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2019年04月24日

密室の中で


予期せぬ時に予期せぬ出来事が起きると、どうして良いか分からなくなる。

これは、俺が先日体験した話。

俺はその日、市内のデパートに買い物に行った。

デパートと言っても大手のところではなく、ちょいと古い小さなデパート。

雨が降っていたこともあり、平日の昼間、お客はあまり居なかった。

俺は5階にある紳士雑貨で目当ての物を買い、さて帰ろうと思ってエレベータに乗った。

上から降りてきたエレベータには、2人のお客が乗っていた。ちなみにエレベーターガールなんて洒落たものは居ない。

4階に着き、お客は2人とも降りる。エレベータには俺1人。

そのまま下がっていき、3階を過ぎたときだった。

突然エレベータが止まり、電気も消えた。

どうやら停電のようだった。

これには焦った。「うぉっ」とか素で言ってしまった。

誰も聞いてなくてよかった。

しばらくすればすぐ動き出すだろうと思ったが、どうにも落ち着かない。

なにしろこのエレベータ、窓がない。しかもなぜか非常灯もつかないので完全に真っ暗。このオンボロデパートめ。

明かりが欲しかったので、俺は携帯を取り出した。

ぼうっと明るくなる。なんとなく落ち着く。

エレベータ内の奥に立っていた俺。

携帯から顔を上げて何気なくドアの方を見た。

操作パネル板とは逆側の角に、誰かが後ろを向いて立っていた。

よくある、髪の長い白い服を着た・・・というものじゃなかった。

暗くて色はよく分からなかったが、ワンピースを着たショートカットの女性だった。

俺以外乗っているはずがないのに、そこに居た。

俺は固まった。ほんの数秒だろうけど、俺は動けなかった。

それを見たくなかったが、なぜか視線をそらせなかった。

心の中で、お願いだから振り向かないでくれ、と祈った。

声も出さないでくれ、動かないでそのままじっとしていてくれ、と祈った。

もしそいつがこっちを向いたり、何か、きっと恐ろしい声で何か言ってきたら、

俺は永遠に叫び続けることになると思った。

自分の叫び声で気が狂ってしまうと思った。

俺は携帯を切った。今度は明かりが怖かった。

馬鹿げてるかもしれないが、その明かりのせいで、そいつがこっちを向いてしまうのではないかと考えた。

徐々に暗闇に目が慣れてきた。そいつは相変わらず、角に頭を付けるような格好で、こちらに背中を向けて立っている。

俺はじっと固まっている。嫌な汗がたくさん出てきた。

・・・するとそいつが動いた。

背中を向けたまま、操作パネルの方に動いていった。歩いている感じではなかった。滑るように、音もなく動いた。

俺はなんとか叫ぶのを堪えた。声を飲み込んだ。

そいつは操作パネルの前に立った。

俺はもう、ガタガタ震えていたと思う。もうダメだ、もう限界だ、と思った。

そいつが手をあげて、最上階のボタンを押した。

暗かったはずなのに、そいつの指はよく見えた。爪も剥がれてボロボロの指だった。

そしてゆっくり振り向いて、低い、低い声でこう言った。

「何階から、落ちますか?」

死人の顔。言葉では言い表せない。

俺はそれと目を合わせてしまった。いや、目なんてなかった。黒い眼窩を見た。

俺は限界を超えた。俺の身体が、叫ぶために息を大きく吸い込んだ。

さぁ声の限り・・・という瞬間、パッと明かりが点いた。エレベータの稼動音がした。

アナウンスの声が聞こえた。

「一時的な停電により、お客さまには大変ご迷惑を〜・・・」

そいつは消えていた。

俺は無事に、エレベータから出ることができた。

あとで、昔そのデパートの屋上から飛び降り自殺をした女性が居る、という話を聞いた。

ああいった古い建物にはよくある話かもしれないが、俺は信じた。

俺はもう、あのデパートには行かない。

1人でエレベータには乗らない。

今度は無事に済む気がしない。

あの顔とあの声は、一生忘れられそうにない・・・。

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