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ν賢狼ホロν
「嫌なことなんて、楽しいことでぶっ飛ばそう♪」がもっとうのホロです。
ザ・タイピング・オブ・ザ・デッド2
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2009年01月11日
『セイバーズの危機!? 消えた司令官・霊子!』  part5
青年は霊狐の姿を見ても動じた様子は全く無く、むしろ苦しんでいる彼女の助けになれないかと心から思っているようであった。
その表情に霊狐はいくらか理性を取り戻したが、いまだに続く体の疼きは、むしろ目の前に「男」が現れたことで激しさを増していた。次第に口から漏れる吐息が熱くなり、呼吸も荒くなっていく。
そんな彼女を不安げに見つめていた青年は、意を決したように霊狐に一歩近寄る。
青年の行動の意図を理解した霊狐は、目をぎゅっと瞑ると叫んだ。
「だ、ダメっ! こないで! 私、貴方を襲ってしまう!!」
そう、今の彼女は自分の体の暴走を抑えるので精一杯、ぎりぎりのところで人間の理性と淫怪人の本能がせめぎあっている状態なのである。もし、彼にこれ以上何かされたら、いや、それどころか彼がこうしてここにい続けるだけで、自分は淫らな雌と化して彼を襲い、犯してしまうだろう。
それだけは、セイバーズとして戦う自分にとって、決して許されないことであった。
だが、そんな彼女の思惑に構わず、彼女のすぐ後ろに立った青年は、一呼吸の後、背中からぎゅっと彼女を抱きしめた。
「……!!」
スーツ越しにでもはっきりと分かる彼の体温に、霊狐は戸惑う。こんなに近づかれたら、もう自分は性欲を抑えきれない……彼を押し倒して、犯し尽くし快楽を貪ってしまう。そう思ったのだが。
「……え? 体の疼きが、消えて、いる……?」
はっとして目を開く。間違いなかった。抱かれている彼女の体から、先ほどまでの狂おしいほどの疼きと火照りがなくなっている。むしろ、彼に抱かれている所から何かが流れ込むような、不思議な心地よさすら感じる。
「……大丈夫ですよ。もう、苦しまなくてもいいんです」
耳元で囁かれる穏やかな声が、彼女の精神に安らぎをもたらす。その声を聞きながら、霊狐は自分の体の前に回された腕にそっと手を添えると、再びゆっくりと目を閉じていった。



「もう、具合はよくなったようですね」
そういって安堵の表情を浮かべる青年は、自らを「黒須 卓」(くろす・たく)と名乗った。
彼の言うとおり、だいぶ落ち着いた霊狐は今はセイバーフォックスでも淫怪人でもなく、かつて人間であったころの姿に変身している。
だが、その顔は彼女としてはどことなく落ち着きが無く、その瞳には戸惑いの色が見えた。
「ええと、黒須、さん?」
「呼び捨てでいいですよ」
にっこりと微笑む青年にまた戸惑うと、霊狐は意を決して疑問をぶつけた。
「あの、さっきのこと……私が動物みたいな……とにかく人とは違う姿をしているのを見たでしょう?
それなのに……。どうして、助けてくれたのですか?」
そう。落ち着いてから彼女の頭の中ではその疑問がずっと繰り返されていた。いくらなんでも怪人としか言いようの無い姿を見て驚くどころか、救いの手を差し伸べてくれる人間がいるとは思えなかったのだ。
だが、そんな彼女に対し、青年はこともなげに答えた。
「どうしてって……困っている人を助けるのは、当然でしょう? それとも、助けたら何かいけませんでしたか?」
小首をかしげる卓に、慌てて霊狐は首を振る。
「いえ! ごめんなさい、そんなつもりではありません。……助けてくださって、ありがとうございました。でも、本当に分からないのです。私の姿はその……怖かったり、不気味だったでしょう?
もしかしたら襲われる、などと考えなかったのですか?」
じっと見つめる彼女の視線に、青年は顔を引き締める。だが先ほどと同じように、戸惑うことも無く答えた。
「……最初はちょっと驚きましたけど、あなたが悪い人では無いことはすぐに分かりましたよ。
だから、何かあなたの苦しみを和らげてあげたかったんです。
でも、思えば急に抱きつくなんて失礼でしたね。すみませんでした」
そういって、ぺこりと頭を下げる。
そんな純粋な青年の様子に、霊狐は心のどこかにぽっと暖かい火が灯るように感じた。
「……いいえ、こちらこそ助けていただきながら、失礼なことを言ってしまいました。
もう一度お礼を言わせてください。本当に、助かりました」
その言葉に、青年はぱあっと顔を輝かせる。そのまっすぐな様子に、霊狐も釣られて微笑んだ。
「そういってもらえると、嬉しいです。……また何かあったら何時でも、何でも言ってくださいね。
それじゃあ僕はこれで。……霊狐さん、また会ってもらえますか?」
「……ええ、もちろん」
青年が踵を返し、立ち去る間際に掛けた言葉に、霊狐は半ば反射的にそう答えていた。
彼女の中の冷静な部分が、彼をこれ以上巻き込んではならないと警鐘を鳴らしていたが、霊狐の中の「女」としての部分が青年とまた会うことを強く望んでいた。
霊狐の承諾を受け、満面の笑みを浮かべた青年は大きく手を振りながら、その場を後にした。その姿が小さくなり、霊狐の視界から消えるまで、彼女は彼の後姿をずっと見つめ続けていた。

