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2021年08月13日

change of clothes 〜 client

エレヴェータに乗ると、彼女が言う。

「じゃ、夕方事務所に来て、はい、これ」
彼女が、名刺を差し出す。

名刺には、事務所の住所と電話番号が印刷されている。
受け取りながら訊く。
「あの、何時に伺いますか」
「そうね、今日は6時には終わってると思うから、その前後にお願い」
「分かりました、では6時に伺います」

エレヴェータが止まり、扉が開く。
彼女に続いて踏み出すと、二人の背中で扉が閉まる。

歩きながら、思い出したように彼女が言う。
「あっそうそう、着替えも用意してきて」
「えっ、着替え?ですか」
「そうね、ひとまず一週間分」
「あの、どういう?…」

ワタシの疑問には取り合わず、彼女が続ける。
「昼間は、秘書と一緒だから、プライヴェイトの時間を一緒にいてほしいの、だから、ウチに寝泊りして」
「寝泊り?ですか」
「本当は、ボディガードなんか要らないって、言ったんだけど、最適な女性(ヒト)がいるって奨められて」
「最適?誰に奨められたんですか?」

それには答えず続ける彼女。
「でも頼んでよかったわ、相性ピッタリのあなたが来てくれて」
「それで誰に?…」
しつこく駄目元でくいさがってみるワタシ。

やはり無視して続ける彼女。
「あなたのこと、あまり気にかけられないし、あなたも、その方が仕事しやすいでしょ」
「それはそうですが、お邪魔じゃありませんか?」
「あなたに会う前ならそうね、そう考えてたわ、でもあなたなら、お互いリラックスして過せると思うわ」
「それならいいですが」
「じゃあ、後でね」

そういい残すと、彼女に近づいてくる男女の秘書と言葉を交わす。
そのまま、連れ立ってロビーの一角に向かう。
一人佇むワタシは、思わぬ依頼に頭を巡らせる。
一週間分って、いったい何を持っていこう。

あれこれ考えながらホテルを出るピンヒール。
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