2017年11月06日
NHK大河ドラマ「おんな城主直虎」第42回放送「長篠に立てる柵」
タイトルにある「長篠」とは、あの歴史上有名な合戦・「長篠の戦い」が行われた地のことです。
とはいえ、話のメインは、かの織田・徳川連合軍と武田氏との合戦ではありません。
ドラマの主人公の直虎の親族であり、名門井伊家の地をひく男子、万千代は、のちに徳川四天王の一人に数えられるほどの重臣となりますが、この時点ではまだ元服もしていない少年にすぎないのです。その万千代が、今度の戦で多くの木材が使われることを知り、井伊谷から木材を調達しましょう、その役目をわたくしに、と家康に願い出ます。
しかし、主人公の直虎はと言うと、現在の井伊谷は近藤氏の治めるところとなっており、井伊万千代のものではないため、近藤氏を通さず勝手に万千代が木材切り出しの役目を行うのは「すじがとおらぬ」と、家康に進言(方久という商人に托した文により)して、家康から近藤へ、近藤から近藤の家臣で以前は井伊の家臣だった者にと指示の流れをつくり、井伊の旧臣に活躍させます。
出世の好機を尼(直虎)によって邪魔された、と憤慨する万千代。
家康はそんな万千代に留守居役を命じます。戦場で働けず留守居をおおせつかり、腐りそうになりながらも、万千代は日本一の留守居役として自分にできることをやろう、と心に誓うのです。
と、その時、万千代の先輩にあたる小姓が万千代に「武具の修繕」の仕事を手伝ってくれ、と言ってきます。手伝いとは名目だけで、自分たちは何もせず、すべてを万千代と小野万福(物語の重要人物だった小野但馬の甥)にやらせます。万千代と万福は武具をただ直すだけでなく新品同様にまでして、見事な仕事ぶりをみせます。
ところが万千代に「手伝い」を命じた先輩小姓は、その万千代たちの働きをすべて自分の手柄かのように上司に報告します。万千代は慌てて、それは自分が、と説明しようとしますが、先輩小姓は「ちょっと手伝ってもらっただけで、わたくしが」と、何もしていないのに手柄を誇り万千代の手柄を横取りします。さらに、万千代に対しては、今川に属していた、今は滅んだ家の者が何をいうか、とばかりに冷たい言葉を言い放ちます。
怒りに震え、さらに「ノブ(本多正信)」に八つ当たりしてしまいます。
「ノブ」は万千代に、滅んだ家の者だからこそでいる働きがあるのでは? という意味のことを言います。万千代は「ノブ」に、「ならば裏切り者(ノブは三河一向一揆の時に一揆側についたので裏切り者と呼ばれていた)ならではの働きをするのか!」という意味の事を言います。「ノブ」は裏切り者だったからこそできることをやります、と答えます。
さて、一方、長篠では、井伊谷から調達した木材で馬防柵が出来、武田の騎馬隊を阻止して武田軍を壊滅させるのに木材が大いに役立ちました。木材を調達した井伊の旧臣の働きをかの織田信長が評価し、褒美を与えます。
また、浜松に帰城した家康は、修繕された武具を見ます。夜、ひそかに万千代を呼び、あれは万千代がやったことだろう、と言い当てます。家康は家臣の働きをよく見ていたのです。
戦場にいたので、万千代の働きをじっと見つめていたわけではありません。ただ、万千代の手柄を横取りした小姓の普段の働きと違って、見事に修繕されていたことに気づき、万千代の働きだと見抜いたのです。
この場面が実に感動的でした。
歴史ドラマは現代における組織の人間関係に通じる部分がよく描かれたりするものですが、この場面は、組織のトップが部下たちの働きをよく見ていて正当な評価を下してるか、ということについて考えさせられます。
命を的に戦った者以上に、馬防柵の為の木材を調達した井伊旧臣を高く評価した織田信長もそうですが、家康もまた部下をよくみて、個々の能力も見抜き、正当に評価するのです。そんな人物だからこそ天下を取れたといえましょう。
このドラマではずっと、気弱な優柔不断っぽい人物として描かれていた家康ですが、この場面では家康らしい人物像で描かれていました。
今の世の中でも、組織に属しながら、上司やそのまた上のトップには正当に評価されず、先輩に手柄を横取りされたり不当な仕打ちをされたりして悩んでいる人は多いと思います。懸命な働きを正当に評価され、「立派に働いている者」と「面倒な仕事を他者におしつけ怠けてばかりいる者」とが区別されるからこそ、しっかり働く者のモチベーションがあがり、組織がうまく機能するのです。トップや中間管理職的な立場の人間が部下の働きをろくに見ず、怠け者や狡い者と働き者とをごっちゃにして一緒くたにして同じ給料だけ渡してそれで済んだとするような組織は駄目です。やがて衰退するものでしょう。
トップである家康に認められたことが分かった万千代の、今後の活躍が期待される回でした。
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