2009年02月16日
『卑劣なる罠! 闇に堕ちた無垢なる魂!!』 part3
それからは紫の言った通り、エリナは絶え間なく犯され、責め続けられた。
ある日は狼の耳と尻尾を生やした少年と少女に彼女は抱かれた。涙を流し、許してと懇願
するエリナを楽しそうに眺めながら淫怪人の二人は彼女を組み伏せ、狼娘は執拗に彼女の
胸を責め、狼の少年は何度も何度も彼女のなかに精液をそそぎこんだ。
またあるときは、まるで出来の悪いモンスター映画から出てきたようなグロテスクな植
物に全身を絡め取られ、陵辱された。
そしてあくる日は、まるで人間とロボットを混ぜ合わせたような姿をした女の子たち
(淫機人というらしい)が集団でエリナを襲い、様々な液を流しながらその肉体を絡め
あった。
しかし、それでもエリナはぎりぎりのところで壊れずにすんでいた。時折、あまりの快
楽と苦痛に心が折れそうになることはあったが、自らの内に流れる誇り高き退魔師の血が
その誘惑を食い止めていた。
だが、彼女がもう少し冷静であったならば、それらの責めは決して彼女を生かさず、だ
が殺しもせず、ゆっくりと身体を変えていくためのものであったということに気がついた
だろう。しかし、先の見えない快楽の地獄の中で、そこまで考えをめぐらす余裕はエリナ
には残されていなかった。
そんな彼女にある日、転機が訪れる。
―――――――――――――
「……ん」
自分が漏らした小さな呟きを耳が捕らえ、エリナの意識は、ここでのひとときの休息で
ある眠りから覚めていった。
もうすでにここに捕らえられてからどのくらい時間が過ぎ去ったのか、エリナには分か
らなかった。
いつものようにこの部屋には使い道の良く分からない機械と、ずらりと並ぶ改造カプセ
ル、そしてそのうちの一つの内部に拘束され、捕らえられた自分しかいない。全くかわり
ばえのしない光景に、既に彼女も慣れつつあった。
うつろな目で部屋の入り口辺りを見る。そろそろ、あの壁の辺りにあるドアが開いて恒
例のアレをするべく、今日のお相手がやってくるはずだ。
その予想通り、わずかな機械音と共にスライドしたドアが開き、誰かがこちらに向かっ
てくる足音がエリナの耳に聞こえてきた。
(……今日の相手が来たのね。出来れば、まだ淫怪人の方がいいけど。花とか触手のを相
手にするよりは、まだ人間の形に近い方が気が楽だわ……)
既に諦念が心に忍びよりつつある彼女はそうぼんやりと考えるだけで、うつむいたまま
相手の方を見ようともしない。
だが、そんな彼女に対し淫怪人の物とは違う、はっきりとした意志を感じさせる声が掛
けられた。
「……エリナ、大丈夫? もう心配要らないわよ」
「……え?」
一瞬、自分の耳が信じられず思わずエリナは疑問の声を上げる。うつむいていた顔をの
ろのろと正面に向けると、彼女の視界の中に白いドレスのような戦闘服を纏った一人の少
女の姿が映った。
「……イル?」
エリナの口から発せられたその名に、目の前の白い衣装の少女、音無イルはこくりと頷
く。輝く長い金髪を蒼いリボンでポニーテールにまとめた彼女は、周囲を油断無く見まわ
すと、エリナの捕らえられているカプセルのコンソールパネルを見つけ、拘束解除のボタ
ンを押した。
それにより、エリナの身体を固定していたベルトや金具ががちゃがちゃと音を立てなが
ら外れていく。不意に投げ出された少女の身体が床にぶつからないよう、素早く差し出さ
れたイルの腕が彼女を優しく抱きとめる。
「……随分とひどい目にあったみたいね」
疲れ果てたエリナの様子をつぶさに見て取ったイルは、顔を曇らせる。そんな彼女にエ
リナは弱弱しく首を振ると、口を開いた。
「自分では覚えてないんだけど、ちょっとどじっちゃったみたい。
それよりイル、どうしてこんなところに?」
