2019年05月16日
3.基底核の入出力と神経回路の機能A
最終的には、心の働きの脳内メカニズムについて述べていきます。
3.基底核の入出力と神経回路の機能A
3―3;基底核―脳幹系
基底核から脳幹への投射は,
脳幹内の運動パターン形成機構を介して発現する(生得的な)運動の調節に関与する.
上丘への投射は眼球運動に,
脚橋被蓋核領域への投射は筋緊張や歩行運動に,
延髄網様体への投射は咀嚼運動や嚥下運動などの口腔顔面運動を調節する[17].
(1)筋緊張の調節
中脳被蓋に存在する脚橋被蓋核(Pedunculopontine tegmental nucleus;PPN)は筋緊張の制御に関与する[18].
筋緊張の抑制系は脚橋被蓋核のコリン作動性ニューロンに始まり,橋・延髄網様体脊髄路を下行する.
さらに脊髄の抑制性介在細胞(Ib介在細胞を含む)を経由してα運動細胞・γ運動細胞・介在細胞群を抑制する[19].
一方,モノアミン作動性下行路(青斑核脊髄路・縫線核脊髄路)は筋緊張の促通系として働く.
抑制系は促通系の活動を抑制する[20].
脚橋被蓋核は淡蒼球内節や黒質網様部から豊富な線維投射を受けており[21],
基底核は抑制系の活動を調節すると共に,
二次的に促通系の活動を変化させることで筋緊張を制御すると考えられる.
(2)歩行運動の調節
ネコやラット,サルの脚橋被蓋核の近傍には歩行誘発野が存在し,
歩行運動の開始や遂行に関与する[22].
Masdeuら[23]は,中脳被蓋の微小脳梗塞により歩行と起立のみが不能になった臨床例を報告し,
ヒトにおいても歩行誘発野が存在することを示した.
黒質網様部から歩行誘発領域へのGABA作動性投射は,
歩行運動の開始や停止・歩行リズム・歩行速度などを調節する[18].
(3)大脳皮質と基底核による二重支配
上丘や中脳被蓋(筋緊張抑制野や歩行誘発野などを含む)には基底核からの抑制入力に加えて,
大脳皮質からの興奮性入力も収束する.
従って脳幹の運動システムは
大脳皮質―基底核ループを経由する随意的制御と
基底核―脳幹系による自動的制御の双方を受けると考えることができる.
行動の発現に際して,
大脳皮質―基底核ループで構成される行動プランや
運動プログラムが適切な運動に変換される過程には
基底核―脳幹系による無意識の調節が働くと推測される.
そして基底核疾患における多くの運動障害の背景には,
この二つのシステムの機能異常が存在する.
【引用文献】
大脳基底核の機能;パーキンソン病との関連において
旭川医科大学 生理学第二講座
高草木 薫
参考文献
17.彦坂興秀:随意運動における大脳基底核の役割 In:脳とニューラルネット,Eds. 甘利俊一 & 酒田英
夫,朝倉書店,pp 218― 234, 1994.
18.Takakusaki K, Habaguchi T, Ohtinata-Sugimoto J, Saitoh K & Sakamoto T : Basal ganglia efferents to
the brainstem centers controlling postural muscle tone and locomotion ; A new concept for understanding motor disorders in basal ganglia dysfunction. Neurosci : in press.
19.Takakusaki K, Kohyama J, Matsuyama K & Mori S : Medullary reticulospinal tract mediation of generalized motor inhibition in cats : Parallel inhibitory mechanisms acting on motoneurons and on interneuronal transmission in reflex pathways. Neurosci 103, 511― 527, 2001.
20.Mileykovskiy BY, Kiyashchenko LI, Kodama T, Lai YY & Siegel JM : Activation of pontine and medullary motor inhibitory regions reduces discharge in neurons located in the locus coeruleus and the anatomical equivalent of the midbrain locomotor region. J Neurosci 20 : 8551― 8558, 2000.
21.Inglis WL & Winn P : The pedunculopontine tegmental nucleus : where the striatum meets the reticular
formation. Prog Neurobiol 47 : 1― 29, 1995.
22.Grillner S: Control of locomotion in bipeds, tetrapods, and fish. In : The Nervous System II, Ed. Brooks VB,
Am. Physiol. Soc. Press, Bethesda, pp 1179 ― 1236, 1981.
23.Masdeu JC, Alampur U, Cavaliere R & Tavoulareas G : Astasia and gait failure with damage of the pontomesencephalic locomotor region. Ann Neurol 35 : 619― 621, 1994.
