2019年04月26日
セレンディピティ
最終的には、心の働きの脳内メカニズムについて述べていきます。
連想を生むーニューロン集団A
セレンディピティ
異なる記憶の関連付けは
私たちが周囲の世界を理解したり体系化したりする上で重要だ
技術革命によって記憶を関連付けるプロセスが明らかになってきた
A.J.シルバ(カルフォルニア大学ロサンゼルス校)
記憶の関連付けに関する研究を始めた1990年代後半、私たちはこの研究に取り組むのみ必要な
ツールも基礎知識も欠けていた。
最初の重要な一歩は、「記憶の割り当て」と呼ばれる概念の発見だった。
脳は特定の規則に従って、学習した情報の断片を、記憶の形成を担う領域に存在する異なる
ニューロン集団に割り当てていることに気づいた。
発見はセレンディピティ(偶然の幸運)がカギとなった
1998年に私がエール大学を訪ねた際に、友人で研究仲間のデイビス(Michael Davis, 現在は
エモリー大学)と交わした会話が始まりだ。
彼はラットの情動的記憶、例えば音と電気ショックを関連付ける記憶などを強化するため、
CREBという遺伝子を操作する実験について話してくれた。
CREB遺伝子が長期記憶の形成に必要であることは、それ以前に私の研究室(現在はカリフォルニア
大学ロサンゼルス校にある)や他の研究グループによって示されていた。
CREB遺伝子は記憶に必要な他の遺伝子の発現を調節するタンパク質をコードしている。
学習するとき、一部のシナプス(ニューロンが情報交換に用いる細胞構造)が形成あるいは増強され、
ニューロンどうしが容易に相互作用できるようになる。
CREBタンパク質はこの過程をつかさどる。
CREBの働きがなければ、ほとんどの経験を忘れてしまうだろう。
私が驚いたのは、デイビスのチームが扁桃体(情動的記憶に重要な脳領域)のごく一部の
ニューロンのCREB 濃度を上げただけでラットの記憶力が向上したことだった。
記憶はどのようにして、高濃度のCREB がある少数の脳細胞に収まったのだろう?
エール大学訪問から何ヶ月もの間、この疑問は私の頭から離れなかった。
CREB は記憶の形成を調節するだけでなく、CREB を含む細胞が記憶の形成に関与しやすくなる
ように仕向けているのだろうか?
私たちは記憶への関与が判明している脳領域、すなわち扁桃体と海馬におけるCREB の役割に狙いを
定めた。
海馬は周辺環境の脳内地図を保存している
科学とは、疑問に答えるだけでなく、疑問を見つける作業でもある。
私はデイビスとの会話から、記憶を処理・保存する領域のニューロンに特定の記憶がどう割り当て
られるかを決める規則(もしそれがあるとして)を、神経科学者はほとんど何も解明していない
ことに気づいた。
そこで、もっと詳しく調べることにした。
デイビスの研究室でCREB を研究していた神経科学者のジョセリン(Sheena A. Josselyn)が
私のチームに加わると、最初の大きなチャンスが訪れた。
彼女は私の研究室と、後にカナダのトロント大学で立ち上げた彼女自身の研究室で、ウイルスを使った
マウスの扁桃体にある特定のニューロンにCREB 遺伝子のコピーを追加する一連の実験を行った。
そして、コピーを導入されたニューロンは、周辺のニューロンに比べて4倍も恐怖記憶を保存しやすい
ことを示した。
約10年間の研究後、
2007年に、私たちはジョセリンらと共同で、
情動的記憶は扁桃体のニューロンに無作為に割り当てられるのではないとの証拠を発表した。
情動的記憶の保存に選ばれるのはCREBタンパク質を多く含むニューロンだ。
同じく重要なことに、その後の実験で、
CREB は海馬や大脳皮質など他の脳領域でも同様の役割を持つことが示された。
参考文献:別冊日経サイエンス『最新科学が解き明かす脳と心』
2017年12月16日刊
発行:日経サイエンス社 発売:日本経済新聞出版社
