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2021年08月11日

menu 〜 client

女性議員がメニュを開いて言う。
「私に任せてくれる?」
「…えっ、ええ」
突然の申し出に、一瞬躊躇するが、ここは、よく通う彼女の舌を信じよう。

彼女が手を上げると、ウェイターが静かに控える。
彼女がメニュを指しながら、いくつかのものを二つずつオーダーする。
ウェイターが、メニュを受け取り、畏まってさがる。

ワタシより結構年上のはずだが、そんな素振りは微塵もみせない。
年下のワタシに対等に接する。

しばらくして、スープカップが運ばれてくる。
辺りに漂うトマトベースの香り。

一匙掬う。
ゆっくり舌の上に広げる。
絶品というほどではないが、なかなかいける味わい。

時々ワタシの反応を確認するように、彼女がワタシを伺う。
「どう?このテのレストランにしては悪くないでしょ」
「ええ、おいしいですね」

スープを終えると、小さなサラダが運ばれてくる。
一口運んで、思わぬドレッシングの旨さに舌をまく。
ともすると、ただの添え物になってしまう一品。
こういうところの丁寧さが、その店の品格を現す。

今度は訊かれることもなく、素直に口に出る。
「なかなかおいしいですね」
彼女が、にっこり笑ってサラダを頬張る。

そこにパスタが運ばれてくる。
トマトソースのシンプルなパスタ。
彼女が言う。
「会期中はよくいただくの、腹もちもいいし、トマトのリコピンは美容にもいいから」
後半は、少し笑いながら話す彼女。

彼女の自然な笑顔と気安さに、いつのまにか自然と受け答えするワタシ。
「ワタシも、トマトは好きです、自分でピクルスにするくらい」

パスタをいただく合間に、彼女が訊いてくる。
「あなた、自炊するの?」
「ええ、たいていは自分で作っていただきます」
「今の若いヒトは皆コンビニ弁当で、自炊なんかしないのかと思ってたわ」
「珍しいのかもしれませんが、出来合いのものは滅多に買いません、何がどう使われているか分からないので」
「そう、でもあなたのような仕事をするヒトは、自然にそうなるのかも知れないわね」

言われて気づく今まで考えてもみなかったこと。
タグ:menu メニュ
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