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ν賢狼ホロν
「嫌なことなんて、楽しいことでぶっ飛ばそう♪」がもっとうのホロです。
ザ・タイピング・オブ・ザ・デッド2
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2009年02月03日
『学園侵略計画! 個別面談にご用心!?』 part3
何時とも知れぬ時、何処とも知れぬ場所に禍々しき威容と共にそびえる魔城。
脈動する外壁にはまるで血管のような細い筋が幾条も走り、粘液に濡れた触手が意志
を持っているかのようにのた打ち回る。それはまさに混沌という言葉を具現化したも
のであった。正常な精神を持った人間であれば嫌悪を催すどころか発狂してもおかし
くないその異形を持つ城こそ、数多の世界を侵略してきたダーククロスの本拠地・
ダークキャッスルである。

その複雑広大な城内の一角。淫獣軍の怪人や戦闘員が歩き回るエリアに黒い猫娘の姿
をした淫獣人、唯子の姿があった。
彼女はまるで動物の体内を思わせる廊下を気にした風もなく歩みを進め、前方の開い
たドアから出てきた戦闘員の一人を呼び止める。全身をタイツで覆い、その頭から獣
の耳を覗かせる少女は自分より上官にあたる淫怪人に気付き、素早くダーククロス式
の敬礼を取った。









「イーッ・ハイル・ダーククロス! 唯子様、何か御用でしょうか?」








「ええ、少し軍団長に報告したいことが。秋子様はいらっしゃる?」
「はい、つい先ほどご帰還なされました。今は自室に居られます」
「そう、ありがとう」
敬礼を取る戦闘員を後に、唯子は秋子の自室に向かった。ドアの前に立ち、声を掛け
ようとして室内から響いてくる声を鋭敏な耳が捉える。






「……めぇ……、や……らない……ぇ……!」
「……そん……ここは、もう……よ……?」
「やだ……らめ……らめ……、ぁ……やぁ……」
「…………!」
「…………!!」






どうやら取り込み中のようだ。どうしたものかと彼女はノックしようとしたままの姿
勢で固まる。そんな彼女に構わず室内の声と物音は激しさを増していった。
「あ、あ、あああああぁぁぁぁん!!」
突如響いた叫び声にびくりと体を跳ねさせた唯子は、そっと室内の様子に聞き耳を立
てる。やがてことが終わったと判断した彼女は、おそるおそる声を掛けた。
「……あの、秋子様。少しお時間よろしいでしょうか?」
「…………」
気のせいか、室内の人物が驚いて飛び上がったような気配がした。それからばたん、
ばたんと何かの音が聞こえ、まるで「何かを隠すのを諦めたような」投げやりな声が
響く。
「……開いてるわよ。唯子ね? 入っていいわ」
「……失礼します」
何となく、明日にすればよかったかなという思いが浮かぶのを首を振って消し去ると
彼女は軍団長・秋子の部屋に足を踏み入れた。







