2016年06月08日
百六十一話 お題:言い表す(表現する) 縛り:ジョギング(ゆっくりと走ること)、音感(音に対する感覚)、務まる(その任務を果たすことができる)、トラベラーズチェック(旅行小切手)
知人の男性の話である。
彼は仕事ばかりの生活にうんざりし、何か趣味を持ちたいと思っていたところ、偶然新聞に住んでいる市の市民合唱団のことが書いてあったため、思い切って参加してみることにしたという。
「学生の頃は徹夜でカラオケとかよくやってたけど、今はすっかり歌わなくなったからね。自分に務まるかどうか不安だったよ」
だがいざ参加してみると合唱団の団員は皆優しく、男性が足りないということもあって彼は大いに歓迎されたそうだ。初心者にしては音感が非常にいいと他の団員からほめられ、すっかり舞い上がった彼は自主練も熱心に行い、体力と肺活量を向上させるためにジョギングまで始めた。
「やってみるとジョギングも楽しくてね。やればやるほど体が健康になっていくのがわかるし。ただこの間さぁ」
ジョギング中、彼は側を歩いていた男性にぶつかってしまったという。男性は何かを落とし、彼が咄嗟に謝りながら落ちたそれを拾いあげると、
「トラベラーズチェックだったんだよ。それも見たことないデザインの。というかトラベラーズチェックってもう売ってないはずだし、なんでこんなもの持ってるんだろうと思って」
彼が男性の方を見ると、一箇所明らかにおかしなところがあった。
「頭が逆についてるんだよ。本来顔がある方に後頭部が来てて、前が見えるはずないのに普通に俺が持ってるトラベラーズチェック取ってさ。それで歩き出そうとしたからやばい、このままだと顔見ちまうと思って目をそらして、すぐにそいつと逆方向に走り出したんだ。あの時の恐怖はとても言葉じゃ言い表せないね」
そんな体験をしたにもかかわらず、彼はまだジョギングを続けているという。
彼は仕事ばかりの生活にうんざりし、何か趣味を持ちたいと思っていたところ、偶然新聞に住んでいる市の市民合唱団のことが書いてあったため、思い切って参加してみることにしたという。
「学生の頃は徹夜でカラオケとかよくやってたけど、今はすっかり歌わなくなったからね。自分に務まるかどうか不安だったよ」
だがいざ参加してみると合唱団の団員は皆優しく、男性が足りないということもあって彼は大いに歓迎されたそうだ。初心者にしては音感が非常にいいと他の団員からほめられ、すっかり舞い上がった彼は自主練も熱心に行い、体力と肺活量を向上させるためにジョギングまで始めた。
「やってみるとジョギングも楽しくてね。やればやるほど体が健康になっていくのがわかるし。ただこの間さぁ」
ジョギング中、彼は側を歩いていた男性にぶつかってしまったという。男性は何かを落とし、彼が咄嗟に謝りながら落ちたそれを拾いあげると、
「トラベラーズチェックだったんだよ。それも見たことないデザインの。というかトラベラーズチェックってもう売ってないはずだし、なんでこんなもの持ってるんだろうと思って」
彼が男性の方を見ると、一箇所明らかにおかしなところがあった。
「頭が逆についてるんだよ。本来顔がある方に後頭部が来てて、前が見えるはずないのに普通に俺が持ってるトラベラーズチェック取ってさ。それで歩き出そうとしたからやばい、このままだと顔見ちまうと思って目をそらして、すぐにそいつと逆方向に走り出したんだ。あの時の恐怖はとても言葉じゃ言い表せないね」
そんな体験をしたにもかかわらず、彼はまだジョギングを続けているという。
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