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2016年07月10日
アガサ・クリスティから (56) (茶色の服を来た男*その35)
(茶色の服を来た男*その35)
あれから、もう2年がたった。
アンとジョン(かつてハリー・レイバンと名乗っていた「茶色の服を着た男」だった。)は、依然として島に住んでいる。
アンの【おとぎ話のような結婚式】は、当時ずいぶんと騒がれたのであった。
今、アンの前の粗削りな木製の机の上には、スーザンの手紙が乗っている。
親愛なる森の中の赤ちゃんたち・・・・・大あつあつの精神異常者たち。
あたくし、驚かなかったわ・・・・・全然。
あなたとパリや嫁入り衣装のことを話しながらも、こんなことが実現するのかしら?と思っていたわ・・・・・それよりも、いつかあなたは突然姿を消して、その昔ジプシーたちがやったように、火ばしを飛び越える結婚式をやるんではないかって気がしていたの。それにしてもふたりとも完全に精神異常者ね!あの莫大な遺産を断るなんて、めちゃですよ。
レース大佐が、あたくしとそのことで相談したいっていってきたんだけど、しばらくは、そのままにしておいたほうがいいわっていってやったの。
彼がハリーに代わって財産を管理していくでしょう。
彼はそれには最適よ。だって結局、蜜月なんて永久に続くものではないもの・・・・・山猫のようなあなたがそばにいて、いちいち口を出すということがないから、あたくし安心して思うことが書けるわ・・・・・荒れ野の恋は、一応かなりの間つづくかもしれないけど、ある日のこと突然にあなたが、パーク・レーンの家に住んで、パリ仕立てのドレスを着て、豪華な毛皮をつけて、いちばん大型の自動車と最新型の乳母車を持ち、そしてフランス人の女中と北欧人のナースをやとうということを思いつくってことも、あるでしょうからね!いいえ、きっとあるわ!
でも、親愛なる精神異常者たちよ、ハネムーンは、うんとお楽しみなさい。そしてなるべく長続きさせることだわ。そして、美食をしながら楽しく体重を増しつつあるこのあたくしのことも、ときおりは思い出して下さいね!
あなたがたの仲良しの
スーザン・ブレイア
追伸:結婚のお祝いとしてフライパンを一揃えと、そしてあたくしを思い出してくださるようにフォワ・グラのパイを大きな壺に入れてお送りします。
もう一通の手紙がある。
これは、前のよりもかなり遅れて来たもので、それと一緒に大きな小包みが着いたのであった。この手紙はボリビア国のどこかから出したものらしかった。
実は、私達にはなじみある(しかしながら”彼”ということで本名明記は避けて来た)例の国際的犯罪組織の謎のボス”大佐”である。彼は捕まえられたのであるが、保留先でまんまと逃げ伸びていたのだった。
親愛なるアン・ベディングフェルドと、その手紙の冒頭にはあった・・・・・内容を要約すると、以下である。
どうしてもアンに手紙を書かずにはいられなくなった。とあった。
わしは、あんたを遺著管理人に指定したいと思う。それで、わしの日記を送ります。レースと彼の一味には何の役にも立つまいが、あんたが読むと面白いと思われるに違いない。好きなようにお使いになってけっこうです。
デイリー・バジェット紙に【私の会った犯罪者たち】という読み物を掲載することをおすすめする。ただし、条件はただひとつ、このわしを中心人物とすることです。
手紙にはアンに悪意は抱いていなかったことや、万一の場合にと備えていた資金を無事、手にして逃げおおせたこと、ちょっとした手づるもあること。
妙な友人アーサー・ミンクスに会ったら、決して忘れておらん。と伝えて欲しいこと。奴はぎっくとなることと思う。と綴られていた。
だいたいにおいて、わしはクリスチャン的寛容の精神を施してきたと思っています。ともあった。
・・・・・あのパジェットにさえも・・・・・風の便りで6番目の子供をもうけたと聞き、銀製のマッグカップ(”あほう”という意味あり)と名付け親になってあげても良いよ。という葉書を送ったらしい。
あのパジェットのやつが真面目な顔で、マッグカップ葉書を持って、ロンドン警視庁に行くさまが見えるようだ。とも記してあった。
最後には、あんたは、いつかきっと、わしと結婚しなかったことを後悔するに違いない。と締めくくられていた。
ハリー(本名ジョン)はまさに烈火のごとく怒った。
彼に言わせると、アンを殺そうとした人物であり、親友の死の原因ともなった男であった。
どうしようもない悪党であると。
アン自身は、悪党であることは知ってはいたが、心底、憎むことは出来なかった。
しかし、ナディーナ・・・・・色仕掛けで他の目的を達せようとし、人を裏切ることが平気だった彼女を許すことは出来なかった。
この間、缶詰の包みに使われていた古いデイリー・バジェットに【茶色の服を着た男】の見出しが目についた。
とてもとても昔のことのように思われる。
アン自身も事件が終わったあと、このデイリー・バジェット新聞とも縁が切れていた。
