ご来場頂いた皆様、お足をお運び頂き本当にありがとうございました。
約4年振りの民藝東京公演参加。
当初嬉しい反面、複雑な気持ちだった。
セリフは3つ。
役に大小はない、とは言うものの…。
ネガティヴに考えていてはプロではない。
どうするべきかとても考えた。
作家は尾行する僕達の役はコミカルに書いた、と稽古初日に仰られた。
ならば爆笑をとるのではなく、場が和むような演技を考え続けた。
台本に無い言葉を言うのは新劇ではあまり見られないのだが、勇気を出して稽古で付け足していった。
イメージしたのは寅さんに出てくる佐藤蛾次郎さん。時々しか出てこないのにあの映画には欠かせない役者さんだ。
そのくらいの存在感を出せたら場数は少なくても自分のお客様に満足して頂けるのではないかと考えた。
試行錯誤、半信半疑の中、初日を迎えた頃にはセリフは8つになっていた。
お芝居全体の評判が良く、客席からの反応も予想通りのところ、予想外のところがあり、やはり最後は観客が創るものなのだと改めて感じた。
そこから教わり修正したりもした。
そのお陰か以前ご一緒した商業演劇に多数出演されている劇団の先輩に「ちゃんと笑いとってるね」と言われた。
その先輩に「客席の反応はドカンとした笑いではなく、さざなみのような笑いがいいんだよ。」と教わり、それを実践しようとしていたからとても嬉しかった。
新劇の場合は笑いを取りに行く演技は好まれない。それは下品になる。
だけど今回の作品においては構成上、場面の緩急をつける為にも笑いは必要だと思った。
場数は少ないが「場を和ませる」
それが今回の僕の役割だと考えた。
よく「自分の役は〜」と役者は口にする。
自分の役の生理に重きを置きがちになるが、「役」とは「役割」なのではないかと思う。その芝居においての役割を過不足なくやるように務める。それが役者の仕事なのではないだろうか。
その点から考えると緊張をするのは間違い。
集中はするが、役は緊張していないわけだし緊張したら喉も強張って声が通らない。動きも硬くなる。だからとにかく緊張しないように役割を務める事を心掛けた。
自然な演技をするのも今回の課題だった。
ただナチュラルにやるのではなく、本番でも硬くならずに舞台上で存在出来るように。予定調和にならずに相手役に集中してそれを受ける事から生まれる表現をすれば自然な演技に導かれるのではと考えて本番を重ねた。
以前と違う演技方法だったから、やってる実感がなく不安だったのだが、お客様から「自然で良かった」と感想を頂けたのでこの演技論はこのまま継続しようかと思う。
13回も紀伊國屋サザンシアターで本番の舞台を踏む事が出来たのはとても幸運でとても勉強になった。
この経験をしっかり胸に刻んで、次のステージに向かいたい。
次のステージはブロードウェイ・ミュージカル「口笛は誰でも吹ける」だ。
以前、外部出演した「フィレモン」の演出家のオーディション情報をキャッチして受けてみたら今回も出演させて頂く事となった。
歌あり踊りありのホントのミュージカル。
次の壁も高い壁のようだ。
芸の神様はその役者を見て、壁を作ると聞く。
ならば、その壁に立ち向かうしかない。
その結果は劇場に是非観にいらして下さい。
梶野 稔
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