連想を生むーニューロン集団A
セレンディピティ
異なる記憶の関連付けは
私たちが周囲の世界を理解したり体系化したりする上で重要だ
技術革命によって記憶を関連付けるプロセスが明らかになってきた
A.J.シルバ(カルフォルニア大学ロサンゼルス校)
記憶の関連付けに関する研究を始めた1990年代後半、私たちはこの研究に取り組むのみ必要な
ツールも基礎知識も欠けていた。
最初の重要な一歩は、「記憶の割り当て」と呼ばれる概念の発見だった。
脳は特定の規則に従って、学習した情報の断片を、記憶の形成を担う領域に存在する異なる
ニューロン集団に割り当てていることに気づいた。
発見はセレンディピティ(偶然の幸運)がカギとなった
1998年に私がエール大学を訪ねた際に、友人で研究仲間のデイビス(Michael Davis, 現在は
エモリー大学)と交わした会話が始まりだ。
彼はラットの情動的記憶、例えば音と電気ショックを関連付ける記憶などを強化するため、
CREBという遺伝子を操作する実験について話してくれた。
CREB遺伝子が長期記憶の形成に必要であることは、それ以前に私の研究室(現在はカリフォルニア
大学ロサンゼルス校にある)や他の研究グループによって示されていた。
CREB遺伝子は記憶に必要な他の遺伝子の発現を調節するタンパク質をコードしている。
学習するとき、一部のシナプス(ニューロンが情報交換に用いる細胞構造)が形成あるいは増強され、
ニューロンどうしが容易に相互作用できるようになる。
CREBタンパク質はこの過程をつかさどる。
CREBの働きがなければ、ほとんどの経験を忘れてしまうだろう。
私が驚いたのは、デイビスのチームが扁桃体(情動的記憶に重要な脳領域)のごく一部の
ニューロンのCREB 濃度を上げただけでラットの記憶力が向上したことだった。
記憶はどのようにして、高濃度のCREB がある少数の脳細胞に収まったのだろう?
エール大学訪問から何ヶ月もの間、この疑問は私の頭から離れなかった。
CREB は記憶の形成を調節するだけでなく、CREB を含む細胞が記憶の形成に関与しやすくなる
ように仕向けているのだろうか?
私たちは記憶への関与が判明している脳領域、すなわち扁桃体と海馬におけるCREB の役割に狙いを
定めた。
海馬は周辺環境の脳内地図を保存している
科学とは、疑問に答えるだけでなく、疑問を見つける作業でもある。
私はデイビスとの会話から、記憶を処理・保存する領域のニューロンに特定の記憶がどう割り当て
られるかを決める規則(もしそれがあるとして)を、神経科学者はほとんど何も解明していない
ことに気づいた。
そこで、もっと詳しく調べることにした。
デイビスの研究室でCREB を研究していた神経科学者のジョセリン(Sheena A. Josselyn)が
私のチームに加わると、最初の大きなチャンスが訪れた。
彼女は私の研究室と、後にカナダのトロント大学で立ち上げた彼女自身の研究室で、ウイルスを使った
マウスの扁桃体にある特定のニューロンにCREB 遺伝子のコピーを追加する一連の実験を行った。
そして、コピーを導入されたニューロンは、周辺のニューロンに比べて4倍も恐怖記憶を保存しやすい
ことを示した。
約10年間の研究後、
2007年に、私たちはジョセリンらと共同で、
情動的記憶は扁桃体のニューロンに無作為に割り当てられるのではないとの証拠を発表した。
情動的記憶の保存に選ばれるのはCREBタンパク質を多く含むニューロンだ。
同じく重要なことに、その後の実験で、
CREB は海馬や大脳皮質など他の脳領域でも同様の役割を持つことが示された。
参考文献:別冊日経サイエンス『最新科学が解き明かす脳と心』
2017年12月16日刊
発行:日経サイエンス社 発売:日本経済新聞出版社
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