2015年04月02日
◆ドイツ機墜落と機長の健康問題。どうしたら再発を防げるのか。
ドイツ・ルフトハンザ航空の格安航空部門(LCC)ジャーマンウィングスのエアバスA320が3月24日、フランスのアルプス山岳で墜落したらしいという話を聞いたのが、私がちょうど取材でイタリアへ入国して2日目のことだった。
テレビでは盛んにLCCの経営の問題やA320の安全性について論じていたが、その後、操縦していたアンドレアス・ルビッツ副操縦士(27)が意図的に墜落させた疑いが浮上し、問題は航空機を操縦する人間の健康問題や労務管理に移っている。乗員乗客150人もが犠牲になった墜落事故は航空機がどれほどハイテク化して安全性が増しても人間が動かしていることには変わりなく、ひとたび事故になれば多大な犠牲者が出ることを改めて教えている。
親会社のルフトハンザ航空は事故から7日後、副操縦士がうつ病だったことを会社側が把握していたと発表、原因を究明しているドイツの検察当局にも関連資料を提出し、捜査が続いている。
ルフトハンザによると、この会社の傘下にあるパイロット養成学校に所属していたルビッツ副操縦士が、体調不良で数カ月間の訓練中止を余儀なくされ、訓練を再開した2009年に、その原因が深刻なうつ病だったことを学校側に知らせていたという。
ルフトハンザは墜落直後には、副操縦士の精神疾患の病歴には言及せず、墜落当日も乗務ができる状態だったと説明していた。会社側の責任が問われるのは当然だが、どうしてそんな病気を持った人間が150人もの運命を自らの指先一本で変えられる仕事に就いていたのか。周囲は気付かなかったのか、乗務を止める措置は講じることができなかったのか、という疑問が沸く。
エアバスA320は、150人程度の定員であることと、燃費の良さなどから世界中のLCCに採用されている中・長距離向けの大型旅客機だ。私は事故のあった2日ほど前にトルコのイスタンブール空港からイタリアのナポリ空港まで、同型の旅客機に乗っていた。また、日本国内に就航しているLCCのジェットスターやバニラエアなどもこの航空機を運航させており、まさに「通勤飛行機」のような感覚で利用している。
自動操縦を前提に設計されているから人間のミスを呼び込むような運航プログラムにはなっていない。だが、それでも機体の不具合や、予測できない天候の悪化、他の航空機とのニアミス回避のためにプログラムを書き換えたり、手動操縦も可能になっている。
最終的には機械より人の判断を優先させる余地を残さなればたくさんの命を預かる乗り物とは言えないからだ。
操縦中のパイロットの健康が急変したり、不慮の出来事に備えて、2人乗務が義務付けられていたが今回のように機長がトイレに行った間に副操縦士がコクピットに閉じこもり、アルプス山中に墜落するようプログラムを書き換えることなど想定だにしていない。
しかも、コクピットの扉はアメリカの9・11同時多発テロ以来、外側からは開かないように扉や鍵が頑丈になっていて、今回のように斧で破ろうとしても無理だった。
再発防止にはパイロットの健康状態をもっときめ細かくチェックする以外にない。1日に何万機もの航空機が地球の上空を飛んでいるはずだが、必ずしも健康状態が万全ではないパイロットがいることを認識しておかなければならない。どうしたら健康状態、精神状態の異常を外部から見て判断できるようになるのか。
私はこの事故の原因を海外で聞いたとき、最初に頭に浮かんだのが、1982年2月9日の日航機の羽田沖墜落事故だ。操縦していた機長が着陸直前に、エンジンを逆噴射させたために失速して墜落、24人が犠牲になっている。
この時の機長も普段から精神疾患の兆候があったにも関わらず業務を続けていた。機長と当時の日本航空の責任も追及されたが、検察は心神喪失の状態にあったとして機長を不起訴処分、日本航空の労務管理も刑事責任を問うまでには至らなかった。
ルフトハンザのケースでは、副操縦士が心身の病気を隠していた疑いが指摘され、医師の守秘義務は、どこまで守られるのか、という問題も出ている。
ドイツでは、医師は患者の病気を雇用者に報告することは求められておらず、病欠を認める診断書に病状を記入する必要もないという。日本では、一般的に症状を問われるはずだが、人権や労働の自由との問題もあって、医師の守秘義務は必要だろう。
しかし、である。航空機に限っては、機長と副操縦士に対し、もっと厳格な健康チェック、病歴チェックが行われてもいいはずだ。
太田昭宏国土交通相は3月31日の閣議後の記者会見で、「国内の航空会社と連携し、コックピット(操縦室)へ常時2人を配置するなど、対策を早急に検討したい」と話し、操縦室内がパイロット1人だけにならないようにする方針を明らかにしている。
ヨーロッパ航空安全局(EASA)もEU圏内の航空会社に対し、操縦室内に乗員2人を常駐させるなどの安全対策を勧告している。まずは、この複数操縦態勢を徹底させることが必要だろう。だが、トイレなどで操縦がひとりになることは今後もあり得る。
気になるのは、常に営業利益を追求しなければならないLCCが、パイロットや客室乗務員に無理な勤務時間を強いていないか、だ。
国内のLCCや大手航空会社ではない航空会社で時々「機材のやり繰りがつかないために欠航します」というアナウンスを空港で聞くことがある。
翌日、それは「乗務員(パイロット)のやり繰りがつかなかった」という新聞報道を目にしたことがある。
事故につながる予兆は必ずあるものである。
ヨーロッパと中東、アジアを結ぶハブ空港のイスタンブール空港は、深夜零時から2時までの2時間だけでもほぼ5分おきに航空機が世界中に飛び立ち、私の乗った成田行は約40分間も滑走路で待たされた。
