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2021年10月03日

リスク社会学の観点からマクロに文学を考えるー危機管理者としての作家について11

5 社会とリスク−社会学的な意義

 作家としての人間の条件に危機管理者を設定し、社会とリスクという観点に立って、シナジーのメタファーから集団の脳の活動について社会学的な意義を考察する。
 リスクと危険の違いについては、上述したように、リスクは、人間が何かを選択したときに生じる不確かな損害のことであり、危険は、損害が生じる恐れのあることである。リスク社会という概念は、ドイツの社会学者ウルリッヒ・ベック(1944−2015)により提唱された。リスクとは、チェルノブイリ原発のような破壊的な結果をもたらし、地球温暖化による生態系の破壊もその例となり、発生する確率が低いまたは計算不能と いった特徴がある。大都会で発生する無差別テロも新しいタイプのリスクである。
 さらにベックのリスク社会論は、家族社会学の中にも一例を見ることができる。橋爪他(2016)では、産業化によって社会が自ら生み出した様々な問題に対処する必要があるため、社会それ自体がリスクになる可能性があるとし、リスク社会の到来を告げている。その結果、リスクや社会の矛盾への対処が家族の拘束力を弱め、それにより個人化が進み、未婚、晩婚、少子化、離婚などが合法化されている。
 リスク回避の計算でみると、当初は個人的な問題に影響していたものが、次第に組織やその運営に関わるということから統計で表示できるリスクになり、予測可能なできごとになっていく。ベックは、予測可能なできごとが個人レベルを越えた、承認、補償、回避のための政治的なルールに属すると指摘している。
 生活世界で安全が保たれていれば、無意識は、意識されていない状態とか、もはや意識されない状態にある潜在的な意識として理解されることが多い。しかし、生活世界の認識と言外の確実性は、関連づけて理解しなければならない。つまり、低レベルの専門知識ではなく、高度で専門的な合理性が重要となり、他の専門家が計算した結果を問題にしてもよい。但し、リスクの警告にはまらないようにすること。突如として急進的な形態になることもある。

花村嘉英(2019)「リスク社会学の観点からマクロの文学を考察するー危機管理者としての作家について」より
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花村嘉英
花村嘉英(はなむら よしひさ) 1961年生まれ、立教大学大学院文学研究科博士後期課程(ドイツ語学専攻)在学中に渡独。 1989年からドイツ・チュービンゲン大学に留学し、同大大学院新文献学部博士課程でドイツ語学・言語学(意味論)を専攻。帰国後、技術文(ドイツ語、英語)の機械翻訳に従事する。 2009年より中国の大学で日本語を教える傍ら、比較言語学(ドイツ語、英語、中国語、日本語)、文体論、シナジー論、翻訳学の研究を進める。テーマは、データベースを作成するテキスト共生に基づいたマクロの文学分析である。 著書に「計算文学入門−Thomas Mannのイロニーはファジィ推論といえるのか?」(新風舎:出版証明書付)、「从认知语言学的角度浅析鲁迅作品−魯迅をシナジーで読む」(華東理工大学出版社)、「日本語教育のためのプログラム−中国語話者向けの教授法から森鴎外のデータベースまで(日语教育计划书−面向中国人的日语教学法与森鸥外小说的数据库应用)」南京東南大学出版社、「从认知语言学的角度浅析纳丁・戈迪默-ナディン・ゴーディマと意欲」華東理工大学出版社、「計算文学入門(改訂版)−シナジーのメタファーの原点を探る」(V2ソリューション)、「小説をシナジーで読む 魯迅から莫言へーシナジーのメタファーのために」(V2ソリューション)がある。 論文には「論理文法の基礎−主要部駆動句構造文法のドイツ語への適用」、「人文科学から見た技術文の翻訳技法」、「サピアの『言語』と魯迅の『阿Q正伝』−魯迅とカオス」などがある。 学術関連表彰 栄誉証書 文献学 南京農業大学(2017年)、大連外国語大学(2017年)
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