2017年04月13日
トリプルアクセルにこだわった真央のプライド
浅田真央の引退はスケートファンだけでなく、普段スポーツに興味のない人も気にかかる国民的な関心事だった思う。昨日、12日昼の会見には430人もの報道陣と50台ものカメラが詰めかけた。
真央ちゃんと呼び掛けたいところだが、ここはあえて真央と書かせていただく。
残念ながら直接、彼女を取材した経験はない。でも、フィギュアの世界をちょっとだけのぞいたことがある。1992年のアルベールビルオリンピックで銀メダルを取った伊藤みどり世代は、品川スケートリンクでちょくちょく取材した。
トリプルアクセルを覚えたのはそのころだ。覚えたという表現は、どうかと思うが、もちろん自分で跳んだわけではなく、伊藤に教えてもらった。あー、これがトリプルアクセルなのかと。
フィギュアの解説を聞いていると、トリプルルッツ、トリプルサルコーなど技を次々に解説してくれる。じゃあ、トリプルアクセルは?
ほかのルッツ、サルコ―、トーループなどと違って、アクセルは新人のスポーツ記者にとって、最初に区別できる技だ。前へ跳ぶのである。前を向いて跳ぶのがアクセル、と教えてくれたのが伊藤みどりであり、その最大の武器であった3回転アクセルの難しさがわかった。
「アクセルは、車のアクセルと同じ。踏み込んで前へ行く。
だから前向きのジャンプがアクセルなんです。これが難しい。後ろに回るのは比較的簡単だけど、前を向いて踏み切って回転して降りるのは、結構怖いんです」
当時の、フィギュア広報担当者が教えてくれた。伊藤は、これで銀メダルを取った。
それ以来、フィギュア競技を見たり、後輩に教えたりするときには、まず、アクセルとほかのジャンプをすぐに見分ける目を持つことを勧めている。
真央は名古屋のフィギュアクラブで伊藤を見て育った。「伊藤みどりさんのトリプルアクセルを跳びたいと思って練習に励んだ」と真央はこれまでに繰り返している。
3アクセルは、高度な技だ。着地が難しい。(ちなみに選手たちは「降りる」という表現を使う)リスクが伴う。失敗すれば減点される。女子でこの技を試合で出せるのは、今でもほんの一握りのトップ選手しかいない。
アクセルで得点を重ねるか、ルッツからトーループなどの連続3回転で得点を挙げるか。採点方法の変更もあって、金と銀という結果が分かれたのが、バンクーバーオリンピックのヨナ・キム(ちなみに真央はヨナ・キムと呼ぶ。マオ・アサダと同じ国際的な呼び方と同じ)との対戦だった。真央がなぜ、金ではないのか、と思った人は多かっただろう。
銀メダルで涙を流した真央を見た時、「もうオリンピックでメダルは取れないだろう」と僕は直感した。伝えられていた、それまでの真央のハードな練習と苦悩が凝縮された演技だったにもかかわらず、ヨナ・キムに負けた。この採点方式では、彼女は勝てない。3アクセルにこだわって、完成させていたにもかかわらず勝てなかった。その悔しさを思うと、次のオリンピックでは無理だろうと思った。
それでも飛び続けた。そこに真央の競技者としての探求心とプライドがあったのだと思う。一度、休んでから、ピョンチャンへの挑戦ができたのも、3アクセルで魅了し続けた栄光と自信の裏付けがあったからだと思
う。3アクセルが彼女の武器でなかったなら、ここまで競技を続けることはなかったはずだ。
昨日の1時間以上にわたった会見のなかで、こんな質問をした記者がいた。
「3アクセルに声をかけるとすれば?」
「3アクセルに声をかける? う〜ん、なんでもっと簡単に跳ばせてくれないのという感じ」
聞いた記者の質問は突飛で、テレビ取材の悪影響だなあ、と苦笑した。3アクセルを擬人化し、しかも「どんな声を掛ける?」とお決まりの、フレーズを使っていたからだ。
それに答えた真央は偉かった。3アクセルを自分でも擬人化し、「なんでもっと簡単に跳ばせてくれないの」と返した。
何度も成功させ、真央の代名詞のように言われた3アクセルは、それほど難しかった。練習でも降りられないのに、それでも本番に賭ける真央を見て、繰り返しになるが、競技者の探求心とプライドを感じないわけにはいかなかった。
オリンピックでの金メダルは、予想通り取れなかった。でもソチでのフリー演技を全世界のスポーツファンが見られたことは幸運としか言いようがない。前へ進むことの大切さを若者にも、そして私のように年を重ねた者にもリンク上から見せてくれた。「前へ」だからアクセルにこだわったのかもしれない。
真央ちゃんと呼び掛けたいところだが、ここはあえて真央と書かせていただく。
残念ながら直接、彼女を取材した経験はない。でも、フィギュアの世界をちょっとだけのぞいたことがある。1992年のアルベールビルオリンピックで銀メダルを取った伊藤みどり世代は、品川スケートリンクでちょくちょく取材した。
トリプルアクセルを覚えたのはそのころだ。覚えたという表現は、どうかと思うが、もちろん自分で跳んだわけではなく、伊藤に教えてもらった。あー、これがトリプルアクセルなのかと。
フィギュアの解説を聞いていると、トリプルルッツ、トリプルサルコーなど技を次々に解説してくれる。じゃあ、トリプルアクセルは?