            「ま、待たせたかしら?」








「いいえ、来たばかりですから」
部屋に入ってきた唯子に、ベッドの端に腰掛けた淫獣軍団長・秋子が声を掛ける。
室内にはむせかえるほどの情事の後の淫臭が立ち込めており、ほとんど裸身の彼女の
肌に珠の汗が浮き、その頬も桜色になっていることから先ほど何が行われていたかは
明白だったが、彼女はあえてそれに触れることはしなかった。
異様に膨らんだベッドの上の布団が時折ごそごそと震え、そこから純白の獣毛に包ま
れる尖った「狐の耳」と銀髪、さらにふさふさとした尻尾が覗いていても、唯子は強
引に無視した。
久しぶりに会え、しかも仲間となってくれた親友との甘いひとときなのだ。隙さえあ
れば毎日のように任務中でも構わずにゃんにゃんして作戦を失敗することは日常茶飯
事、その結果副長はおろか、ついにダークサタン様にまで説教とおしおきを喰らうハ
メになったどこぞの某淫竜軍団長と同じことをやっていたとして誰が彼女を責められ
ようか。
「そ、そう? それならいいわ。ところで話があるってことだったわよね?」
ちらちらと視線がベッドにそれる秋子に構わず、唯子は口を開く。
「ええ。実は私が潜入している学園でのことですが、ある生徒に対し淫気が効果を
発揮しなかったのです」
「淫気が効かない……? それは確かなの?」
流石に軽く目を見開き、驚いた表情を作った軍団長に唯子は頷いた。
「確かかと。そのとき私は擬態こそ解いていませんでしたが、戦闘時とほぼ同じ強さ
の淫気を発散していました。ですが、対象は最初こそ行動を鈍らせたものの、私が肌
に触れる寸前に理性を取り戻し、逃げ去ったのです」
「……対淫気装備を身につけていた可能性は?」
「完全に無いとは言い切れませんが、極普通の生徒の格好だった所から、おそらくそ
れは限りなく低いかと。私個人の印象ですが、対象自身が何らかの特殊能力を持って
いたと考えた方が正しい気がします」
「……正体はばれてないのね?」
「はい、その点に関しては心配ありません」
「ふむ……」
真剣な表情で腕を組み、考え込む秋子。その姿は流石軍団長といった風であった。
本能任せに戦い、犯す淫獣軍が「軍団」として統制を保っているのはひとえに彼女の
智謀あってのことである。そのことは軍団の中で秋子と同じく知略に長けた唯子が誰
よりもよく知っていた。
「……だめね。私たちだけじゃちょっとそのことについては答えが出せそうに無いわ」
しばらく考え込んでいた秋子だったが、やがて溜息と共にそう言った。そして唯子の
目をじっと見つめると、諦めたように言葉を続ける。
「貴女が見て見ぬふりをしてくれてたから、それに甘えようかと思ったけど……。
やっぱりこの件については彼女の協力が必要そうね。
……霊狐、出てきていいわよ」
その言葉に布団に隠れて……いやくるまっていた、銀髪白毛の狐の姿をした女性、
霊狐が姿を現す。
彼女は呆れたように秋子を見ると、大きな溜息を一つついた。
「まったく。途中で自分からばらすくらいなら最初から素直に白状すればいいのよ。
唯子さんも困ってたじゃないの」

「だ、だって……どこぞのセイ(ピー)と同じ色狂いと思われたら、私のイメージ
が落ちちゃうじゃない」
「もう遅い気がするけどね……。作戦の失敗という点で見たら貴女もそんなにかわ
りないわよ? 以前脱走した私のことを捕まえて、完全なダーククロスの一員とし
てくださったのはダークサタン様ですし」
「ううっ……」
「それで、淫気が効かない子っていうのは?」
肩を落とす秋子を尻目に、唯子のほうに向き直った霊狐はさっそく例の生徒について
唯子に尋ねる。彼女も自分が手に入れたデータを取り出すと、霊狐に渡した。
「この生徒です。『3−A 12番 紫乃森 菫』 念のため健康診断などの生体デ
ータも調べましたが、身体には特に目だった異常はありませんでした」
その数値や報告の詳細に眼を通していた霊狐は、やがて顔を上げると顎に手をやりな
がら語りだした。
「確かにね。……実際に私がその様子を目にしたわけじゃないから、断言は出来ない
けど……。その子はもしかしたらセイバーズの適正があったのかもしれないわ。
以前、セイバーズのメンバーを選ぶ際に、とある学園に適正値が高い子達を集めたっ
て聞いたことがあるし」
「セイバーズの!?」
驚く二人に無言で頷き、霊狐は先を続ける。
「でも多分、当人は自分にセイバーズの適正があるとか、淫気に対する抵抗が高いっ
ていう意識は無いでしょうね。そういう意味では今のうちに手を打ったほうがいいわ。
もしそれを自覚すればもっと淫気に対して強くなってしまうし、セイバーズの誰かが
彼女の適正に気付き、仲間に引き入れたら、私たちにとって強力な敵になる恐れもあ
る」
これ以上厄介な敵が増えるかもしれないということに、流石の軍団長も眉根をひそめ
た。唯子も、同じく焦りを浮かべた表情で霊狐を見つめる。
「では、どうしましょうか?」
「淫気が効かないとなると……こっそり誘拐するのも難しいわね。それに唯子さんは
既に警戒されているでしょうし……」
「あら、そんなの簡単よ?」
唯子の問いかけにまた考え込んだ霊狐に、意味ありげな笑顔を浮かべた秋子が話しか
ける。自信満々のその声に振り向いた二人の視線を受け止め、彼女はごくあっさりと
言った。
「ふふ……外からの守りが堅固な城でも中から崩せばもろいものよ。それと見ず知ら
ずの相手を警戒するなら、警戒できないような人物に協力してもらえばいいのよ」
ぱちりとウインクをした秋子は、彼女たちを近寄らせるとそっと作戦を耳打ちした。

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