ストレスは、私たち乗客だけでなく、パイロットや乗務員にもあるはずである。空の安全とは何かを各国の航空会社はもう一度、問い直すべきである。
テレビでは盛んにLCCの経営の問題やA320の安全性について論じていたが、その後、操縦していたアンドレアス・ルビッツ副操縦士(27)が意図的に墜落させた疑いが浮上し、問題は航空機を操縦する人間の健康問題や労務管理に移っている。乗員乗客150人もが犠牲になった墜落事故は航空機がどれほどハイテク化して安全性が増しても人間が動かしていることには変わりなく、ひとたび事故になれば多大な犠牲者が出ることを改めて教えている。
親会社のルフトハンザ航空は事故から7日後、副操縦士がうつ病だったことを会社側が把握していたと発表、原因を究明しているドイツの検察当局にも関連資料を提出し、捜査が続いている。
ルフトハンザによると、この会社の傘下にあるパイロット養成学校に所属していたルビッツ副操縦士が、体調不良で数カ月間の訓練中止を余儀なくされ、訓練を再開した2009年に、その原因が深刻なうつ病だったことを学校側に知らせていたという。
ルフトハンザは墜落直後には、副操縦士の精神疾患の病歴には言及せず、墜落当日も乗務ができる状態だったと説明していた。会社側の責任が問われるのは当然だが、どうしてそんな病気を持った人間が150人もの運命を自らの指先一本で変えられる仕事に就いていたのか。周囲は気付かなかったのか、乗務を止める措置は講じることができなかったのか、という疑問が沸く。
エアバスA320は、150人程度の定員であることと、燃費の良さなどから世界中のLCCに採用されている中・長距離向けの大型旅客機だ。私は事故のあった2日ほど前にトルコのイスタンブール空港からイタリアのナポリ空港まで、同型の旅客機に乗っていた。また、日本国内に就航しているLCCのジェットスターやバニラエアなどもこの航空機を運航させており、まさに「通勤飛行機」のような感覚で利用している。
自動操縦を前提に設計されているから人間のミスを呼び込むような運航プログラムにはなっていない。だが、それでも機体の不具合や、予測できない天候の悪化、他の航空機とのニアミス回避のためにプログラムを書き換えたり、手動操縦も可能になっている。
最終的には機械より人の判断を優先させる余地を残さなればたくさんの命を預かる乗り物とは言えないからだ。
操縦中のパイロットの健康が急変したり、不慮の出来事に備えて、2人乗務が義務付けられていたが今回のように機長がトイレに行った間に副操縦士がコクピットに閉じこもり、アルプス山中に墜落するようプログラムを書き換えることなど想定だにしていない。
しかも、コクピットの扉はアメリカの9・11同時多発テロ以来、外側からは開かないように扉や鍵が頑丈になっていて、今回のように斧で破ろうとしても無理だった。
再発防止にはパイロットの健康状態をもっときめ細かくチェックする以外にない。1日に何万機もの航空機が地球の上空を飛んでいるはずだが、必ずしも健康状態が万全ではないパイロットがいることを認識しておかなければならない。どうしたら健康状態、精神状態の異常を外部から見て判断できるようになるのか。
私はこの事故の原因を海外で聞いたとき、最初に頭に浮かんだのが、1982年2月9日の日航機の羽田沖墜落事故だ。操縦していた機長が着陸直前に、エンジンを逆噴射させたために失速して墜落、24人が犠牲になっている。
この時の機長も普段から精神疾患の兆候があったにも関わらず業務を続けていた。機長と当時の日本航空の責任も追及されたが、検察は心神喪失の状態にあったとして機長を不起訴処分、日本航空の労務管理も刑事責任を問うまでには至らなかった。
ルフトハンザのケースでは、副操縦士が心身の病気を隠していた疑いが指摘され、医師の守秘義務は、どこまで守られるのか、という問題も出ている。
ドイツでは、医師は患者の病気を雇用者に報告することは求められておらず、病欠を認める診断書に病状を記入する必要もないという。日本では、一般的に症状を問われるはずだが、人権や労働の自由との問題もあって、医師の守秘義務は必要だろう。
しかし、である。航空機に限っては、機長と副操縦士に対し、もっと厳格な健康チェック、病歴チェックが行われてもいいはずだ。
太田昭宏国土交通相は3月31日の閣議後の記者会見で、「国内の航空会社と連携し、コックピット(操縦室)へ常時2人を配置するなど、対策を早急に検討したい」と話し、操縦室内がパイロット1人だけにならないようにする方針を明らかにしている。
ヨーロッパ航空安全局(EASA)もEU圏内の航空会社に対し、操縦室内に乗員2人を常駐させるなどの安全対策を勧告している。まずは、この複数操縦態勢を徹底させることが必要だろう。だが、トイレなどで操縦がひとりになることは今後もあり得る。
気になるのは、常に営業利益を追求しなければならないLCCが、パイロットや客室乗務員に無理な勤務時間を強いていないか、だ。
国内のLCCや大手航空会社ではない航空会社で時々「機材のやり繰りがつかないために欠航します」というアナウンスを空港で聞くことがある。
翌日、それは「乗務員(パイロット)のやり繰りがつかなかった」という新聞報道を目にしたことがある。
事故につながる予兆は必ずあるものである。
ヨーロッパと中東、アジアを結ぶハブ空港のイスタンブール空港は、深夜零時から2時までの2時間だけでもほぼ5分おきに航空機が世界中に飛び立ち、私の乗った成田行は約40分間も滑走路で待たされた。
ストレスは、私たち乗客だけでなく、パイロットや乗務員にもあるはずである。空の安全とは何かを各国の航空会社はもう一度、問い直すべきである。
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