念があるとされる[4]。呪術的な手段によって他者を害することは、古代ギリシア・ローマの異教時代から刑罰の対象であった。キリスト教化された中世ヨーロッパでもこのマレフィキウムに対する考え方は存続し、呪術による罪を宣告された者は死刑などの重い刑を科せられた。
しかし中世晩期の15世紀になると、それまでの単なる悪い呪術師とは別様の、「悪魔と契約を結んで得た力をもって災いをなす存在」という概念が生まれた。魔女とは悪魔に従属する人間であり、悪魔や精霊(デーモン)との契約および性的交わりによって、超自然的な魔力や人を害する軟膏を授かった者とされた[5]。魔女裁判が盛んに行われた16世紀から17世紀の近世ヨーロッパ社会において識字層を中心に広まっていた魔女観はこのようなものであった。
欧米では20世紀後半以降、魔女と自己規定する人が増えている。その多くは、20世紀半ばにジェラルド・ガードナーが始めた魔女の宗教運動であるウイッカや、これに類する新異教主義のウイッチクラフトの信奉者である。ウイッカを信奉する者はウイッチ (Witch) という言葉のもつ悪いイメージを嫌い、ウイッカンと呼ばれる。ウイッカやこれに類する新異教主義のウイッチクラフト諸派は日本で魔女宗とも魔女術とも呼ばれている。
魔女狩り[編集]
詳細は「魔女狩り」を参照
15世紀から17世紀にかけてのヨーロッパ諸国において、多くの人々が魔女の嫌疑をかけられ、世俗の裁判や宗教裁判によって処断された。当時魔女は悪魔と交わり特別な力を授けられ、作物や家畜に害をなすと信じられていた。特に女性と限られてはおらず「男性の魔女」というのもおり、どちらも英語では同じ Witch という語で現され(のちに詐欺師、悪魔を意味する Warlock をあてはめられた)、魔法使い・魔術師 (Wizard) とは異なるものである。魔女は聖俗の裁判官や教会学者によって捏造されたものであるとする説が19世紀に登場した。しかし魔女とされた人々の一部は何らかの異教的または異端的な豊穣儀礼を実践していたという説もある。
15世紀に書かれた魔女を糾弾する書物の中でも、ドイツの異端審問官によって著された『魔女への鉄槌』(1489年)は魔女狩りの手引きとして特に有名である。同書は15世紀の印刷革命に乗じてヨーロッパ諸国で広く読まれ、ドイツにおける魔女裁判の本格化に寄与したとも言われている[6]。もっとも、魔女狩りが本格化したのは同書の出版の1世紀後のことであるから、同書と魔女狩りの激化との関係は明白ではない。魔女狩りの盛期であった16世紀から17世紀には、フランスの法律家ジャン・ボダンの『魔女の悪魔憑依』(1580年)をはじめとして魔女妄想を煽る悪魔学書が多数出版された。一方、ドイツの医師ヨーハン・ヴァイヤーは『悪魔の眩惑』(1563年)を著して魔女裁判に異議を唱え、イギリスのレジナルド・スコットは『妖術の暴露』(1584年)を書き、魔女をめぐる種々の空想(妄想)を否定した。
実際に魔女と名指しされた人たちがどのような人々であったかについては、地域や個々の魔女裁判によって異なるため一般化するのは難しい。告発された人は女性とは限らなかった。裁判記録に基づく統計によれば、西欧ではおおむね女性が多い傾向にあったが、北欧では男性の方が多い地域もあった。多くの地域で犠牲者は貧しい下層階級の人々が多く、高齢の女性が多い傾向にあった。時には比較的身分の高い人や少年少女が魔女とされることもあり、さまざまな種類の人々が魔女として告発された。集団的な妄想の犠牲者やマイノリティ、同性愛者や姦通者、隣人の恨みを買った人たち、悪魔憑きなどがいた。「賢い女性たち」といわれる民間療法の担い手・正規の医者ではないが医者の代行を務めた、今で言う助産師のような人たちが多かったとの説があるが、学術的には受け入れられていない。悪魔学者たちは産婆を魔女として糾弾したが、実際には裁判記録にみられる産婆の数はけっして多くはない。また民間の治療師や占い師である白魔女も、少なくともイングランドの裁判記録を見る限り、ことさらに告発の対象になったわけではないようである[7]。
『旧約聖書』には呪術や口寄せを断罪する記述がいくつかあるが、魔女狩りの時代にはそれらは当時の魔女のイメージに合うように解釈された。たとえば「出エジプト記」の中で、律法を述べた22章第17節[補註 1]には、「女呪術師を生かしておいてはならない」ということが記されている。この女呪術師のヘブライ語はメハシェファ(mekhashshepheh)で、呪術を使う女と解されている[8]。この箇所が『欽定訳聖書』(1611年)では「魔女(Witch)を生かしおくべからず」と翻訳され、魔女迫害の正当化の根拠として引き合いに出された。
