2017年05月13日
論拠まとめ・憲法択一 内閣の法律案提出権
憲法 択一 内閣の法律案提出権 論拠のまとめ
内閣による法律案提出権の論点について,肯定説,否定説のそれぞれの論拠をまとめてみました。
先の択一問題の肢で触れられていない論拠も記載しています。
内閣の法律案提出権における「肯定説」の論拠のまとめ
1 憲法第72条に規定されている「議案」の中に法律案も含まれるから,内閣には法律案の提出権が認められる。
→ 憲法第七十二条 内閣総理大臣は、内閣を代表して議案を国会に提出し、一般国務及び外交関係について国会に報告し、並びに行政各部を指揮監督する。
2 内閣による法律案の提出は,立法の契機を与えるところの立法の準備行為であって,立法そのものではない。
3 内閣による法律案の提出は,国会の議決権を拘束するものではなく立法作用の一部分とみることができない。
4 国会は法律案を審議し,これを自由に修正し,否決,廃案にすることもできるのであるから,国会をもって唯一の立法機関(憲法第41条)とすることに反しない。
5 内閣の法律案提出権を否定してみたところで,内閣総理大臣や過半数の国務大臣は,議員の資格で法律案を発議できるのであるから実質的な結論は変わらないといえる。
6 議院内閣制は立法に対する国会と内閣の協働関係を予定しているのだから,内閣の法律案提出権が認められる。
7 憲法第73条第1号は,「国務を総理すること」と規定しており,内閣に国政のあり方に対する全般的な配慮が求められていることからすれば,内閣による法律案提出が認められる。
→ 憲法第七十三条 内閣は、他の一般行政事務の外、左の事務を行ふ。
一 法律を誠実に執行し、国務を総理すること。
二 外交関係を処理すること。
三 条約を締結すること。但し、事前に、時宜によつては事後に、国会の承認を経ることを必要とする。
四 法律の定める基準に従ひ、官吏に関する事務を掌理すること。
五 予算を作成して国会に提出すること。
六 この憲法及び法律の規定を実施するために、政令を制定すること。但し、政令には、特にその法律の委任がある場合を除いては、罰則を設けることができない。
七 大赦、特赦、減刑、刑の執行の免除及び復権を決定すること。
一 法律を誠実に執行し、国務を総理すること。
二 外交関係を処理すること。
三 条約を締結すること。但し、事前に、時宜によつては事後に、国会の承認を経ることを必要とする。
四 法律の定める基準に従ひ、官吏に関する事務を掌理すること。
五 予算を作成して国会に提出すること。
六 この憲法及び法律の規定を実施するために、政令を制定すること。但し、政令には、特にその法律の委任がある場合を除いては、罰則を設けることができない。
七 大赦、特赦、減刑、刑の執行の免除及び復権を決定すること。
この他に肯定説の論拠としては,次の根拠を挙げることができます。
8 現代国家においては,政策立法の必要性が高まっている。
→ 複雑に変化する社会経済情勢を的確に把握し,これに迅速に対応することのできる内閣(行政)による法律案の提出の必要性が高まっている。
→ 積極国家あるいは行政国家現象の下では,内閣による政策を具体化する立法の必要性が高まっているということもできましょう。
このような状況下において,いかなる立法措置をとるべきかについては,内閣がこれをよく把握している,このように肯定説は言いたいのでしょう
9 国会の慣行的受容によって,内閣の法律案提出権は既に確立していると言える。
→ これに対しては,硬性憲法の下では憲法に反する国会の慣行的受容を認めることはできないとの批判があります。
( 過去の司法試験問題の択一の肢には,「硬性憲法」という用語が使われたことがあります。)
なお,内閣の法律案提出権については,内閣法第5条がこれを認めています。
内閣法 第五条 内閣総理大臣は、内閣を代表して内閣提出の法律案、予算その他の議案を国会に提出し、一般国務及び外交関係について国会に報告する。
内閣法 第五条 内閣総理大臣は、内閣を代表して内閣提出の法律案、予算その他の議案を国会に提出し、一般国務及び外交関係について国会に報告する。
内閣の法律案提出権における「否定説」の論拠のまとめ
1 憲法第72条の議案には,本来内閣の権限に属する作用が含まれるのであるが,法律制定作用たる法律案提出権自体は,内閣の本来的権限にそもそも属さない作用である。
したがって,議案の中に法律案を含めることはできない。
2 法律案の提出は,法律制定作用の重要な行為であるから,これを内閣が権限行使するとなれば,国会をもって唯一の立法機関(憲法第41条)とすることに反する。
これは「国会単独立法の原則」に反することになる。
→ 国会中心立法の原則ではありません。ひっかけ肢に注意してください。
内閣の法律案提出権を立法作用の一部分とみなすことがでるか否かが,肯定説と否定説の一つの争点となっていますので,「国会単独立法の原則」に反するが,用語としては正しいです。
3 内閣総理大臣や国務大臣が,議員の資格で法律案を発議することに対しては,国会法第56条第1項の制限がある。
国会法第56条第1項は,「議員が議案を発議するには、衆議院においては議員二十人以上、参議院においては議員十人以上の賛成を要する。但し、予算を伴う法律案を発議するには、衆議院においては議員五十人以上、参議院においては議員二十人以上の賛成を要する。」と規定しています。
→ つまり,論理上は内閣総理大臣や国務大臣が,議員の資格で法律案を発議できないことも想定できます。
[参考文献]
日本国憲法論 佐藤幸治 著 成文堂
憲法 U 第5版 野中俊彦 中村睦男 高橋和之 高見勝利 著 有斐閣
など
以 上
なお,以上の記述の正誤につきましては,ご自身の基本書,テキスト等により是非ご検証,ご確認ください。
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