――――――――――――――

それからも、セイバーフォックスはセイバーズとは別に一人、ダーククロスと戦い続けていた。
だが、彼女はもう孤独ではなかった。霊狐がセイバーフォックスとして戦い、その後に淫獣人としての性欲に苦しんだり、辛いことがあったときには不思議と必ず黒須と出会うことが出来た。
彼はいつも同じように彼女を癒し、慰め、そして再び戦う力を与えてくれた。
彼に触れるたび、抱きしめられるたび、火照りは鎮まり、奇妙な心地よさが霊狐の体を満たす。そしてその後には決まって、今まで以上の力が湧いてくるのだった。
青年は決して彼女の異形について詮索することは無かった。そして、彼は最初のあの時以外は、決して自分から霊狐と触れ合うことを求めようとはしなかった。それがかえって霊狐にとって安心感をもたらし、彼女はますます彼に惹かれていった。当初は彼を自分の戦いに巻き込むことに抵抗を感じていた霊狐であったが、彼の存在が様々な意味で自分を強くしていることを理解し、また自分自身、一人の女として青年に好意を持っていることを自覚すると、二人の距離は急速に近づいていった。
彼との会話以外の二人の触れ合いとしては、戦闘後のしばしば体の疼きが高まってしまった際に落ち着くためにそっと抱きしめてもらうことぐらいだったのが、次第にそれ以外の時でも彼女から彼に抱きつき、指を絡め、そしてキスをするまでの仲となった。
黒須もまた、そんな彼女に対し好意と愛情を示してくれた。何時だって彼は彼女が求めることを理解し、それを与えてくれた。しかし決して彼女を傷つけるようなことはしなかった。
最早完全に恋人同士となった彼らが、互いに求め合うことは自然なことであった。

「もう、行くんですか? ……もっとゆっくりしていても」
人間の姿に偽装した霊狐が、青年からその身を離す。正面から自分の顔を見つめる彼女に、心配そうな声が掛けられた。
「……ええ。何時までもこうしていられないし。……また、来るから」
頬をうっすらと染め、霊狐は名残惜しそうに呟くと、青年の部屋を後にした。



「……くく。大分「なじんで」きたようだな。……さて、仕上げが楽しみだ」
霊狐が去った後の部屋の中。一人佇む青年の顔に、どこか歪んだ笑みが浮かんだことに気付いたものは誰もいなかった。

――――――――――――――

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