2019年08月05日
依存症のメカニズム
こころの病気の原因と対策
依存症のメカニズム
報酬系回路とは、
食行動や性行動などの本能的行動を快感として感じることで、
行動の継続を図る種の保存のための神経系です。
報酬系回路は、中脳辺縁系を中心とする
ドーパミン神経系(別名A10神経系)からなり、
中脳の腹側被蓋野から側坐核に投射するが、
側坐核を含む腹側線条体のみならず、
眼窩前頭皮質、前部帯状回皮質、
扁桃体、海馬、大脳の前頭前野へも投射している。
依存性物質や、飲食、性行為などの
快情動をもたらす自然の強化因子は、
腹側被蓋野から側坐核へ
一過性のドーパミン放出を誘発することで、
報酬系を活性化させる。
なお、腹側被蓋野は、
必ずしも報酬により快感覚を得られる状況だけではなく、
報酬を期待して行動をしているときにも活性化するため、
日常生活における意欲の向上や動機づけにおいても重要な役割を担う。
自分のためだけでなく、
愛しい恋人、パートナー、子供のため、
コミュニティ、社会のため、国のために
行動したり、貢献していることが
強い『快』情動をもたらす。
腹側被蓋野から『ドーパミン伝達』により側坐核が刺激されると、
快感や高揚感がもたらされる。
つまりドーパミンは反復行動の強化と動機づけに
重要な役割を果たすと考えられており、
報酬系と遊離ドーパミンの濃度が
物質乱用や嗜癖にも関わっている
ことを示す知見は数多く存在する。
依存症をもたらす『メカニズム』でもある。
側坐核のみでなく、
腹側被蓋野領域から扁桃体、眼窩前頭皮質、前部帯状回皮質、海馬、前頭前野へも
一過性のドーパミン放出が惹起される。
扁桃体と眼窩前頭皮質は、報酬を予期させるものと、
それにより実際に生じた報酬である『快』情動とを関連づける
ことに重要な役割を担うとされている。
さらに眼窩前頭皮質は、その得られた報酬の価値を
符号化し情報を更新することに関連している。
また、中脳からのドーパミン伝達により、
海馬からの長期記憶形成が強化されるため、
その報酬に関連した刺激や状況が記憶され、
その後の嗜癖形成への発展につながる。
前部帯状回は、嗜癖行動とそれにより得られる報酬とを関連づけ、
得られる報酬によって行動を選択・制御する。
そして、報酬系ドーパミン伝達により、
理性的思考により衝動行為を制御する
前頭前野の機能が低下する。
眼窩前頭皮質と前部帯状回を経由して、
トップダウンの信号が中脳辺縁系領域に再び到達し、
報酬探索の動機が制御される。
物質依存症も行動嗜癖も、強い渇望が繰り返し起きることによって、
中脳辺縁系の活性化と前頭前野の抑制力減弱を招くという点では、
『衝動制御能低下』という共通の特徴をもつ。
依存や嗜癖に関連した行動を実行しようとする動機が、
それを制御しようとする努力にまさってしまう。
徐々にそのような行動の頻度が増え、習慣化していく。
物質使用障害では、依存の習慣が形成されていく過程において、
刺激により誘発される活性化が、
側坐核の背外側部から腹内側部へ、
最後には、感覚運動の皮質線条体系回路も
関連する腹側線条体へ移動していくことによって、
衝動制御の障害においても、
同様の変化を示唆する知見が出てきている。
ただし嗜癖行動は依存性物質と異なり、
直接中枢の神経細胞に作用し、
ドーパミン神経系を混乱させるわけではないため、
幻覚妄想、認知機能障害などの
中毒症状や、離脱症状を来たすことはない。
【参考文献】
ニュートン別冊 精神科医が語る 精神の病気
心の病気の原因と対策が、この1冊でよくわかる!
