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2019年03月30日

押し潰される


大学2年になってすぐの、ゴールデンウィーク前のよく晴れた日のことだったと思う。

午後の講義のために大教室へ入ると、友人のAが一番後の隅の席に座っていた。

相変わらず、授業を真面目に受ける気がない奴だと思った。

私が声をかけると、顔を上げて

「おう」

とだけいって、また元のように机に向かった。

何か読んでいるらしい。

覗き込んでみるとマンガのようだった。

「何それ?」

私が聞くと、

「岩田くんの冒険」

と、ぶっきらぼうに言った。

人気の少年マンガだった。

「面白い?」

「愚問だ。中毒になるぞ」

「ふーん」

そんなに面白いものなのだろうか。

「もうすぐ読み終わるから、貸してやるよ」

講義の後、私は

「岩田くんの冒険」

の第1巻を借り、大学の近くの土手に向かった。

草っぱらに寝っころがると、通る風が心地よい。

そのままうとうとしかけたが、学校でAに借りたマンガのことを思い出し、鞄から取り出して読み始めた。

内容は、林間学校で四国の山へ出かけた小学生たちのうちの一人が、オリエンテーリング中に道に迷って、山中の閉ざされた秘境の集落に入り込んでしまい、そこから出ることができなくなるというものだ。

その少年が岩田くんで、秘境の人々と一緒に暮らして友情を深めるという筋のようだ。

そして、岩田くんが秘境の人々と山から降りてきた巨人と戦い始めるシーンで1巻は終わっていた。

これは人気が出るのもわかるなーなどと考えながら、目をつぶっていると、急に周囲が暗くなった気がした。

不思議に思って目を開けると、ビルと同じぐらいの大きさの巨人がそこにいた。

一瞬、何が起こったのかわからなかった。

巨人はトラックほどもある巨大な手の平を私目がけて打ち下ろしてきた。

私は必死に転がるように逃げた。

巨人は追ってきて、なおも私を捕まえようとする。

その手の平と指の大きさは、指紋が木目のように波打つのがはっきりと見えるくらいだ。

息が上って動けなくなった私の頭上に手の平が落下するように迫り、頭に触れた感じがした瞬間、目が覚めた。

全身に汗をかいていた。

変わらず、春らしい風が吹いていた。

すぐ横に

「岩田君の冒険」

があった。

読み終わってそのまま眠ってしまったようだ。

夢にしては妙にリアルで迫力があった。

実際、心臓が尋常ではない速さで打っている。

喉が異常に渇いていた。

水を飲もうと立ちあがろうとしたら、何か違和感のあるものが視界の隅に入った。

目を凝らして見てみると、カバンに野菜くずのような赤黒いものがこびりついている。

つぶれたてんとう虫だった。

とっさに手の平を見た。

おそらくてんとう虫の体液だろう、緑とドブ色の液体が混ざり合ってついている。

「さっきの夢は……」

私は岩田くんではなく、てんとう虫だったのだ。

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