2019年10月30日
イチと太郎
これは、私が小学生時代の話です。
私のうちでは二匹の子犬を飼っていたんです。
名前は
「イチ」
と
「太郎」
どちらもオスです。
二匹とも、とても仲がよく、いつも庭の芝生の上で遊んでいました。
その二匹とは私もたくさん遊び、(遊んでもらっていたのかも?)たまに自分のベットに連れて行き、一緒に寝たりもしました。
私と一緒に子犬たちも成長し、もう子犬とは呼べない位、大きくなりました。
それでも、二匹は仲が良く、いつも庭でじゃれあっていました。
私も一緒に遊びます。
本当に楽しい日々でした。
でも、ある秋の夕方私が学校から帰ると、庭で太郎がイチの顔を一生懸命なめていたんです。
そして、寂しい時特有の
「クゥ〜〜ン、クゥ〜〜ン・・・」
という鳴き声を発していました。
イチの様子がおかしい。
私は急いで、イチに駆け寄りました。
頭をなでても、抱きかかえようとしても、全く反応がありませんでした。
死んでいました。
「なんで!?昨日まであんなに元気だったのに!!」
ただ泣くことしかできませんでした。
そんな私の隣で、太郎もクゥ〜ンク〜ンと泣いていました。
太郎が、たまにイチの顔をなめたりしますが、イチが動くことはありません・・・・・そうこうしているうちに、母が仕事から帰ってきました。
事情を説明すると、母も大変泣きました。
すると母が、
「イチに・・お墓作ってあげようね・・・」
私は無言で頷きまいた。
次の日、父が庭に大きな穴を掘ってくれて、そこにイチを埋めました。
それから太郎は、誰とも遊ばなくなりました。
私が近づいても、座ったまま、ただ、イチのお墓を見つめていました。
時折、イチの墓の前に移動しては、いつも遊んでいたボールをくわえ、ただ
「クゥ〜ン、クゥ〜ン」
と鳴いていました。
その度に、私や家族はとても悲しくなりました。
太郎は、もっと悲しかったと思います・・・冬になり、雪がちらつくようになりました。
もうすぐクリスマス。
父親に何か欲しいものは無いかと聞かれ、私は
「イチと太郎と三人で、もう一回、遊びたい」
無理な話です。
父が困った顔をしています。
薄々、無理なことはわかっていました、小学生の私でも・・。
でも、それが出来たらどんなにいいか。
これ以上父を困らせてはいけないと思い、無理に笑顔を作り、
「冗談だよ〜!私、〇〇の洋服が欲しい」
と、学校ではやっていた人形の洋服をお願いしました。
太郎は相変わらず、外で座っている。
思えば、もう太郎の元気な鳴き声をどれほど聞いていないだろう・・・。
太郎にもう一度イチを会わせてやりたい。
私だけじゃなく、家族全員がそう思っていたと思います。
冬が過ぎ、春が来て、だんだん暖かくなり、庭に植えてあった花もみんな咲きました。
そのうち、春も終わりに近づき、夏が目の前まで来ました。
「もう夏か。」
父がこぼした一言。
イチが死んでもう半年、もう、家族はイチの死の悲しみなど忘れてしまったのでしょうか。
太朗は相変わらず。
私も、そのことには触れない様に生活をしていました。
そんなある夜突然、太郎が激しく鳴き始めました。
久しぶりに聞いた太郎の元気な鳴き声。
その声に、家族全員が庭に出ました。
すると太郎は、上目使いで、何かを追いかけているかのように、ボールをくわえ、庭を駆け回っていました。
時折、くわえているボールを上にめがけて投げてみたり、ジャンプしたり。
そのようすを、私たち家族はじっと見つめていました。
「イチが来てくれたのかもね・・・」
母が私にそう言いました。
でも、太朗は飛んでいた蛍を追いかけていただけなのを私は気付いていました。
おそらく両親も、これには気付いていたでしょう。
でも、その蛍の光はとても暖かく、優しいものでした。
まるで、太郎とイチが遊んでいるかのように。
その日を境に太朗はまた、元気を取り戻しました。
私とも、たくさん遊ぶようになり、私はイチの分まで太郎とたくさん思い出を作りました。
私が高校生のとき、太郎は死んでしまいました。
イチのお墓の隣に太郎のお墓を作ってあげました。
悲しかったですが、これでまたイチと一緒に太郎が遊べるなら、と思い涙はこらえました。
太朗は、イチとまた元気に遊んでいるでしょうか?二匹が、天国で会うことが出来たのなら、とてもうれしいです。
あの蛍は、イチだったような気がします。
イチのように、とても、暖かかった・・・。
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