3.基底核の入出力と神経回路の機能A
3―3;基底核―脳幹系
基底核から脳幹への投射は,
脳幹内の運動パターン形成機構を介して発現する(生得的な)運動の調節に関与する.
上丘への投射は眼球運動に,
脚橋被蓋核領域への投射は筋緊張や歩行運動に,
延髄網様体への投射は咀嚼運動や嚥下運動などの口腔顔面運動を調節する[17].
(1)筋緊張の調節
中脳被蓋に存在する脚橋被蓋核(Pedunculopontine tegmental nucleus;PPN)は筋緊張の制御に関与する[18].
筋緊張の抑制系は脚橋被蓋核のコリン作動性ニューロンに始まり,橋・延髄網様体脊髄路を下行する.
さらに脊髄の抑制性介在細胞(Ib介在細胞を含む)を経由してα運動細胞・γ運動細胞・介在細胞群を抑制する[19].
一方,モノアミン作動性下行路(青斑核脊髄路・縫線核脊髄路)は筋緊張の促通系として働く.
抑制系は促通系の活動を抑制する[20].
脚橋被蓋核は淡蒼球内節や黒質網様部から豊富な線維投射を受けており[21],
基底核は抑制系の活動を調節すると共に,
二次的に促通系の活動を変化させることで筋緊張を制御すると考えられる.
(2)歩行運動の調節
ネコやラット,サルの脚橋被蓋核の近傍には歩行誘発野が存在し,
歩行運動の開始や遂行に関与する[22].
Masdeuら[23]は,中脳被蓋の微小脳梗塞により歩行と起立のみが不能になった臨床例を報告し,
ヒトにおいても歩行誘発野が存在することを示した.
黒質網様部から歩行誘発領域へのGABA作動性投射は,
歩行運動の開始や停止・歩行リズム・歩行速度などを調節する[18].
(3)大脳皮質と基底核による二重支配
上丘や中脳被蓋(筋緊張抑制野や歩行誘発野などを含む)には基底核からの抑制入力に加えて,
大脳皮質からの興奮性入力も収束する.
従って脳幹の運動システムは
大脳皮質―基底核ループを経由する随意的制御と
基底核―脳幹系による自動的制御の双方を受けると考えることができる.
行動の発現に際して,
大脳皮質―基底核ループで構成される行動プランや
運動プログラムが適切な運動に変換される過程には
基底核―脳幹系による無意識の調節が働くと推測される.
そして基底核疾患における多くの運動障害の背景には,
この二つのシステムの機能異常が存在する.
【引用文献】
大脳基底核の機能;パーキンソン病との関連において
旭川医科大学 生理学第二講座
高草木 薫
参考文献
17.彦坂興秀:随意運動における大脳基底核の役割 In:脳とニューラルネット,Eds. 甘利俊一 & 酒田英
夫,朝倉書店,pp 218― 234, 1994.
18.Takakusaki K, Habaguchi T, Ohtinata-Sugimoto J, Saitoh K & Sakamoto T : Basal ganglia efferents to
the brainstem centers controlling postural muscle tone and locomotion ; A new concept for understanding motor disorders in basal ganglia dysfunction. Neurosci : in press.
19.Takakusaki K, Kohyama J, Matsuyama K & Mori S : Medullary reticulospinal tract mediation of generalized motor inhibition in cats : Parallel inhibitory mechanisms acting on motoneurons and on interneuronal transmission in reflex pathways. Neurosci 103, 511― 527, 2001.
20.Mileykovskiy BY, Kiyashchenko LI, Kodama T, Lai YY & Siegel JM : Activation of pontine and medullary motor inhibitory regions reduces discharge in neurons located in the locus coeruleus and the anatomical equivalent of the midbrain locomotor region. J Neurosci 20 : 8551― 8558, 2000.
21.Inglis WL & Winn P : The pedunculopontine tegmental nucleus : where the striatum meets the reticular
formation. Prog Neurobiol 47 : 1― 29, 1995.
22.Grillner S: Control of locomotion in bipeds, tetrapods, and fish. In : The Nervous System II, Ed. Brooks VB,
Am. Physiol. Soc. Press, Bethesda, pp 1179 ― 1236, 1981.
23.Masdeu JC, Alampur U, Cavaliere R & Tavoulareas G : Astasia and gait failure with damage of the pontomesencephalic locomotor region. Ann Neurol 35 : 619― 621, 1994.
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