監修 仮屋暢聡 株式会社ニュートンプレス 2019年4月5日発行
『行動嗜癖』谷渕 由布子 医療法人同和会千葉病院精神科
松本 俊彦 独立行政法人国立精神・神経医療研究センター精神保健研究部
薬物依存研究部/自殺予防総合対策センター
原稿受付日:2014年1月8日 原稿完成日:2014年1月31日
担当編集委員:加藤 忠史(独立行政法人理化学研究所 脳科学総合研究センター)
https://bsd.neuroinf.jp/wiki/%E8%A1%8C%E5%8B%95%E5%97%9C%E7%99%96
依存症のメカニズム
報酬系回路とは、
食行動や性行動などの本能的行動を快感として感じることで、
行動の継続を図る種の保存のための神経系です。
報酬系回路は、中脳辺縁系を中心とする
ドーパミン神経系(別名A10神経系)からなり、
中脳の腹側被蓋野から側坐核に投射するが、
側坐核を含む腹側線条体のみならず、
眼窩前頭皮質、前部帯状回皮質、
扁桃体、海馬、大脳の前頭前野へも投射している。
依存性物質や、飲食、性行為などの
快情動をもたらす自然の強化因子は、
腹側被蓋野から側坐核へ
一過性のドーパミン放出を誘発することで、
報酬系を活性化させる。
なお、腹側被蓋野は、
必ずしも報酬により快感覚を得られる状況だけではなく、
報酬を期待して行動をしているときにも活性化するため、
日常生活における意欲の向上や動機づけにおいても重要な役割を担う。
自分のためだけでなく、
愛しい恋人、パートナー、子供のため、
コミュニティ、社会のため、国のために
行動したり、貢献していることが
強い『快』情動をもたらす。
腹側被蓋野から『ドーパミン伝達』により側坐核が刺激されると、
快感や高揚感がもたらされる。
つまりドーパミンは反復行動の強化と動機づけに
重要な役割を果たすと考えられており、
報酬系と遊離ドーパミンの濃度が
物質乱用や嗜癖にも関わっている
ことを示す知見は数多く存在する。
依存症をもたらす『メカニズム』でもある。
側坐核のみでなく、
腹側被蓋野領域から扁桃体、眼窩前頭皮質、前部帯状回皮質、海馬、前頭前野へも
一過性のドーパミン放出が惹起される。
扁桃体と眼窩前頭皮質は、報酬を予期させるものと、
それにより実際に生じた報酬である『快』情動とを関連づける
ことに重要な役割を担うとされている。
さらに眼窩前頭皮質は、その得られた報酬の価値を
符号化し情報を更新することに関連している。
また、中脳からのドーパミン伝達により、
海馬からの長期記憶形成が強化されるため、
その報酬に関連した刺激や状況が記憶され、
その後の嗜癖形成への発展につながる。
前部帯状回は、嗜癖行動とそれにより得られる報酬とを関連づけ、
得られる報酬によって行動を選択・制御する。
そして、報酬系ドーパミン伝達により、
理性的思考により衝動行為を制御する
前頭前野の機能が低下する。
眼窩前頭皮質と前部帯状回を経由して、
トップダウンの信号が中脳辺縁系領域に再び到達し、
報酬探索の動機が制御される。
物質依存症も行動嗜癖も、強い渇望が繰り返し起きることによって、
中脳辺縁系の活性化と前頭前野の抑制力減弱を招くという点では、
『衝動制御能低下』という共通の特徴をもつ。
依存や嗜癖に関連した行動を実行しようとする動機が、
それを制御しようとする努力にまさってしまう。
徐々にそのような行動の頻度が増え、習慣化していく。
物質使用障害では、依存の習慣が形成されていく過程において、
刺激により誘発される活性化が、
側坐核の背外側部から腹内側部へ、
最後には、感覚運動の皮質線条体系回路も
関連する腹側線条体へ移動していくことによって、
衝動制御の障害においても、
同様の変化を示唆する知見が出てきている。
ただし嗜癖行動は依存性物質と異なり、
直接中枢の神経細胞に作用し、
ドーパミン神経系を混乱させるわけではないため、
幻覚妄想、認知機能障害などの
中毒症状や、離脱症状を来たすことはない。
【参考文献】
ニュートン別冊 精神科医が語る 精神の病気
心の病気の原因と対策が、この1冊でよくわかる!
監修 仮屋暢聡 株式会社ニュートンプレス 2019年4月5日発行
『行動嗜癖』谷渕 由布子 医療法人同和会千葉病院精神科
松本 俊彦 独立行政法人国立精神・神経医療研究センター精神保健研究部
薬物依存研究部/自殺予防総合対策センター
原稿受付日:2014年1月8日 原稿完成日:2014年1月31日
担当編集委員:加藤 忠史(独立行政法人理化学研究所 脳科学総合研究センター)
https://bsd.neuroinf.jp/wiki/%E8%A1%8C%E5%8B%95%E5%97%9C%E7%99%96
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