エリナの問いかけに、イルはわざとらしく呆れたような表情を作る。
「どうしてって、それは随分な言葉じゃない? まったく、エリナったら私のこと、ずっ
と音信不通な仲間のことをほっとくような冷血な女の子だと思ってたのかしら」
「ち、違うってば。そういうことじゃなくて」
むくれるイルにエリナは慌てて首を振る。先ほどまでの生気の感じられない人形のよう
な姿とは違い、いつものエリナらしい元気溢れる反応を返す様子を見たイルは、くすりと
笑みを漏らす。
「あはは、分かってるってば。まだその元気が残ってるならば、安心みたいね。
……っと、そんなこと話している場合じゃないか。さっさとここを出ましょう」
そういってイルの差し出した手を掴み、立ち上がったエリナもその言葉に頷く。
だが、エリナが服を何一つ着ていないのを見ると、イルは困ったように呟いた。
「……とはいっても流石にそのままじゃまずいわよね……。あ、これでいいかな、ほら」
しゃべりながらも室内のあちこちに視線をめぐらせていたイルは、部屋の壁に掛けられて
いたシャツを取るとエリナに放ってよこす。
彼女はありがとうと礼を言うと、その大きなシャツに袖を通し、簡単に前のボタンを留
めた。正直もっとちゃんとした服が欲しい所だったが、ダーククロスの怪人たちに見つか
る前に脱出することの方が大事だ。ここはこの服で我慢するしかないだろう。
「今は見張りもいないみたい。いい、エリナ? とりあえず私が乗り込んできたワープ装
置のある場所まで走るわよ」
「ええ」
ドアの外の様子を探っていたイルの言葉に、エリナも短く返し、二人は部屋の外、通路
に躍り出る。イルの言うとおり、今のところ彼女たち以外の人影は無く、気配も感じられ
なかった。
「こっちよ!」
左右に長く延びる通路の一方をイルが指差し、駆け出す。裸足に床の冷たさを感じなが
ら、エリナもその背を追って走り出した。
まるで迷路のように複雑な構造の通路を、エリナの前を走る少女は迷い無く駆け抜ける。
「イル、まだ先なの?」
「ええ、もう少し、もう少しよ」
既に並の建物なら抜け出ていてもおかしくないはずの距離を走った気がするが、依然とし
て通路は彼女たちの前に長く続いている。これも異次元の技術によるものなのだろうか、
だとしたらダーククロスの怪人も大変だなあ、とどこか暢気な考えがぼんやりとエリナ
の脳裏に浮かんだ。
と、そんな考えは突如二人の目の前に現れた人影によって途切れる。
「!? 侵入者!?」
彼女たちの前方、壁のドアから姿を現した全身に植物の蔓を巻きつける少女が彼女たち
の姿に叫び声を上げる。その声を聞きつけ、ぞろぞろと彼女たちの前後のドアからも戦闘
員や怪人が姿を現した。
「くっ、後ちょっとなのに!」
悔しげに叫ぶと、イルは通路をふさぐ戦闘員達に向けて手に持った杖からエネルギーの
弾丸を放つ。まっすぐに飛んだそれは先頭のものに過たず命中し、爆炎が上がり轟音が辺
りに響き渡った。敵がひるんだのを見て取ると、イルはエリナに向けて叫ぶ。
「エリナ! ここは私が引き受けるわ! 武器も霊力もないあなたは先に脱出して!」
「で、でも!?」
「ワープルームはもうこの先すぐよ! 大丈夫、私ならすぐに追いつくから!」
彼女を置いて自分だけ逃げることにためらうエリナにそう言ってイルはもう一度、今度
は彼女たちの後ろから追ってくる怪人たちに向けて攻撃魔法を放つ。
「……ごめん、イル! 約束だよ、必ず無事でまた会うって!」
一瞬の逡巡の後、エリナはイルに向けて叫ぶと、戸惑う怪人たちの隙を突いて駆け出し
た。
その背後では、少女の放つ爆音が鳴り響き続けている。エリナはそのことを考えないよ
うに耳をふさぐと、まっすぐに通路を駆け抜けていった。
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