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2024年09月18日

シナジーのメタファーの作り方4

2.3 シナジーのトレーニング
 
 花村(2017)では、人文科学が専攻の人たちのためにシナジーのトレーニングとして組のアンサンブルを説明している。シナジーという研究の対象は、元々が組からなっているためである。例えば、手のひらを閉じたり開いたりするのも、肘を伸ばしたり畳んだりするのも運動でいうシナジーである。Lのモデルができるだけ多くの組を処理できるように、シナジーの研究のトレーニングとして三つのステップを考えている。
 まず、2.1に記したシナジーの組み合わせから何れかの組を選択し、研究の方向を決める。組み合わせについては、複数対応できることが望ましい。次に、選んだ組からLに通じるテーマを作るために、人文科学と脳科学という組のみならず、ミクロとマクロ、対照と比較の言語文学、東洋と西洋などの項目を考える。また、「トーマス・マンとファジィ」はドイツ語と人工知能という組であり、「魯迅とカオス」は中国語と記憶や精神病からなる組である。そこには洋学と漢学があり、また長編と短編という組もある。 

表1 テーマの組

テーマの組 説明
文系と理系  小説を読みながら、文理のLのモデルを調節する。
人文科学と社会科学  文献学とデータの作成または統計処理を考える。
言語と文学  対照と比較双方の枠組みで小説を分析する。
東洋と西洋  東洋と西洋の発想の違いを考える。例、東洋哲学と西洋哲学、国や地域における政治、法律、経済の違い、東洋医学と西洋医学。
基礎と応用  まず、ある作家の作品を題材にしてLのモデルを作る。次に、他の作家のLのモデルと比較する。
伝統の技と先端の技  人文・文化の文献学とシナジーのストーリーを作るための文献学(テキスト共生)。ブラックボックスを消すために、テキスト共生の組を複数作る。(人文と情報、文化とバイオ、心理と医学など)
ミクロとマクロ  ミクロは主の専門の調整、マクロは複数の副専攻を交えた調節。少なくとも縦に一つ(比較)、横にもう一つ取る(共生)。

 さらに、テーマを分析するための組が必要である。例えば、ボトムアップとトップダウン、言語理論と翻訳の実践、一般(受容)と特殊(共生)、言語情報と非言語情報など。

表2 分析の組

分析の組 説明
ボトムアップと
トップダウン  専門の詳細情報から概略的なものへ移行する方法。及び、全体を整える概略的な情報から詳細なものへ移行する方法。
理論と実践  すべての研究分野で取るべき分析方法。言語分析については、モンターギュの論理文法が理論で、機械翻訳が実践になる。
一般と特殊  小説を扱うときに、一般の読みと特殊な読みを想定する。前者は受容の読みであり、後者は共生の読みである。
言語情報と
非言語情報  前者は言語により伝達される情報、後者はジェスチャーのような非言語情報である。
強と弱  組の構成要素は同じレベルでなくてもよい。両方とも強にすると、同じ組に固執するため、テーマを展開させにくくなる。

 このようにして、Lのストーリーとデータベースから組のアンサンブルを調節し、トーマス・マンの「魔の山」、魯迅の「狂人日記」と「阿Q正伝」、鴎外の「山椒大夫」と「佐橋甚五郎」について考察した。計算と文学のモデルは、こうした調節が土台になっている。

花村嘉英(2018) 「シナジーのメタファーの作り方について」より
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花村嘉英
花村嘉英(はなむら よしひさ) 1961年生まれ、立教大学大学院文学研究科博士後期課程(ドイツ語学専攻)在学中に渡独。 1989年からドイツ・チュービンゲン大学に留学し、同大大学院新文献学部博士課程でドイツ語学・言語学(意味論)を専攻。帰国後、技術文(ドイツ語、英語)の機械翻訳に従事する。 2009年より中国の大学で日本語を教える傍ら、比較言語学(ドイツ語、英語、中国語、日本語)、文体論、シナジー論、翻訳学の研究を進める。テーマは、データベースを作成するテキスト共生に基づいたマクロの文学分析である。 著書に「計算文学入門−Thomas Mannのイロニーはファジィ推論といえるのか?」(新風舎:出版証明書付)、「从认知语言学的角度浅析鲁迅作品−魯迅をシナジーで読む」(華東理工大学出版社)、「日本語教育のためのプログラム−中国語話者向けの教授法から森鴎外のデータベースまで(日语教育计划书−面向中国人的日语教学法与森鸥外小说的数据库应用)」南京東南大学出版社、「从认知语言学的角度浅析纳丁・戈迪默-ナディン・ゴーディマと意欲」華東理工大学出版社、「計算文学入門(改訂版)−シナジーのメタファーの原点を探る」(V2ソリューション)、「小説をシナジーで読む 魯迅から莫言へーシナジーのメタファーのために」(V2ソリューション)がある。 論文には「論理文法の基礎−主要部駆動句構造文法のドイツ語への適用」、「人文科学から見た技術文の翻訳技法」、「サピアの『言語』と魯迅の『阿Q正伝』−魯迅とカオス」などがある。 学術関連表彰 栄誉証書 文献学 南京農業大学(2017年)、大連外国語大学(2017年)
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