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2019年01月15日

フリーランスの一こまを切りとってみた

page 27

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シーン1
夜空に水分をうばわれ固くなった空気。

朝の静けさにとけこむFMラジオの小さな音が
夜明け間近の部屋にながれる。

フリーランスは作業机にむかいアフィリエイト
のためネット上を徘徊していた。しょぼつく目
でWEBをながめるフリーランスにとって、ただ
流れていくだけの聞き流すにも満たないラジオ
の音。

〜 “ストロングポイント”、〜

流れていくだけのその音から、なぜかこの言葉
だけがフリーランスの耳にとまった。

霧の中をさまようような記憶からすると、ラジ
オの中では引退をしたアスリートがインタビュ
アーとなり、試合にむけた意気込みなどを現役
のアスリートにインタビューしていた。

その中で「あなたのストロングポイントは?」
と現役アスリートに聞いたのだろう。しかし、
フリーランスはそれを自分に対して聞いたと感
じたのかもしれない。

「オレのストロングポイント?何に対しての?
 、、てか、そもそもその言葉のニュアンスが
 オレの感覚にないんすけど」


シーン2
たしか、インタビュアーはその言葉をこともな
げにさらりと口にした。

フリーランスは日常を思い返してみたが、ボロ
ボロのとたん屋根のようなごつごつとしたスト
ロングという言葉を自分が使った場面はうまく
思い起こせなかった。その言葉のひびきと、さ
らりと話す感じがあわさり、なぜかおもしろく
少し笑いがこみ上げてきた。

「ストロングって、レスラー?てか、ドリンク
 ?あー、タウリンw」

少し笑いながらちゃかす感じでひとり言がでる。

「笑いのセンスとか、、たぐいまれなる文章力
 、人をひきつける魅力的な?、、カネにつな
 がる独自で奇抜な発想力とかw」

フリーランスがニヤニヤつぶやいていると、古
いラジオのスピーカーをおおう紺色の網のすき
間から、ピンとのび意識のかよった指らしきも
のが顔をだし、淡さと眩さの混じるひかりを放
ちながら手のひらを天に向けた手がにゅるっと
あらわれた。

驚くひまもなくスルスルと見事な曲線に反る上
半身のようなものがあらわれ、つづいて前後に
大きくふみ込むきたえられた脚、最後に正しく
180°に開いた両のつま先と、美しく反りひ
かりを放つ人影がなめらかにすべり出た。

ひかりが四方八方に散りまぶしくはっきりとは
見えないが、すべり出てきたのは女性のようだ。

美しく反る体躯の残像をかきけすように女性は
スクっと立ち直り、フリーランスにインタビュ
ーをはじめた。

「あなたのストロングポイントは?」
「へ?!」
「あなたはアフィリエイトで生計をたてようと
 一年前にブログをはじめましたね」
「はぁ、、」
「あなたのアフィリエイトは、量はもちろん質
 においても一年経過したものとしてはとても
 物足りないものです。
 コンセプト、方向性といったものもさっぱり
 わかりません。
 “閲覧注意”ページへの訪問を促しておきなが
 ら肝心のそのページは見当たりません。
 
 やる気はありますか?
 とは聞きません。あると答えることはわかっ
 ているので。
 コンセプトは何になりますか?
 これも聞きません。コンセプトという言葉の
 意味をまだきちんと捉えられていないでしょ
 うから。
 
 先ほど、私が代表選手にインタビューをして
 いるとき、何かぼそぼそ聞こえましたがあら
 ためて伺います。
 あなたがアフィリエイトしていくとき、あな
 たのストロングポイントは何ですか?」
「えっ?、、いやぁ〜」
「何をニヤついてるんですか?」
「いやぁー、何ですかね、考えたことないけど
 、、、細かいめんどうなことは気にしないと
 か、、」
「それから」
「うぅ、いやぁ、、、やるしかないといった気
 持ちでしょうか」
「それらはメダルを狙えるストロングですか
 ?」
「っ!?メダル? ん〜、努力。いや、継続して
 いこうという意思、、あっ!継続力です」
「継続、、かろうじてといった程度ですが一応
 できていますね。
 それもメダリスト級と言えますか?」
「ん〜、、、ストロングポイントが、、何もな
 いのがストロングポイント」
「その考え方はおもしろいですね。
 でもそれだけでは遅かれ早かれ、あなたの大
 切なアフィリエイトは余儀なくされるかと思
 います。
 にごさず言いますが、、廃することをです。
 それはあなたの望むところでしょうか?
 
 先ほどあなたがぼそぼそとやっていたとき、
 なぜか私がインスピしたあなたのストロング
 ポイントを、遠慮なく伝えたいと思います。
 安心してください、無料ですから。
 
 私が感じたもの、それは、一つは天然です。
 そしてもう一つは、素です。
 あなたの陽キャも陰キャももれなく含めた天
 然と素。
 これが私が感じたメダルを狙えるあなたのス
 トロングポイントです。
 悲観なんて何もしなくていいと思います。
 とにかくストロングですから。
 話は以上になります。私はこれで」

話しおわると女性は両の手を頭上に悠然と伸ば
し、きりっとひき締まった表情になった。

そして身をくるりとひるがえしフリーランスに
背をむけ、あらわれたときと同じ鋭さがはじけ
た穏やかなひかりを放ちながら美しい弧に上半
身を反らせ、川面を泳ぐ水鳥のようにゆったり
とラジオの中に帰っていった。

「いやいや、ありゃっ?ちょっ、ちょっと待と
 うよ。帰った?いやぁ、天然とか言われたこ
 とないし。ひどくね」

フリーランスにとって天然ときてつづくのは記
念物か温泉、パーマくらいのものだった。

「抜けてるやつに、小ばかにした感じで使うん
じゃなかったっけ。てか、いまの誰?」


シーン3
気になることがいくつかあったが、やらなけれ
ばならない取材が山積みになっていることをフ
リーランスは思い出した。

気持ちを入れなおそうとキッチンに行き魔法瓶
であたたかいコーヒーをいれ、再び作業机にむ
かう。

あたたかい湯気を鼻にあて苦味と酸味のまじる
芳醇な香りを味わいながら華やかなWEBをうつ
すパソコンの画面に目をやった。

美しくたおやかな脚線をし弧を描いた先ほどの
女性だろうか、気づくとインタビューする声が
ラジオから聞こえる。

「あなたのストロングポイントは何ですか?」

ラジオのすぐ後ろの壁を少しツンとしたやわら
かい陽ざしが照らし、固かった空気がほんのり
あたたかく夜気の気配はなくなっていた。




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posted by サーモラス at 16:00 | TrackBack(0) | 未分類

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