そして風変わりな結婚から2年。
アンの前には、坊やが日向に寝そべって、両足をバタバタさせている。
この子ももうひとりの【茶色の服を着た男】といってよいかもしれない。
ほとんど裸のままだが、これがアフリカの盛装なのだ・・・・・まるで、うれたイチゴのような色。
そして、この子はいつでも土を掘り返している。
考古学者だった父に似たのだと思う。
いずれは、考古学者だったアンの父のように 更新世の土に夢中になることだろう。
この子が生まれた時、スーザンがこんな電報を打ってきた。
「精神異常者の島に新客到来をお祝いします。こんどのは長頭型なの、それとも短頭型?」
アンは、経済的でずばり一語の電報をお返しした。
「平頭型!」
(「茶色の服を着た男」終。)
(次号からはまた別のアガサ・クリスティの作品です。宜しくお願い致します。)
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2016年07月03日
アガサ・クリスティから (55) (茶色の服を来た男*その34)
(茶色の服を来た男*その34)
「あなたは、ずっとハリー・レイバンで通す気だったの?」
彼はそれでも良いと思っていた。と言った。
彼の父である鉱山王が残していった莫大な遺産もレイス大佐が生存する遠縁者として遺産相続し、ありがたく使ってくれるらしい。とも言っていた。そして彼の方が、その財産も有益に使うことが出来るだろうとも。
長い旅路・・・アンが偶然から飛び込んでしまったこの冒険も終わりが近づいていた。
アンは、ハリー・レイバンもとい、ジョン・ハロルド・イーアズリーと結婚することになった。
アンが、追い掛けて来た「茶色の服を来た男」とその背景にある事件も紐解くうちに、「茶色の服を来た男」に強く惹かれ合い、結婚にまで至ることになったのである。
人間の縁や運命の不思議さでもある。
実際は感傷に浸る間もなく、アンは結婚の準備に大変忙しくしていた。
新居は、ジョンの父である鉱山王サー・ローレンス・イーアズリーの残した別荘をリフォームして住むことになった。
そして、アンはスーザンの邸宅から、お嫁に行くことになったのだった。
何もかもが夢のようでもあり、また、何処か現実ばなれしたようにも、アンは感じていた。
そんなある夜、ノックがして出てみると、そこにはアンの夫となるはずのジョン・ハロルド・イーアズリーが立っていた。
「僕と一緒に逃げて欲しいんだ、アン。もう、こんな馬鹿げたことに我慢ならないし、もう待てないんだ。」
「私のパリ仕立てのウェディングドレスはどうなるの?」
ジョンはそんなものには耐えられないと言った。
本当は、アンだって、そんなことはどうでも良かったのだった。
アフリカの嫁いでいく花嫁のように頭にフライパンなどの道具は載せてはいなかったが、愛する夫の後をアンは歩いて行った・・・黙々とひたすら夜道を歩いた。
2人は結婚式前に駆け落ちしてしまったのである・・・。
(次号に続く)
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「あなたは、ずっとハリー・レイバンで通す気だったの?」
彼はそれでも良いと思っていた。と言った。
彼の父である鉱山王が残していった莫大な遺産もレイス大佐が生存する遠縁者として遺産相続し、ありがたく使ってくれるらしい。とも言っていた。そして彼の方が、その財産も有益に使うことが出来るだろうとも。
長い旅路・・・アンが偶然から飛び込んでしまったこの冒険も終わりが近づいていた。
アンは、ハリー・レイバンもとい、ジョン・ハロルド・イーアズリーと結婚することになった。
アンが、追い掛けて来た「茶色の服を来た男」とその背景にある事件も紐解くうちに、「茶色の服を来た男」に強く惹かれ合い、結婚にまで至ることになったのである。
人間の縁や運命の不思議さでもある。
実際は感傷に浸る間もなく、アンは結婚の準備に大変忙しくしていた。
新居は、ジョンの父である鉱山王サー・ローレンス・イーアズリーの残した別荘をリフォームして住むことになった。
そして、アンはスーザンの邸宅から、お嫁に行くことになったのだった。
何もかもが夢のようでもあり、また、何処か現実ばなれしたようにも、アンは感じていた。
そんなある夜、ノックがして出てみると、そこにはアンの夫となるはずのジョン・ハロルド・イーアズリーが立っていた。
「僕と一緒に逃げて欲しいんだ、アン。もう、こんな馬鹿げたことに我慢ならないし、もう待てないんだ。」
「私のパリ仕立てのウェディングドレスはどうなるの?」
ジョンはそんなものには耐えられないと言った。
本当は、アンだって、そんなことはどうでも良かったのだった。
アフリカの嫁いでいく花嫁のように頭にフライパンなどの道具は載せてはいなかったが、愛する夫の後をアンは歩いて行った・・・黙々とひたすら夜道を歩いた。
2人は結婚式前に駆け落ちしてしまったのである・・・。
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