2019年04月27日
記憶の形成をオン・オフ
最終的には、心の働きの脳内メカニズムについて述べていきます。
連想を生むーニューロン集団B
異なる記憶の関連付けは
私たちが周囲の世界を理解したり体系化したりする上で重要だ
技術革命によって記憶を関連付けるプロセスが明らかになってきた
A.J.シルバ(カルフォルニア大学ロサンゼルス校)
記憶の形成をオン・オフ
記憶の割り当てにおけるCREBの役割を確かめるため、私たちは近年記憶の研究を一変させた新しい
手法を用いた。
この技術を使うと、ニューロンの活動をオン・オフし、それによって記憶を思い出したり消したり
できる。
例えば、当時私の研究室にいたチョウ(Yu Zhou)は、マウスに遺伝子改変を施して扁桃体ニューロン
の一部のCREB濃度を上げるとともに、カリフォルニア州ラホヤのソーク研究所のキャラウェイ
(Edward Callaway)らが作った別のタンパク質を発現させた。
キャラウェイのタンパク質の働きにより、CREB濃度の高いニューロンを好きな時に抑制できるように
なった。
CREB濃度の高いニューロンを抑制すると、CREB濃度の低いニューロンが活性化したままなのに、
情動的記憶が抑えられた。
CREB濃度の高いニューロンが、記憶の保存により多く関わっていることの証拠だ。
CREB濃度によって記憶を保存する細胞が決まることは判明したが、そのメカニズムはわからなかった。
スタンフォード大学のマレンカ(Robert Malenka)らは、特定ニューロンでCREBが増加すると、
ニューロンがより活性化されやすくなることを突き止めた。
CREB濃度の高いニューロンは、より興奮しやすくなるために、記憶の保存に選ばれるのだろうか?
この疑問を解明するために、チョウはもっと多くのCREBを産生するように扁桃体のニューロンを
改変し、改変ニューロンがどのくらい簡単に活性化されるかを、微小電極を使って調べた。
これは興奮性の指標となる。
実験の結果は、改変ニューロンが非改変のニューロンより活性化されやすいことを裏付けた。
改変ニューロンの興奮性の増大(ニューロン間の情報をやり取りする電気インパルスの受信や送信を
起こしやすくなること)は、CREB濃度の高いニューロンは記憶固定の過程を始める準備がより
整っている可能性を示唆していた。
この可能性を検証するため、チョウはCREBが多いニューロンのシナプス結合も調べた。
シナプス結合の強度の増大が記憶の形成に不可欠であることを示す証拠は多い。
彼女はマウスに情動的記憶を呼び起こす課題を教え込んだ後、CREB濃度が高い扁桃体ニューロンの
シナプス結合が、そのような改変を施されていないニューロンよりも強いかどうかを調べた。
具体的には、微小電流でこれらの細胞のシナプスを刺激し、細胞内に埋め込んだ微小電極で細胞の応答
を記録した。
予想通り、CREB濃度の高い扁桃体ニューロンのシナプス結合は他の細胞のものよりも強かった。
この結果は、CREB濃度の高いニューロンが情動的記憶を保存しやすいとの見方と整合する。
ジョセリンらは最近、扁桃体にある特定のニューロン集団に恐怖体験の記憶を保存させる実験に成功
した。
ニューロン集団の遺伝子を改変し、興奮性を高めるイオンチャンネルを発現させたのだ。
イオンチャンネルは細胞の表面に生じた孔で、ジョセリンが選んだ特定のイオンチャンネルを発現した
細胞はより活性化されやすくなる。
同様に、バージニア州アッシュバーンのハワード・ヒューズ医学研究所ジャネリア・リサーチ・
キャンパスの神経科学者リー(Albert Lee)の研究チームは、通路を走り回る動物がある地点に来た
ところで海馬ニューロンの興奮性を人為的に高めると、それらのニューロンがその地点で反応しやすく
なることを報告した。
この結果は、ある記憶を保存する細胞の決定に興奮性が重要な役割を果たしているという私たちの発見と
一致する。
さらに、私たちとジョセリンらはそれぞれ、光を使ってニューロンを活性化したり抑制したりできる
「光遺伝学(オプトジェネティク)技術を利用した。
CREB濃度が高いニューロンにスイッチを入れるためだ。
ます、当時私の研究室にいたロジャーソン(Thomas Rogerson)とジャヤプラカシュ(Balaji
Jayaprakash)がマウスの扁桃体ニューロンの一部を改変し、より多くのCREBと、青色光によって
活性化するイオンチャンネル「チャネルロドプシン2(ChR2)」を作らせた。
また、対照群としてChR2だけを作るように扁桃体ニューロンを改変したマウスも用意した。
次に私たちは、それぞれのマウスに恐怖記憶を植え付けた。
その後マウスに青色光を当てると、扁桃体ニューロンのCREB濃度を高めたマウスは恐怖記憶を想起
した一方で、対照群は想起せず、恐怖記憶がCREB濃度の高いニューロンに保存されていることを確認
した。
神経活動を観察する顕微鏡
マウスの頭に取り付けた顕微鏡によって、記憶を保存する脳細胞の活動を調べることが可能になった。
参考文献:別冊日経サイエンス『最新科学が解き明かす脳と心』
2017年12月16日刊
発行:日経サイエンス社 発売:日本経済新聞出版社