ほかのルッツ、サルコ―、トーループなどと違って、アクセルは新人のスポーツ記者にとって、最初に区別できる技だ。前へ跳ぶのである。前を向いて跳ぶのがアクセル、と教えてくれたのが伊藤みどりであり、その最大の武器であった3回転アクセルの難しさがわかった。
「アクセルは、車のアクセルと同じ。踏み込んで前へ行く。
だから前向きのジャンプがアクセルなんです。これが難しい。後ろに回るのは比較的簡単だけど、前を向いて踏み切って回転して降りるのは、結構怖いんです」
当時の、フィギュア広報担当者が教えてくれた。伊藤は、これで銀メダルを取った。
それ以来、フィギュア競技を見たり、後輩に教えたりするときには、まず、アクセルとほかのジャンプをすぐに見分ける目を持つことを勧めている。
真央は名古屋のフィギュアクラブで伊藤を見て育った。「伊藤みどりさんのトリプルアクセルを跳びたいと思って練習に励んだ」と真央はこれまでに繰り返している。
3アクセルは、高度な技だ。着地が難しい。(ちなみに選手たちは「降りる」という表現を使う)リスクが伴う。失敗すれば減点される。女子でこの技を試合で出せるのは、今でもほんの一握りのトップ選手しかいない。
アクセルで得点を重ねるか、ルッツからトーループなどの連続3回転で得点を挙げるか。採点方法の変更もあって、金と銀という結果が分かれたのが、バンクーバーオリンピックのヨナ・キム(ちなみに真央はヨナ・キムと呼ぶ。マオ・アサダと同じ国際的な呼び方と同じ)との対戦だった。真央がなぜ、金ではないのか、と思った人は多かっただろう。
銀メダルで涙を流した真央を見た時、「もうオリンピックでメダルは取れないだろう」と僕は直感した。伝えられていた、それまでの真央のハードな練習と苦悩が凝縮された演技だったにもかかわらず、ヨナ・キムに負けた。この採点方式では、彼女は勝てない。3アクセルにこだわって、完成させていたにもかかわらず勝てなかった。その悔しさを思うと、次のオリンピックでは無理だろうと思った。
それでも飛び続けた。そこに真央の競技者としての探求心とプライドがあったのだと思う。一度、休んでから、ピョンチャンへの挑戦ができたのも、3アクセルで魅了し続けた栄光と自信の裏付けがあったからだと思
う。3アクセルが彼女の武器でなかったなら、ここまで競技を続けることはなかったはずだ。
昨日の1時間以上にわたった会見のなかで、こんな質問をした記者がいた。
「3アクセルに声をかけるとすれば?」
「3アクセルに声をかける? う〜ん、なんでもっと簡単に跳ばせてくれないのという感じ」
聞いた記者の質問は突飛で、テレビ取材の悪影響だなあ、と苦笑した。3アクセルを擬人化し、しかも「どんな声を掛ける?」とお決まりの、フレーズを使っていたからだ。
それに答えた真央は偉かった。3アクセルを自分でも擬人化し、「なんでもっと簡単に跳ばせてくれないの」と返した。
何度も成功させ、真央の代名詞のように言われた3アクセルは、それほど難しかった。練習でも降りられないのに、それでも本番に賭ける真央を見て、繰り返しになるが、競技者の探求心とプライドを感じないわけにはいかなかった。
オリンピックでの金メダルは、予想通り取れなかった。でもソチでのフリー演技を全世界のスポーツファンが見られたことは幸運としか言いようがない。前へ進むことの大切さを若者にも、そして私のように年を重ねた者にもリンク上から見せてくれた。「前へ」だからアクセルにこだわったのかもしれない。
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