魔女狩りの対象者の性別[編集]
「記録として残された魔女裁判」の統計調査結果からすると、地域や年代によって差はあるが、被告が女性である事例が多い地域が目立ち、全体としてみればおよそ8割が女性であった[9]。ただし記録が現存していない事例や不完全な記録も多いため、実際に女性のほうが多かったとするのはあくまで有意な帰納的推定であり、事実として確定しえない。訴追にまで至らなかった民間の魔女迫害についても、どれほどの事例があったのかも今日では知りえず調査対象とならない。その中でも、アイスランドやモスクワなど男性のほうが多い地域もあったことや、魔女狩りの早期であった15世紀頃には男性もかなり含まれていたことは注目に価する。
魔女とジェンダー[編集]
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この記事には独自研究が含まれているおそれがあります。問題箇所を検証し出典を追加して、記事の改善にご協力ください。議論はノートを参照してください。(2011年5月)
魔女は必ずしも女性ではないが、中世・近世のヨーロッパでは女性の社会的地位は男性に比べてはるかに下に位置づけられていたし、女性形と男性形がある言語では、よくないことをあらわす名詞は女性形をとることが多かった(フランス語の Sorcière やドイツ語の Hexe は女性形)。古代エジプトやメソポタミアや古代ローマなどアニミズム的な信仰のもとでは女性の宗教的地位・社会的地位は高かったが、それらの世界の征服者であるキリスト教やイスラム教や仏教などは女性の位置を低く置いて発達していくこととなった。20世紀になって男女平等的をよしとする社会の中で暮らしていると当時の観念を勘違いしてしまうことは多いが、当時のように社会的地位において女性が低く置かれていた社会において、男に対して女呼ばわりするというのは最大限のののしり行為である。「記録として残された魔女裁判」の統計からすると女性の例が多かったとする説もある[10]が、件数だけ判明している村などがあり、人物名や人物像など詳細な記録にならなかった例のほうがはるかに多く、実際に女性のほうが多かったかどうかは明らかではない。
女性の宗教的地位・社会的地位の低かった中世近世ヨーロッパの中にあって、女王が存在し独自のキリスト教会(イングランド国教会)を作った島国イギリスで用いられる言語である英語では性による区別が大方失われており[補註 2]、必然的にウイッチ (Witch)は男女双方に対して適用される名詞としてある。
日本では民俗儀礼や神道では女性は神と通じる役目を持っているし、古代史には女性天皇が続いた時代もあり、中世でも関東では女性の土地相続が男性と変わらず保障されるなどの例があり、女性の社会的・宗教的地位は必ずしも低くはなかったともいえる。しかし、仏教が席巻してからの日本では仏教の男性上位の考え方が広まって社会的地位は男性のものとなり、人をたぶらかす類の「あやかし」は雪女や女狐といった形でやはり女を付けてあらわされることが多かった(大入道など、力や大きさで人をおどろかす類の「あやかし」は男性のイメージで語られてきた)。
白魔女[編集]
害悪をもたらす妖術には関わらない白魔女も存在した。彼/彼女らは、イギリスで「器用な人」(cunning man, cunning woman)、フランスで「占い師兼病気治し」(devins-guerisseurs)などと呼ばれた[11]。 民衆は白魔女を信頼していた。教会学者は白魔女を魔女の同類とみなし、白魔女の占いや治療行為を非難したが、イングランドの裁判記録では白魔女の関係する訴訟はかなり少なかったことが判っている[7]。
黒魔女[編集]
人間界を、暗黒にするといわれている魔女。白魔女とは逆。黒魔術を使って、人を苦しめる。
垣根の上にいる女[編集]
魔女に当たるドイツ語は Hexe(ちなみに魔法使いは Zauberer)で、ヨーロッパの多くの言語で、「魔女」はこれに類したつづりになる[要出典]が、これは「垣根の上にいる女」の意味に由来している。この「垣根」とはただの垣根ではなく、生と死の間の垣根のことである。出産の介助、病気の看病、薬草、傷薬の処方、熱さまし、避妊、堕胎など、彼女たちの多くの活動が「生と死の垣根」の仕事であり、それが不首尾に終わったりすると、逆恨みから「魔女」と名指しされることも多かった。
『魔女への鉄槌』中に見られる用語、sorcier(妖術師と訳される。魔術師のこと)の女性形で sorciere がのちに魔女を意味するようになり、魔女裁判の記録に残されている。フランス語では現在もこれを引き継ぎ、魔女は Sorcière、男性の魔女、魔法使い・魔術師は Sorcier と性が異なるのみで同じ単語を用いる。
