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2021年08月12日

residue of espresso 〜 client

話をしながらも、二人食べ進める。

しばらくして、互いにパスタの皿が空く。
ウェイターが皿をさげる。

彼女が、見計らったように言う。
「初めて会う人とは、なるたけ食事を一緒にするようにしてるの」
「…?」
「食事の仕方をみれば、そのヒトのことは、ほぼ分かるから」

そうなのかしら?と思いながら、彼女の言葉を待つ。
「少なくとも、これまで会ってきたヒトの判断は、間違ってなかったわ」
「…それで、ワタシは?」
恐る恐る訊いてみる。

彼女が、満面の笑みを浮かべて言う。
「最高よ、今まで会った中で、一番気が合うはずよ」
「あっ、ありがとうございます」
思わず俯いてる。
面と向かって言われると、相手が同性でも嬉しい反面、照れくささも募る。

俯いていると、ウェイターが飲み物を運んでくる。
辺りに、いい香が漂う。
「あなたも、好きだといいけど」
彼女が言いながら、グラニュウ糖を一匙、エスプレッソに入れる。
ワタシも、いつものように軽く一匙入れる。

一口含む。
苦味が、口中から鼻腔に広がる。
思わず呟く。
「うん、おいしい」
瞬間、エスプレッソの飲み方を教えてくれた彼との思い出が蘇る。

知ってか知らずか、ワタシの仕草をみて、彼女が言う。
「よかったわ、気に入ってくれて、あなたも一匙なのね」
「ええ、甘党ではないですし、苦味のほうがおいしく感じられて」

彼女が大きく頷く。
「やっぱり、あなた、きっと私と最高の相性よ」

彼女が、エスプレッソの最後の一口を残して、カップを置く。
その様子を見て、ワタシと同じと思いながら、ワタシもカップを置く。

「あなたも、最後の一口残すのね」
「ええ、ワタシにはどうにも甘くて、それに残骸にしか見えなくて」
「残骸?エスプレッソの残骸か、面白いことをいうのね」
「可笑しいですか?」
「いえ、何となく分かる気がする、私も使わせてもらうわ、エスプレッソの残骸」

最後は笑いながら言って、彼女が席を立つ。
席を立って後を追う。

斜め後ろを歩くワタシ。
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