連想を生むーニューロン集団B
異なる記憶の関連付けは
私たちが周囲の世界を理解したり体系化したりする上で重要だ
技術革命によって記憶を関連付けるプロセスが明らかになってきた
A.J.シルバ(カルフォルニア大学ロサンゼルス校)
記憶の形成をオン・オフ
記憶の割り当てにおけるCREBの役割を確かめるため、私たちは近年記憶の研究を一変させた新しい
手法を用いた。
この技術を使うと、ニューロンの活動をオン・オフし、それによって記憶を思い出したり消したり
できる。
例えば、当時私の研究室にいたチョウ(Yu Zhou)は、マウスに遺伝子改変を施して扁桃体ニューロン
の一部のCREB濃度を上げるとともに、カリフォルニア州ラホヤのソーク研究所のキャラウェイ
(Edward Callaway)らが作った別のタンパク質を発現させた。
キャラウェイのタンパク質の働きにより、CREB濃度の高いニューロンを好きな時に抑制できるように
なった。
CREB濃度の高いニューロンを抑制すると、CREB濃度の低いニューロンが活性化したままなのに、
情動的記憶が抑えられた。
CREB濃度の高いニューロンが、記憶の保存により多く関わっていることの証拠だ。
CREB濃度によって記憶を保存する細胞が決まることは判明したが、そのメカニズムはわからなかった。
スタンフォード大学のマレンカ(Robert Malenka)らは、特定ニューロンでCREBが増加すると、
ニューロンがより活性化されやすくなることを突き止めた。
CREB濃度の高いニューロンは、より興奮しやすくなるために、記憶の保存に選ばれるのだろうか?
この疑問を解明するために、チョウはもっと多くのCREBを産生するように扁桃体のニューロンを
改変し、改変ニューロンがどのくらい簡単に活性化されるかを、微小電極を使って調べた。
これは興奮性の指標となる。
実験の結果は、改変ニューロンが非改変のニューロンより活性化されやすいことを裏付けた。
改変ニューロンの興奮性の増大(ニューロン間の情報をやり取りする電気インパルスの受信や送信を
起こしやすくなること)は、CREB濃度の高いニューロンは記憶固定の過程を始める準備がより
整っている可能性を示唆していた。
この可能性を検証するため、チョウはCREBが多いニューロンのシナプス結合も調べた。
シナプス結合の強度の増大が記憶の形成に不可欠であることを示す証拠は多い。
彼女はマウスに情動的記憶を呼び起こす課題を教え込んだ後、CREB濃度が高い扁桃体ニューロンの
シナプス結合が、そのような改変を施されていないニューロンよりも強いかどうかを調べた。
具体的には、微小電流でこれらの細胞のシナプスを刺激し、細胞内に埋め込んだ微小電極で細胞の応答
を記録した。
予想通り、CREB濃度の高い扁桃体ニューロンのシナプス結合は他の細胞のものよりも強かった。
この結果は、CREB濃度の高いニューロンが情動的記憶を保存しやすいとの見方と整合する。
ジョセリンらは最近、扁桃体にある特定のニューロン集団に恐怖体験の記憶を保存させる実験に成功
した。
ニューロン集団の遺伝子を改変し、興奮性を高めるイオンチャンネルを発現させたのだ。
イオンチャンネルは細胞の表面に生じた孔で、ジョセリンが選んだ特定のイオンチャンネルを発現した
細胞はより活性化されやすくなる。
同様に、バージニア州アッシュバーンのハワード・ヒューズ医学研究所ジャネリア・リサーチ・
キャンパスの神経科学者リー(Albert Lee)の研究チームは、通路を走り回る動物がある地点に来た
ところで海馬ニューロンの興奮性を人為的に高めると、それらのニューロンがその地点で反応しやすく
なることを報告した。
この結果は、ある記憶を保存する細胞の決定に興奮性が重要な役割を果たしているという私たちの発見と
一致する。
さらに、私たちとジョセリンらはそれぞれ、光を使ってニューロンを活性化したり抑制したりできる
「光遺伝学(オプトジェネティク)技術を利用した。
CREB濃度が高いニューロンにスイッチを入れるためだ。
ます、当時私の研究室にいたロジャーソン(Thomas Rogerson)とジャヤプラカシュ(Balaji
Jayaprakash)がマウスの扁桃体ニューロンの一部を改変し、より多くのCREBと、青色光によって
活性化するイオンチャンネル「チャネルロドプシン2(ChR2)」を作らせた。
また、対照群としてChR2だけを作るように扁桃体ニューロンを改変したマウスも用意した。
次に私たちは、それぞれのマウスに恐怖記憶を植え付けた。
その後マウスに青色光を当てると、扁桃体ニューロンのCREB濃度を高めたマウスは恐怖記憶を想起
した一方で、対照群は想起せず、恐怖記憶がCREB濃度の高いニューロンに保存されていることを確認
した。
神経活動を観察する顕微鏡
マウスの頭に取り付けた顕微鏡によって、記憶を保存する脳細胞の活動を調べることが可能になった。
参考文献:別冊日経サイエンス『最新科学が解き明かす脳と心』
2017年12月16日刊
発行:日経サイエンス社 発売:日本経済新聞出版社
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