2023年06月10日
あたたかなレクイエム 「三文役者の死 正伝 殿山泰司」 新藤兼人
再読。
新藤兼人監督が、
独立プロ、近代映画協会を
一緒に立ち上げた盟友、
殿山泰司に贈る鎮魂歌的エッセイ。
二度目の読了だが、交友50年の重みと
愛情が詰まった名著だ。
’
「オレは頭が悪い三文役者じゃけ、何回も何回も
声を出して読まんとおぼえられんのよ。恥知らずな
こと書くなってんだ三文役者め」
というひとり突っ込み文体が最高の
殿山さんのエッセイを随所に引用しながら、彼の人となりを
著者は描いていく。
’
「タイちゃんが、突然人が変わったように痴呆状態に
堕ちこむ理由が分かった。おかあさんが恋しいのだ。
酒も女も母恋しさからくるのである。幼児生母から
離されたことが、よほどこたえたのだろう。その
突き刺さったトゲは、それこそタイちゃん流にいえば
ノーズイに深く刺さってしまったのだ」
’
「タイちゃんには社会の底辺に棲む弱者しか似合わない。
町工場のおっさん、ヤキトリ屋のおやじ、なまぐさい坊主、
いんちき祈祷師、大工、左官、一膳めし屋。
おでん屋お多幸の息子タイちゃんは、市井の名もなき
庶民の姿が一番似合った」
’
ジャズやミステリーをこよなく愛し、二人の女性の間を
アチラが立てばコチラが立たずと冗談を言いながら、
その実は優しくてどちらとも別れられない、気の小ささと
はっきりしない、煮え切らないところも、
「どうもどうものタイちゃん」と仲間から慕われた
名バイブレーヤー、殿山泰司。
’
一生かかっても僕にはなれない、憧れのひとりだ。
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