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2021年10月03日

リスク社会学の観点からマクロに文学を考えるー危機管理者としての作家について5

3 危機管理者としての作家の役割

 通常、人は、リスクに結びつくことをしないように心掛ける。しかし、より合理的であ
ろうとすると、そこにはリスクが生まれる。(バウマン/メイ 2016)つまり、グローバル
化の合理性を深追いすると、そこには落とし穴が待っている。一方にローカライズがあ
る。リスクを想定し原因を回避できるように局所化を工夫する。リスクの原因を誤ったと
ころに置かないように気を付けるためである。
 パイロットとか救急医療または株式市場の現場で働くエキスパートと同様に、作家もリ
スク回避をテーマにして作品を書いている。(花村 2017) 例えば、トーマス・マンは、20
世紀の前半にドイツの発展が止まることを危惧して小説や論文を書き、魯迅は、作家とし
て馬虎という精神的な病から中国人民を救済するために小説を書いている。また、森鴎外
は、明治天皇や乃木大将が亡くなってから、後世に普遍性を残すために歴史小説を書い
た。
 ナディン・ゴーディマも南アフリカの白人社会の崩壊を目指す反アパルトヘイト運動に
白人がどのように関与できるのかを自問し、世の中の流れに逆流する自国の現状に危機感
を抱き、何らかの形で革命に関わりたいという意欲を持っていた。花村(2018b)では、
こうした作家の脳の活動が南アフリカの将来を見据えたリスク回避といえるため、特に、
「意欲と適応能力」に焦点を当てて「ブルジョア世界の終わりに」の執筆脳を考察した。
 さらに前頭葉の働きからゴーディマとの性差を交えて、井上靖の「わが母の記」に描か
れたリスク回避についても触れている。(花村 2018a) 実母の認知症の症状が段階的に進
み、それに伴う世話で疲労した家族の崩壊さながらの様子がテーマであり、高齢化社会を
むかえた現代社会では、日本でも中国でも皆が思い当たる実例である。

花村嘉英(2019)「リスク社会学の観点からマクロの文学を考察するー危機管理者としての作家について」より
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花村嘉英
花村嘉英(はなむら よしひさ) 1961年生まれ、立教大学大学院文学研究科博士後期課程(ドイツ語学専攻)在学中に渡独。 1989年からドイツ・チュービンゲン大学に留学し、同大大学院新文献学部博士課程でドイツ語学・言語学(意味論)を専攻。帰国後、技術文(ドイツ語、英語)の機械翻訳に従事する。 2009年より中国の大学で日本語を教える傍ら、比較言語学(ドイツ語、英語、中国語、日本語)、文体論、シナジー論、翻訳学の研究を進める。テーマは、データベースを作成するテキスト共生に基づいたマクロの文学分析である。 著書に「計算文学入門−Thomas Mannのイロニーはファジィ推論といえるのか?」(新風舎:出版証明書付)、「从认知语言学的角度浅析鲁迅作品−魯迅をシナジーで読む」(華東理工大学出版社)、「日本語教育のためのプログラム−中国語話者向けの教授法から森鴎外のデータベースまで(日语教育计划书−面向中国人的日语教学法与森鸥外小说的数据库应用)」南京東南大学出版社、「从认知语言学的角度浅析纳丁・戈迪默-ナディン・ゴーディマと意欲」華東理工大学出版社、「計算文学入門(改訂版)−シナジーのメタファーの原点を探る」(V2ソリューション)、「小説をシナジーで読む 魯迅から莫言へーシナジーのメタファーのために」(V2ソリューション)がある。 論文には「論理文法の基礎−主要部駆動句構造文法のドイツ語への適用」、「人文科学から見た技術文の翻訳技法」、「サピアの『言語』と魯迅の『阿Q正伝』−魯迅とカオス」などがある。 学術関連表彰 栄誉証書 文献学 南京農業大学(2017年)、大連外国語大学(2017年)
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