支え合い20年「自分らしく生きる」
昨年7月に起きた相模原市の障害者施設殺傷事件で、植松聖被告(27)は「障害者は不幸をつくる」などと存在を否定する言動を繰り返したとされる。愛知県で暮らす脳性まひの夫婦は、支え合って歩んできた約20年の結婚生活を振り返り「不幸だなどと決めつけられたくない」と話す。
脳性まひで足に不自由がある寺井百合恵さん(48)は10代の頃から車いすで生活している。より重い障害がある康弘さん(49)とは27歳の時に出会った。
康弘さんは「何もできないと決めつけられるのに耐えられなかった」と実家を飛び出した。真夏で体調が悪くふらふらした時、百合恵さんが声を掛けた。「障害者は世間に迷惑を掛ける」と考える両親の元で育ち、周囲との接触も少なかった康弘さんは、1人暮らしを始めてから困ったことがあるたびに、百合恵さんに電話した。
交際を始めたものの結婚となると、年金収入で生活する2人を周囲は不安視した。康弘さんの両親は健常者との結婚を望み「世間も知らないくせにわがままだ」と猛反対した。2人は実績をつくって納得させようとアパートで同居を始めた。
「こんな人たちに生活ができるの」「ままごとみたいなもの」。中傷を気にする康弘さんに、百合恵さんは「同居をやめるなら2人の関係も解消だよ」と迫った。やはり無理だと思われるのは嫌だった。家事や身の回りの支度に労力を費やしたが「ありがとう」「お疲れさま」といった会話が不自由さを埋めたという。
結婚してからの悩みは子どもを持つかどうか。「欲しい気持ちはあった。でも私たちのせいで、本来子どもらしく過ごせるはずの時間を奪ってしまうかもしれない」と百合恵さん。夫婦で話し合い、産まない決断をした。
当初、結婚に懐疑的だった百合恵さんの母、間瀬昌子さん(74)は「諦めだらけの人生だったと思う」と夫婦を思いやる。しかし、百合恵さんは「結婚に踏み切っていなかったら私たちはもっと世間知らずで、挫折を引きずったまま生きていた」と話す。だから、植松被告の言動を許せない。「決めつけだけはされたくない。誰にだって自分らしく生きる権利がある」
結婚に反対していた康弘さんの父親は3年前に亡くなる直前、百合恵さんに「息子と結婚してくれてありがとう」と耳打ちした。
夫婦の障害は20年前より進み、今後どちらかが寝たきりになるかもしれない。それでも百合恵さんは「心の準備をしておけば大丈夫。誰もが寝たきりになって最期を迎える。不幸な人生だったかどうか。答えはその時に出るはず」と語った。
毎日新聞 2017年7月30日
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