魔女についての迷信[編集]
死に際の魔女の手を握ると魔力が握った側に移る。
女性が悪魔と交わることで魔女となる。
魔女はホウキにまたがって空を飛び、サバトに参加する。ここで悪魔との乱交が行われる。
魔女は悪魔の力を借りて作物や家畜に被害を与える。
魔女は水中に沈められても悪魔に助けられて浮かび上がる。
魔女は体のどこかに「契約の印」と呼ばれる、痛みを感じない箇所がある。
魔女はカラスを召使いとする。
多くの魔女は黒猫を聖なるものとして飼っているとされた。そのため魔女の使い魔とされている。
「魔女狩りにより猫を殺し過ぎたために天敵のいなくなった鼠の数が増え、これがペスト流行の一因となった」といわれるがこれは誤りである。
創作上の魔女[編集]
西洋の童話などに頻繁に登場する魔術、呪術、妖術などを使う女性の、大抵のイメージは鉤鼻の老婆が黒い三角帽・黒マント姿で、大鍋でトカゲなどを煮ているというものが多い。このイメージは、魔女狩りの歴史の中で固まったと言われている。
現代のファンタジー小説、テレビドラマ、映画等では、上記のような伝統的な意味での用法ではなく、魔法使いの女性形の意味で使われている場合が多い。作品によってはある程度現実的な世界観もあるが、こと魔法に関してはまったく現実から浮遊したものである場合がほとんどである。
日本のアニメには『魔女っ子メグちゃん』『おジャ魔女どれみ』など、魔法を行使する少女、魔法少女を主人公としたパターンがしばしば見られる。また、本来の魔女も『怪物くん』や『ゲゲゲの鬼太郎』のゲストキャラや敵キャラとして登場し、また前述の魔法少女アニメでも魔法少女の師匠に当たる役割で登場する事もある。
魔女を題材とした海外ドラマには、『チャームド〜魔女3姉妹〜』、『奥さまは魔女』、『サブリナ』などがある。
魔女術・魔女宗(Witchcraft・Wicca)[編集]
詳細は「ウィッカ」を参照
新異教主義の一種である魔女宗(ウイッカ、ウイッチクラフト)は、魔女は古代の異教を伝える人々であったという思想を前提に、魔女の信仰と知恵を復興させ現代に実践しようとする宗教運動である。
20世紀半ばにして魔女禁止令がようやく廃止されたイギリスで、魔女の宗教集団に接触し教えを伝授されたと主張するジェラルド・ガードナーという人物が、魔女の宗教についての一連の著作を執筆するなどの活動を通じて、魔女の宗教を復活させようとした。現在では学問的価値がないとされているイギリスのエジプト考古学者マーガレット・マリーの魔女の宗教に関する学説や近代西洋儀式魔術の儀式様式などを取り入れて創作されたものとも言われている彼の魔女宗教は、当初ウイッチクラフトと呼ばれ、後にはウイッカと呼ばれるようになった。
Witchcraftを単純に和訳し、魔女術(ウイッチクラフト)と呼ばれることがある。その場合は、単なる「術」、つまりおまじないや呪術の総称と言える。対して、「キリスト教以前に存在したヨーロッパの多神教の復活である」という思想を有する、ガードナーに始まるウイッカ (Wicca) やこれに類する新異教主義のウイッチクラフト諸派は信仰的側面をもっているため、ウイッカ宗、魔女宗と訳すのが望ましい。魔女宗は、オカルト趣味とは異なり、欧米で認められている宗教の一つである。ウイッカを信奉する魔女は、差別的な意味合いを負わされてきた英語のウイッチ(Witch)という言葉を好まず、ウイッカン (Wiccan) と称することが多い。
魔女宗の魔女たちは、魔女を「キリスト教の悪意によって魔女とされた、自然の神々の崇拝者」であるとし、キリスト教以前の神々を崇拝する。現代の魔女宗の復興に大きな影響を与えたジェラルド・ガードナーが近代西洋儀式魔術の要素を導入したため、儀式魔術と同じようなものとして語られることがあるが、魔女宗は宗教であり魔術とは異なる。むしろシャーマニズムや神道と同列に語られるべきものである。
欧米における魔女宗の魔女たちは、伝統的には13人、しかし実際にはもっと少ない人数の実践グループ「カヴン(魔女団)」に所属するか、もしくは一人で活動する。中には全裸で儀式を執り行うグループもあり、スキャンダラスに取り上げられがちであるが、ヌーディズムのヌーディスト・クラブの例を見るまでもなく、全裸の作業が性的な乱れに繋がることは一部の不心得団体以外にはない(そしてそのような不心得の団体は、本物の魔女宗のメンバーとは認められない)。
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