〔焦点〕為替市場で投機筋がそろり復帰、120─130円のドルコールオプション買い 5月22日 11時47分
基太村真司記者
https://fx.gaitame.com/members/info/ReutersNews_D3.asp?PNAC=urn:newsml:reuters.com:20090522:nTK0287030
[東京 22日 ロイター] 昨年9月のリーマンショックから8カ月を経て、為替市場にヘッジファンドなど投機色の強い参加者が戻り始めた。投機ファンド特有の積極的な売買はまだ限られているものの、一部海外ファンドはドル JPY= が120─130円付近に上昇するとの大胆シナリオでドルコールオプション(ドルを買う権利)買いに動き出すなど、その存在感を再び示しつつある。
<ポジション構築/解消の繰り返し>
今年3月以降、ドルは95―100円付近を中心とするレンジ相場が続いている。各国政府・中銀などの相次ぐ景気刺激策や量的緩和策が株価を下支えたことで、ドルは1月につけた13年半ぶり円高水準の87.10円から「過度の悲観論が修正」(都銀のチーフディーラー)される形で、4月にいったん100円台を突破したものの、その後は先行きに対する不透明感から方向感を再び失い、売買が交錯している。 連日のように続くレンジ相場の裏側では、多くの参加者が多様なシナリオを描き、売買を繰り広げている。投資家のリスク回避姿勢の緩和で円売りや新興国通貨買い、米財政リスク懸念で長期視点のドル売り、景気の崩れと金融政策の限界からくるユーロ売り――など。結局は現段階で「どれも決め手に欠け、トレンドになり切れない」(別の都銀チーフ)。
<オプションの割安感と経常収支赤字化シナリオ>
数あるシナリオの中で一風変わった動きとして関心を集めているのが、オプション市場で長期的なドル/円の上昇を見越したポジションの構築だ。 スポット相場のレンジ推移を受けて、ドル/円相場の予想変動率を示すインプライド・ボラティリティは急低下。代表的な1カ月物 JPY1MO= は前週の取引で一時12%と、リーマンショック発生前の昨年9月以来の水準をつけた。昨年10月には一時44%と、向こう1カ月で100円のドルが60円台まで下落する可能性すら織り込んだボラティリティは、レンジ相場の長期化で金融危機が表面化した後の最低水準にある。
ボラティリティの急速な低下は、激しい値動きの一巡感が反映されただけではない。株価の反転などで、多くの投資家やファンド勢の保有ポジションに余裕が出始め、オプションを使ってまで為替ヘッジをしなくて済むようになり、オプション市場が急速に「供給過多」に傾いてきたことも一因。金融危機の最中はポジション解消に躍起になっていた投機筋も、投資環境の好転を受けて、数年先の米景気回復をにらんだ賭けに動き始めた形だ。
市場関係者によると、4月ごろからドル/円のオプション市場では、一部のヘッジファンドが期間5年や7年といった長期のドルコールオプションでストライクを120円や130円付近に設定したものを買う動きが続いている。 95円付近で推移しているドル/円が20円以上も上昇する可能性は低いため、120円のドルコールは現在なら割安。長期オプションは満期まで保有しなくても、仮に2年後にドルが110円付近へ上昇していれば、オプション価格も上がるため、その時点で売り抜けて利益を確定することもできる。米連邦準備理事会(FRB)の出口戦略や日本の経常収支の恒常的な赤字化を見込み、ドル/円が長期的な上昇基調に転じるとのシナリオがドルコールオプション購入の手掛かりで、「宝くじを買うよりは確率が高い戦略」(邦銀のオプショントレーダー)だ。
輸出立国として長期間、黒字の続いた「日本の貿易収支の赤字化という衝撃」(外銀トレーダー)は、特に海外勢の間で人気の話題だ。ある外銀関係者によると、海外のオプション窓口でも、ドル/円オプションはドル高/円安方向の人気が増している。一部ファンド勢が「数年タームでドル/円が上昇する方向のドルコールや、円プットオプション(円を売る権利)に興味を持っている」という。
<大勢は「フロー・ドリブン」スタンス>
現状では考えづらいが、可能性の高まりそうなシナリオに早めに賭けて大きな利を狙う――。こうした投機筋特有の動きは、まだ市場のごく一部にしか過ぎない。スポット市場では、昨年9月以降続いた「とにかく解消しなければならないポジションをプライスも見ないで投げ売る動き」(別の外銀チーフ)が一巡、少しずつ投機色の強いファンド勢の動きも観測され始めている。 しかしその多くは、まとまった売りや買いが入って値が振れたときに追随、さや取りを狙う「フロー・ドリブン」と呼ばれるスタイルが大勢で、自ら描いたシナリオに長期的に賭けるような動きは少ない。「リスクを積極的に大きく取れるほど、ファンド勢の体力も、一度は荒れ切った金融市場の機能も回復していない」(先出の外銀)ためだ。